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10年後、私たちは培養肉を食べている インテグリカルチャー - 羽生雄毅(Shojinmeat Project代表・インテグリカルチャー)

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女子高校生やOLが自宅で肉を培養。それだけでも衝撃的なのだが、その方法を冊子にまとめてコミケで頒布しているという。畜産農家が時間をかけ、手をかけてつくる食肉の概念が揺らぐ。まさか「肉を培養する時代」になろうとは……。しかし、そうした時代は目前に来ているらしい。


1985年生まれ。2006年オックスフォード大学化学科卒業。2010年、同学博士課程修了。東北大学と東芝研究開発センターを経て、2015年、インテグリカルチャー(株)を設立。日本初の人工培養肉プロジェクト「Shojinmeat Project」を立ち上げる(撮影:編集部)

SFの定番、培養肉が食卓に並ぶ

 急増する人口と、それに伴うたんぱく質需要の拡大は、世界の食の安全保障を危うくしている。そうした状況は、たんぱく源確保と環境問題の解決に向けて、アメリカを中心にいくつかのスタートアップを誕生させた。

植物由来の肉の代替品を開発したビヨンド・ミートやインポッシブル・フーズ、動物の細胞を培養して肉をつくるメンフィス・ミーツやモサ・ミート(オランダ)はその代表だ。
もちろん、日本にも培養肉を研究する研究者がいる。羽生雄毅氏だ。

――そもそも、なぜ培養肉をつくろうと考えたのでしょう。

羽生:SF映画に出てくるからです。『ドラえもん』にも『ジャングル大帝』にも、出てきますよね。培養肉はSFの定番です。

――ということは、子どもの頃から考えていた?

羽生:5歳くらいでこういうものがあるんだと知り、いつかSF的なことを実現しようと、この方向に走ってきたような気がします。
培養肉のほかに、宇宙船とか火星工場もあるなと考えてはいたのですが、これらはまだ少し先の話だろう。それなら、自分の専門分野である有機生物寄りの化学でやってみよう、と培養肉の研究を始めました。

 まさかの回答であった。国連が発表した「世界の食料安全保障と栄養の現状2017」によると、飢餓人口は世界人口の11%に当たる8億1500万人に達している。「食料問題解決の一助になれば」などという正義感満載の答えが返ってくるものと想像していた凡人はたじろぐしかない。

 羽生雄毅氏は細胞培養によって純粋培養肉をつくることを目的とするShojinmeat Projectの代表であると同時に、その大量生産を目指す企業・インテグリカルチャーの代表でもある。

 純粋培養肉とは、その名の通り生物の細胞を培養液内で培養してつくる肉のことで、羽生氏らはこれを「純肉」と呼んでいる。

実は、この名称に落ち着くまでにはさまざまな議論があったらしい。名称によって消費者のイメージは大きく変わる。アメリカでは「クリーンミート」と呼ばれ始めている。これを日本でどう呼ぶかという時、羽生氏らはカタカナ語をこれ以上増やすのはやめようということで「純肉」にしたのだという。

 日本ではまだ馴染みの薄い純肉だが、2013年にはロンドンで人工肉のハンバーガーの試食会が開かれている。この研究を進めたのは、モサ・ミートの創立者の一人であるオランダの生理学者マーク・ポスト氏。試食会の培養肉200gの製作にかかった費用は2,800万円といわれている。

 羽生氏は、この非現実的な金額を画期的に抑えることに成功した。従来の細胞培養では培養液に最もコストがかかっていたが、これを見直すとともにフロー方式の大規模細胞培養にすることで、100g当り数百万円だったコストを、3万円以下に抑える技術を開発したのだ。あとは規模の経済の問題で、製造原価で100gあたり20円を目指すという。

「細胞農業」と「再生医療」の同時進行が新しい世界をつくる

――動物の細胞なら何でも培養できますか?

羽生:牛であろうと鶏であろうと、まったく問題ありません。もちろん、人の細胞でも可能です。前者は「細胞農業」といわれる分野、後者は「再生医療」といわれる分野です。この二つは非常に近い関係で、相乗効果も大きい。

 たとえば、iPS細胞からつくった網膜細胞の移植手術がニュースになりましたが、あの時は1億5000万円かかっています。再生医療はコストがかかりすぎることが現在の課題になっていますが、そこに細胞農業の技術が入ればかなり安くできます。
ただ、医療の場合は法的規制が非常に厳しい。その点、食料の場合のハードルはそこまで高くないという違いがあります。

 しかし、将来は「ハツ100g当り100円」なんて感じで人の心臓ができるようになるかもしれません。

――体の一部として使われるか、口に入るかの違いだけということですか。

羽生:アプローチはかなり違います。なぜ細胞培養が高くつくのかといえば、「極少量、超精鋭」だからです。あたり前ですが、再生医療では99.99のあとにさらに9が6つも7つも続く完成度の高さが求められます。

しかし、食品の場合はそこまでは求められていません。私たちが培養液を見直し、コストの削減に成功したのも、再生医療の培養方法は食肉の培養にはオーバースペックだったためです。

 また、医療ではすべてのモノにトレーサビリティが求められます。つまり、モノそのものとは関係ないところで膨大なコストがかかるのです。
しかし、食品の場合はどの農園のだれがつくり、どの流通センターを通ってきたかがわかればよい程度。だから私たちは、ここから入ることにしたのです

 純肉のメリットの一つに安全性がある。

日本でも2001年あたりから問題になった狂牛病は、食品業界だけでなくさまざまな業界を巻き込んで市民生活に影響を与えた。純肉ならこうした問題は回避できるというわけだ。また、食中毒などの病原菌を減らせることもメリットの一つだ。工場で生産される純肉は、少なくともその生産のプロセスにおいては管理されており病原菌が入り込む可能性は低くなる。

 さらに、羽生氏は「デザイナーミート」という言葉を使って、さまざまな肉の可能性を示唆している。たとえば、「牛肉だけれど脂は魚脂」「DHA・オメガ6を増強した肉」といったように、肉に新しい機能を付加することも可能だという。ここまでくると、SFの世界に入ってしまった気になるのだが、羽生氏の軽快な口調は「そうなるのかも」という気にさせるから不思議だ。

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