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特集:5月は首脳会談の季節

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今週5月9日には、都内で第7回目の日中韓サミットが開催されました。中国と韓国の首脳が日本を訪れるのは久々のこと。それは結構なことですが、その直前の5月7-8日には金正恩委員長が訪中し、大連で2度目の中朝首脳会談を行っていたことが分かりました。もちろん、今後の米朝首脳会談を睨んでの動きです。5月はまことに多くの首脳会談が交錯することになります。

外交の世界で首脳会談と言えば、昔は双方が事務方のペーパーを読み上げるだけで、後は晩餐会の挨拶が良ければOK、「サミットに失敗なし」などと言われたものです。それが昨今は、個性的な首脳による個人プレーが横行して予測不可能なものが多くなっている。今後の首脳会談について、現状を整理してみたいと思います。

●中朝首脳会談:裏に何があったのか

今週はニュースが多過ぎて、どこから話を始めたらいいか迷うほどである。

まずは2度目の中朝首脳会談(大連、5/7-8)から取り上げてみよう。首脳外交は、「互いに相手国を訪問する」のが国際儀礼である。金正恩委員長は3月25-28日に北京を初訪問したから、次は習近平国家主席が北朝鮮を訪れる番となる。実際に5月3日には王毅外交部長が訪朝し、その準備をしていた様子が窺える。ところが北朝鮮の独裁者は、急きょ立て続けに訪中した。何か予想外のことが起きていると考える自然であろう。

そして会談終了後に米中で首脳電話会談が行われ、その直後の9日にポンペオ国務長官が横田基地から平壌へと飛んでいる。そして拘留されていた米国人3人が解放され、10日に凱旋帰国となった。北朝鮮側が1枚、カードを切らされた感がある。

この間にいったい何があったのか。「怒り心頭の習近平が呼びつけて叱りつけた」とか、「対米交渉で行き詰まった金正恩が中国に泣きついた」など、いろんな憶測が飛び交うところだが、所詮は想像の域を出ない。

そこで「日程」を手掛かりに、以下のような「謎解き」を考えてみた。

(1) 米朝首脳会談は、当初「5月下旬から6月初旬にかけて」と言われていた。金正恩側としては、米国側になるべく考える隙を与えず、早い時期に勝手知ったる板門店で行うのがベストであった(→A案)。

(2) ところがトランプ側は、米朝会談が決裂した後にG7サミットで責められる、という展開は避けたい。むしろG7サミットの応援を背に受けて、対北朝鮮交渉に臨みたい(これなら最悪、「会談を蹴る」オプションも行使できる)。しかもFIFAワールドカップが始まるとメディアの注目が落ちるから、6月11-13日あたりで日程を入れたい。会場は中立国で警備がしやすく、全世界のメディア向けのインフラが整っていて、「絵になる」シンガポールで(→B案)。

(3) 北朝鮮の政府専用機はシンガポールまでの距離に不安がある1。そこで今回、大連へは「練習」として飛行機を使った。3月の北京会談には、父親の顰に倣って鉄道を使ったが、その手前にある大連には飛行機を使うという変なことになった。

(4) そしてトランプ大統領は、米国人3人の帰国を華々しく出迎えた後に、”The highly anticipated meeting between Kim Jong Un and myself will take place in Singapore on June 12th.”(会談はシンガポールで6月12日)とのツィートを発している。

○5月は首脳会談のシーズン


●米朝首脳会談:「最初に吹っかける」のがトランプ流

日程ひとつとっても、米朝首脳会談は「トランプペース」で物事が進行しているように見える。さらに事前交渉ではどんな条件が飛び交っているのだろうか。

5月10日の朝日新聞電子版が、「水面下では米国が高い要求を出し、北朝鮮が難色を示している」と報じている2。米国側が求めている条件には、以下が含まれているという。

* 6回にわたる核実験や寧辺核関連施設に関するデータの廃棄
* 核開発に携わった最大数千人の技術者の海外移住
* 生物化学兵器などすべての大量破壊兵器の廃棄
* 人工衛星を搭載した(と称する)宇宙ロケットの発射も認めず

これではCVID(完全で、検証可能で不可逆的な非核化)以上の強硬路線と言えよう。これを数か月から約2年で実行せよ(つまり次の大統領選に間に合うように!)というのだから、北朝鮮側としては相当に困っているのではないか。

そこで思い起こすのは、南北首脳会談で金正恩が言明した「核実験場を5月中に廃棄する。国際社会にも公開するため、早期に米韓の専門家やメディアを招待する」という約束である。現時点では「言いっ放し」になっているけれども、核軍縮の専門家たちから見れば、核実験場は過去の核開発の動かぬ証拠である。ただ閉鎖(Closing)されるのは看過できない。ちゃんと検証させろ、その上で解体(Dismantlement)だ、ということになる。つまり「やぶへび」になってしまったのではないだろうか。

ともあれ現時点では、「交渉では最初に思い切り吹っかける」というトランプ流がいかんなく発揮されているようである。とはいえ、実際の米朝首脳会談まではまだ1か月もある。この間にどんな転変があるかは予測しがたい。日本外交としては、まったく安心できるものではない。

ちなみにこのトランプ流儀は、対中貿易戦争でも貫かれている。5月3~4日に北京で行われた米中通商協議では、米国側が途方もない内容を突き付けている。「対米黒字を1000億ドルではなく、2000億ドル削減せよ」「WTOでの対米提訴を取り下げる」「関税を米国と同じレベルまで下げる」「米国が不公正と見なす非関税障壁の除去」「中国の対米投資は制限。米国の投資には開放を迫る」といった具合である。

これではほとんど無条件降伏を迫っているようなもので、Financial Times紙のマーティン・ウルフ記者が呆れたように、「米国は自分たちを恥じるべきだ」と批判している3。全くおっしゃる通り。もっとも、「最初に思い切り吹っかける」式の交渉スタイルは、中国側にもないわけではない。今後も米中二国間で、したたかな戦いが続きそうである。

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