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「小さい」は笑いのアドバンテージ 松竹新喜劇の新スター藤山扇治郎

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松田健次
笑いの場において体が「小さい」ことは、大きなアドバンテージだ。

それは単に、平均サイズに対して「小さい」という違和感による滑稽だったり、「小さい」イコール「弱者/小市民」、「大きい」イコール「強者/権力者」という印象がもたらす共感だったり、理由が幾つかある。

この、「小さい」という身体性が笑いに有利に作用してきたという見方はチャーリー・チャップリンの時代からある。その例をニッポンの笑芸史に照らせば、昭和の喜劇王エノケン(榎本健一)に始まり、現在に至ってナインティナイン岡村隆史、SETでの小倉久寛、宮藤官九郎作品での阿部サダヲ等々が思い浮かぶ。

この、生まれつきでしか獲得できない「小さいという才」に恵まれ、その行く末を先々見ていきたいネクストプレイヤーが松竹新喜劇の藤山扇治郎(ふじやませんじろう)だ。

松竹新喜劇の若き座長は喜劇王の孫

藤山扇治郎は現在31歳、浪花の喜劇王・藤山寛美の孫であり、女優の藤山直美が伯母(扇治郎の母の姉が直美)という、藤山の遺伝子を継ぐ、松竹新喜劇の若き座長だ。

自分が藤山扇治郎を最初に目撃したのは、2015年9月に新橋演舞場でかかった「松竹新喜劇 新秋公演」での演目「お祭り提灯」(作:舘直志)だった。

恥ずかしながら松竹新喜劇に対してはあまり詳しくなく、「お祭り提灯」という演目が指折りの傑作だと知人から背中を押され観に行ったのだが、果たしてそれは推薦通りで、大金を巡って善悪が追いつ追われつとなるシンプルな展開は磨き抜かれ、寸分の無駄もないシナリオによる約40分程の爆笑短編だった。観劇後の満足はとても大きかった。

それまで、時代遅れでアナクロなイメージを少なからずも松竹新喜劇に抱いていたがこの一本で一変した。「演目によって」というカッコは付くが、時代の推移に拠らず物語の力が人間のおかしさを描き出して笑わせる、そういう名作の財産が松竹新喜劇にはあるのだと。

そしてこの時の「お祭り提灯」で物語の鍵をにぎり、大人たちを翻弄する丁稚の三太郎を演じていたのが当時28歳の藤山扇治郎だった。

丁稚は藤山寛美の当たり役だ。扇治郎は松竹新喜劇に正式入団した2013年よりこの役に挑んでいる。だが、いくら孫とは言え、まだ20代半ばの若者が名人が練磨してきた当たり役をにわかに我がものとすることなど、叶うはずもない。これは松竹が遠い将来を見据え、扇治郎を名実ある看板に育てるために課した、避けて通れぬ試練のとば口に他ならなかった。とにかく場数を踏んで重ねていけと。

(それはまるで1970年代後半、全日本プロレスでジャイアント馬場が愛弟子ジャンボ鶴田に課した「ジャンボ鶴田試練の十番勝負」のような…)。

ゆえに扇治郎は、寛美が築きあげた「型」を手本とし、まずそれをなぞることに徹し、「型」を体に入れるプラクティスとして丁稚の三太郎を演じていた。だから舞台上には名人寛美には到底及ばない「それらしきもの」「ものたりぬもの」が立ち、懸命に丁稚を演じていた。客席はそれを微笑ましく見守るという構図だった。

であるのだが、しばらく眺める内に、丁稚の役作りとは別のところで藤山扇治郎に目を引かれていく自分に気づいた。それは、彼のたたずまいだった。動と静、全身の軸がぶれずに板(舞台)に収まっていて、そのたたずまいがいいのだ、

舞台に上がる役者は数え切れないが、たたずまいがいい役者となるとその数は別口だ。(現代劇の場合はそれも捉え方次第だろうが)こと時代劇となると安易に体は誤魔化せない。和物での立ち振る舞いは、「なんとなく」が通用しない世界だ。わずかな手の上げ下げも、ほんの一歩の踏み出しも、肉体の動きを律する裏付けが曖昧だと脈絡のなさが浮き上がってしまう。

これは、氷上に立つフィギュアスケーターと一般人ぐらい違ったりする。羽生結弦と羽生ゆずれないぐらい違う。と言うと逆にわかりづらいか? 名前を挙げるのが忍びないが、今春スタートした時代劇ドラマ「くノ一忍法帖蛍火」(BSジャパン)で主演するベッキーを見ればわかる。(しかしこれが、時代劇にベッキーというぎこちなさ見たさに、結局欠かさず視聴する忍法にまんまとやられてしまってもいるのだが)。

こうして、おぼつかない丁稚役ながらも初見の藤山扇治郎に好印象を抱いたのは、たたずまいの良さ、別の言い方を用いるなら、体のさばきぶりに感心したからだった。

あとになってだが、扇治郎は幼少より日本舞踊を習い、父親が小唄の家元という家庭に育ち、身体の内に「和」の素養が仕込まれていたことを知る。なるほど、そういう歩みがあのたたずまいの裏付けとなっていたのかと。

しかも藤山扇治郎は小さかった。笑いの場において体が「小さい」ことは、大きなアドバンテージだと先述したが、その小ささは喜劇役者の道において、大きな味方に引き寄せる可能性を秘めている。

おそらく関西圏での知名度に比べたら関東圏での知名度は低く、全国区にその名を知られるにはまだ時間がかかるだろう。だが、藤山扇治郎という役者は芝居の道にある限り、祖父・藤山寛美と伯母・藤山直美が頂きで待つフジヤマという険峻をひたすら登り続けなければならない宿命にある。その節目節目で伯母は「まだまだや!」とドンキーコングの如く上から樽を投げつけたりするだろう。たぶん。それも含めての「ロード・オブ・フジヤマ」という伝承物語を扇治郎は背負っているのだ。

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