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新潟女児殺害事件、通学路に「入りやすく見えにくい場所」 - 小宮信夫 (立正大学文学部教授)

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 新潟市で小学2年の女児が下校中に殺害され、遺体が線路上に遺棄された事件。

今回も相変わらず、「人」にばかり注目し、やれ「不審者を探そう」だの「不審者情報を共有しよう」だのといった有害無益な提案が飛び交っている。「子どもの見守り活動や地域のパトロールを強化すべき」とか「防犯カメラを増設すべき」といった意見も聞かれるが、今のようにそれらが「人」を対象としている限り、防犯効果を発揮することはない。

 見守るべき対象も、見張るべき対象も、「人」ではなく「場所」である。
その理由については、「『不審者に気をつけて』で子どもを狙う犯罪は防げない」「『宮崎勤事件』で起きた『ボタンの掛け違い』、なぜ子どもの誘拐殺人事件は繰り返されるのか」を参照していただくとして、ここでは、私自身が、新潟女児殺害事件の現場周辺を歩き、その景色を診断した結果を報告しよう。

 最初に断っておきたいのは、ここでの報告は、あくまでも犯罪機会論的な景色解読の方法を示したものであり、決して事件自体の推理を示したものではない、ということである。

ただし、ベースにした素材は、今回の事件に関して報道されている情報であり、その犯行パターンを整理するために、プロファイリングの技術を使っている。

(編集部注:記事は犯人の逮捕前に書かれたものです)

誘拐事件の3つのステージ

 子どもの誘拐事件は、基本的に、物色→接触→連れ去りという3つの段階から成る。事件当日よりも前に物色段階が完了していれば、つまり、あらかじめ今回の被害女児(大桃珠生さん)に狙いを定めていたなら、事件当日は、待ち伏せ、遭遇(偶然の出会い)、あるいは約束(必然の出会い)ということになる。
一方、不特定多数の子どもからターゲットを選ぶ場合、つまり、連れ去るのはだれでもよかったのなら、事件当日もまだ物色の段階である。

 写真1は被害女児が通っていた小学校の前から大通りへ出るところ。真ん中に見えるのは、テナントビルの駐車場だ。


写真1

 この場所は、複数の事業者が使っている場所なので、無関係の者が車を止めても、どこの事業者の顧客なのか分からず、とがめられる可能性は低い。こうした、だれもが「入りやすい場所」は、特定の子どもを待ち伏せしたり、子どもを物色したりする場所にはもってこいだ。ただし、歩きの犯罪者には不向きである。

 歩きの犯罪者にとって、待ち伏せしたり物色したりするのにうってつけの場所が店舗だ。写真2は被害女児が歩いていた幹線道路沿いのコンビニ。ここなら、車を使った犯罪者も利用できる。


写真2

 ただし、防犯カメラが設置されているので、犯行が発覚するかもしれないと考える犯罪者は、ここは利用しない。犯行が発覚したときに録画映像に基づいて簡単に逮捕されてしまうからだ。

 しかし、多くの誘拐犯は、犯行は発覚しないと信じ切っている。というのは、彼らは、連れ去った後、性的行為を犯すものの性犯罪だと感づかれない程度にとどめ、女児が被害に気づく前に解放するつもりだからだ。

 殺害事件でも、誘拐当初から殺害目的があるケースは少数である。
例えば、2004年に、奈良市で下校中の女児が誘拐され、殺害された事件では、自宅に連れてきてから宿題を手伝ったりしていたが、浴室内で抵抗されたため、カッとなって水死させたという。

 また2011年に、熊本市のスーパーマーケットで女児が殺害された事件では、防犯カメラが10台も設置されていたにもかかわらず、店内で4時間物色していた犯人が女児を多目的トイレに連れ込んだ。その後、トイレの外から女児を捜す声が聞こえ、ドアをノックされたため、パニックに陥った犯人が、女児の口をふさぎ、首を圧迫し、窒息死させてしまった。

 こうした、犯行がバレないと思っている自信家には、防犯カメラの脅しは通用しない。

 身を隠しながら、待ち伏せや物色するのであれば、空き家が好都合である。連れ込む場所や秘密裏に会う場所としても使える。写真3は被害女児の自宅近くの生活道路。
右側に見えるのは、空き家化している社員寮だ。


写真3

 この場所も、部屋まで難なく入れるので「入りやすい場所」である。もっとも、寮に通じる道路の入り口にロープが張られていれば「入りにくい場所」になるのだが、現状は、残念ながら張られていない。

子どもとのコンタクトポイント

 こうして、物色段階が完了した犯罪者は、次に接触の段階へと移る。路上誘拐の場合には、公園や駐車場からの連れ去りと異なり、接触段階へと移る過程で尾行が必要になる。

もっとも、尾行するだけでは逮捕されないので、犯罪者は安心してターゲットについて行く。その間、犯罪者は景色を観察しながら、どこならだれからも目撃されずに接触できるかを探っている。

 車の中で待ち伏せしていた場合には、そのまま車で尾行するか、車から降りて歩いて尾行することになる。2014年に、埼玉県朝霞市で下校中の少女を連れ去った犯人は車で尾行し、同年、神戸市長田区で自宅近くの路上を偶然歩いていた女児を連れ去った犯人は徒歩で尾行していた。

 尾行中に犯罪者が「入りやすく見えにくい場所」を発見すると、そこがコンタクトポイントになる。

2013年に、三重県朝日町でスーパーから徒歩で少女を尾行し窒息死させた犯人が背後から襲ったのは、殺害現場となった空き地に「入りやすく」、周囲に畑や草むらが広がる「見えにくい」道路だった。また2004年に、奈良市で下校中の女児を尾行し水死させた犯人が女児に声をかけたのは、植え込みが途切れた歩道、つまり女児が簡単に車に乗り込める「入りやすい場所」、そして道の両側に一軒家がない「見えにくい場所」だった。

写真4と写真5は、今回の被害女児が下校時に友達と別れた踏切付近から、自宅へと向かう線路沿いの生活道路である。


写真4


写真5

 この道は、ガードレールがない「入りやすい場所」だ。車を使った犯罪者なら、この景色を見て、「だますにしろ、拉致するにしろ、車に乗せるのは容易だ」と思うに違いない。幹線道路に近い「入りやすい場所」でもあるので、誘拐した後、「あっという間に遠くへ逃げられる」とさえ思うかもしれない。

 またこの道は、人の視線が届かない「見えにくい場所」だ。写真の右側は、線路が続き、その敷地の幅の分、線路沿いの住宅の窓が遠ざかっている。写真の左側には住宅があるが、高い塀や生垣、シャッターや擁壁といった、窓からの自然な視線を路上に届きにくくする工作物がある。車を使った犯罪者も、歩きの犯罪者も、この景色を見れば、「だますにしろ、拉致するにしろ、犯行の一部始終が目撃されることはない」と考えるだろう。

 唯一、犯罪者が気にするとしたら、写真4の真ん中に見える、赤い屋根の家の窓だ。しかし、気にすべき景色が1カ所であれば、犯罪者はそれほど脅威には感じない。なぜなら、子どもに近づく直前に、こちらを見ているかどうかを最終確認できるからだ。2007年に、兵庫県加古川市で女児が自宅前で刺殺された事件でも、最終確認しなければならなかったのは、現場前の住宅の窓だけだった。

 これに対して、気にすべき景色が2カ所ある場合には、同時に最終確認できないので、犯行の着手を躊躇せざるを得ない。ただし、写真5の景色のように、犯罪者にとって気になるのが、正面と背面の道にいる車や人だけなら、その道の見通しがよければよいほど、驚異にはならない。近づいてくる人の有無を、はるか手前から確認できるからだ。

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