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枝野幸男氏が特別寄稿「オフレコ発言と政治記者の関係」 - 枝野 幸男

「ああいった(加計学園問題の)国会審議を続けてもしょうがないだろ」(安倍首相)「民進党全員で希望の党に合流すると聞いたよ」(枝野代行代行=当時)など、直に聞いた政治家たちの肉声を赤裸々に描いて話題の『恩讐と迷走の日本政治 』。同書の主役のひとりともいえる立憲民主党代表・枝野氏が、親しくも緊張感にはらむ記者との関係を明かす。

◆◆◆

対立する双方当事者から本音を引き出す


『恩讐と迷走の日本政治 記者だけが知る永田町の肉声ドキュメント』(青山和弘 著)

 本書は、昨年秋の総選挙を中心とした政治の激動を、同時進行で積み重ねられた取材結果に基づき、背景にまで迫って全体像を描いた政治ドキュメントである。

 実は、政治部の記者が政治ドキュメントを執筆するのは難しい。政治が「ドラマ」性を帯びて読み応えあるドキュメントとなるのは、立場の異なる当事者間の対立や緊張が極度に顕在化する場面であり、取材によってその双方から「秘話」や「本音」を引き出すことではじめて、内容の深みがでる。一方の当事者を詳しく描きこむことで全体像を示すことも可能ではあるが、対立する当事者双方に深く食い込み取材することで、全体像がより見えやすくなるのは間違いない。

 ところが、多くの現場の記者は、原則として担当制であるため当事者の一方にしか取材しない。デスクや政治部長等のベテランは、現場から距離が出て当事者に直接取材する機会が大幅に少なくなる。しかも、政治家から「公式見解」を超える本音を引き出すには、相当な信頼関係が必要である。対立する双方当事者から本音を引き出すには、双方から信頼を得る人間力が欠かせない。

 私は、著者の青山和弘氏と、まだ30歳そこそこの若手議員であったころから、記者と取材を受ける政治家という立場で、20年来の付き合いである。最初から、人当たりが良く取材力があるというのが印象であった。そして、ベテラン記者と呼んで良い立場になっても、マメに現場の当事者に直接取材するためフットワーク軽く動いている。

安倍総理と近い記者に本音を語ること 

 ちなみに政治記者の取材力とは、政治家の側からみると二つの側面がある。

 一つは、公式の記者会見などで、いかに「話したくないことを喋らせるように追い込むか」という力である。この場合、真正面から聞いても身構えてかわすことが多いから、側面から、しかし本質に切り込む聞き方の技術が重要になる。

 もう一つは、いわゆる「オフレコ」で本音を聞き出す力である。オフレコであっても、当事者の本音を知ることで、表に出た現象を正しく分析したり、次の展開を予測したりすることが可能になる。

 とはいえ、多くの政治家は、いかにオフレコでもそう簡単に本音を話さない。オフレコで本音を話すのは、表面に出てくる現象を誤解なく受け止めて欲しいという意図だから、様々な経緯や背景事情について勉強不足で、発言の真意を間違って受け止めそうな記者には、決して本音を話さないのである。しかも、オフレコの話を、対立する相手方に「ご注進」されてはたまらないから、何よりも信頼関係が重要である。

 青山氏は、これまでの間に、私だけでなく、安倍総理をはじめ与野党を超え対立関係にある双方の政治家と、本音を引き出せる信頼関係を築いてきた。本書は、その中で得られた取材結果から、表に出た現象だけでは分からない政治的動きの背景にまで迫っている。

 私は従来から、青山氏が、安倍総理や前原誠司議員などにも相当「食い込み」、信頼関係を築いていることは知っていたが、私に対する取材において、青山氏が、安倍総理から取材したと思われることなどを不用意に話したことは決してない。だから私は、青山氏が安倍総理とも近いであろうと思っても、信頼して本音を語ることができる。

日々の報道では絶対に伝わらない背景や経緯の真相

 政治は、国民に対して嘘をついてはいけないが、他の政治勢力との「駆け引き」が伴うことは否定できない。その中で政治の動きを正しく深く客観的に伝えるには、青山氏のように、対立する双方から信頼を得る人間力が不可欠である。

 残念ながら、最近の政治報道には、一方の主張や当事者のみに明確に肩入れし、記者などが当事者である政治家の代弁者のように見えるケースが目立っている。

 政治記者を志すからには、それぞれに政治的な思いが強いであろうし、取材過程で特定の政治家に肩入れしたくなることも少なくないであろうと思う。そのこと自体には、私は肯定的である。しかし、そうした個人的な思いを秘めつつも、立場を超えた信頼関係を築くことで、本音を引き出し、真実に迫るのがプロの取材者であると思う。

 本書にある私の「オフレコ」での青山氏に対する発言も、すべてが「本音」という訳ではない。おそらく安倍総理についてもそうであろう。どんなに信頼関係があっても、腹の内をすべてさらけ出すようでは政治的リーダーとして務まらない。

 しかし、プロ中のプロと言える青山氏の取材力と人間力で、日々の報道では絶対に伝わらない背景や経緯の真相に、しかも与野党双方について、限界まで迫った画期的で価値の高い内容となっている。しかも、場面ごとの記述が「人間ドラマ」として読み応えのあるものとなっており、私も、登場人物の一人でありながら、小説を読むような面白さで一気に通読してしまった。

 現在の政治状況に強い関心をお持ちの方には、その背景や真相に迫る上で必読の一冊であるのはもちろんのこと、そうでない方にも政治に関心を持つきっかけとなりうる一冊である。

あおやま かずひろ
1968年5月6日、千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。1992年4月、日本テレビ放送網入社。社会部警視庁クラブ担当を皮切りに、政治部官邸クラブ、政治部与党クラブ、キャスター室兼政治部などで、記者、キャスターとして活躍。2004年に、政治部野党クラブキャップ、政治部自民党クラブキャップ。2006年12月、「NEWS ZERO」デスク。2007年12月、政治部国会官邸キャップ。2011年7月、外報部ワシントン支局長。2014年1月、報道局解説委員兼政治部副部長。
えだの ゆきお
1964年5月 31日、栃木県宇都宮市生まれ。東北大学法学部卒業後、24歳で司法試験に合格し、弁護士となる。1993年、旧埼玉 5区から衆議院議員に初当選。民主党政権で、内閣官房長官、経済産業大臣、内閣府特命担当大臣[行政刷新、沖縄及び北方対策]、民主党幹事長等を務める。現在、立憲民主党代表。


恩讐と迷走の日本政治 記者だけが知る永田町の肉声ドキュメント

青山 和弘(著)

文藝春秋
2018年4月13日 発売

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