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拉致問題「なぜ日本は直接言ってこないのか」金正恩衝撃発言までの内幕 日本・北朝鮮ルートはすでに切れてしまったのか? - 大山 くまお

 北朝鮮をめぐる国際情勢が急転している。韓国と北朝鮮の両首脳による南北首脳会談に続き、史上初となる米朝首脳会談の日程と場所も決定した。それに先立ち、北朝鮮に拘束されていた米国人3人が解放され、日本人の拉致問題の解決にも大きな期待が寄せられている。関連する発言を振り返ってみよう。

【写真】横田めぐみさんの母親、早紀江さんら拉致家族と面会した安倍首相

◆◆◆

金正恩 北朝鮮・朝鮮労働党委員長
「韓国やアメリカなど、周りばかりが言ってきているが、なぜ日本は、直接言ってこないのか」

FNN 5月10日

 今週、大きな話題を呼んだのが、金委員長によるこの発言だ。4月27日の南北首脳会談で、韓国の文在寅大統領から、日本が拉致問題の解決を求めていることを伝えると、金委員長はこのように言い放ったという。政府関係者へのFNNの取材で明らかになった。拉致問題に関する金委員長の発言が明らかになるのは、これが初めてのこと。


9日、北朝鮮の朝鮮労働党本部庁舎で米国のポンペオ国務長官と握手する金正恩労働党委員長 ©朝鮮通信=時事

 ネットでは「今まで日本政府は北朝鮮に直接伝えてなかったのか?」「安倍政権は拉致問題を解決する気がないのではないか?」という声が相次いだ。玉木雄一郎国民民主党共同代表の「もし真実なら、我が国政府は何をしてるんだということになる」という声はその代表的なものだろう(ツイッターより 5月10日)。

 しかし、これまで日本政府が北朝鮮に拉致被害者帰国を直接要求したことがないのかというと、そんなわけはない。日本報道検証機構代表の揚井人文氏が自らの記事「拉致問題『なぜ日本は直接言ってこないのか』金正恩氏発言は事実か?」(Yahoo!個人 5月11日)で、2015年8月の日朝外相会談や2016年6月の北東アジア協力対話などで日本政府が拉致被害者の帰国を北朝鮮に直接求めてきた経緯をまとめている。そもそも卑劣な拉致を行っているのは北朝鮮なわけで、その親玉にえらそうな口をきかれるいわれもない。

 一方、『週刊文春』(5月17日号)は、北朝鮮との外交交渉において「日本は後手後手の対応だ」という首相官邸関係者の声を紹介している。北朝鮮との米韓の交渉の動きを日本政府はまったく掴んでいないというのだ。それが本当なら、玉木氏が先述のツイートで指摘した「そもそも、今、日朝間に、拉致問題解決に向けた交渉ルートは存在しているのか」という疑問が湧く。

 朝鮮半島情勢についての著書もある東京新聞論説委員の五味洋治氏は「かつて機能していた北朝鮮側とのパイプはほぼ切れてしまったようです」「(北朝鮮がミサイルを発射するたびに行われていた抗議は)実際は(在中国)北朝鮮大使館にファクスを送っているだけなんです」と語っていたが(日刊ゲンダイDIGITAL 4月9日)、実際はどうなのだろうか? 

安倍晋三 首相
「まずは南北、そして米朝首脳会談の際に拉致問題が前進するよう、私が司令塔となって、全力で取り組んでまいります」

首相官邸ホームページ 4月22日

 4月22日、安倍首相は都内で拉致被害者家族との懇談を行っている。上記の言葉はそのときの挨拶で述べたもの。内容は主に4月17日から2日間にわたって行われた日米首脳会談で、トランプ米大統領に拉致問題について伝えたというものだった。

「北朝鮮の問題について日本の主張、立場をしっかりとトランプ大統領にお伝えしました」「是非この千載一遇の機会を捉えて、この拉致問題について議題に乗せ、解決を強く迫ってもらいたい」「大統領は正にその時とき(官邸ホームページママ)、身を乗り出して私の目を見ながら、安倍さん、しっかりと皆様の気持ちを私は受け止めている、という話をしてくれました」などなど。また、韓国の文在寅大統領、中国の王毅国務委員にも拉致問題の重要性をしっかり伝えたという。

 拉致問題について、とにかく米韓中の首脳に言伝をしていることははっきり伝わってくる。たしかに金委員長の言うとおり、ここ最近は「周りばかりが言ってきている」状態になっているようだ。安倍首相はこのとき、北朝鮮が対話路線に切り替えてきたのは「北朝鮮に対して最大限の圧力をかけてきた成果」と語っていたが、これまでの「圧力一辺倒」の方針によって北朝鮮との交渉ルートがなくなってしまったのではないだろうか?

蓮池透 拉致被害者家族
「わざわざアメリカまで行ってトランプ大統領にお願いするというのは、自分たちがお手上げということの裏返しなわけですよね」

朝日新聞デジタル 4月23日

 安倍首相の「私が司令塔」発言に激しく反応したのが、拉致被害者家族の蓮池透氏だ。朝日新聞の取材に対して「拉致問題は日朝の問題であり、本来は安倍首相がそれこそ司令塔となって、日本が北朝鮮と直接交渉を進めるべき話」「首相は『司令塔』と言うからには、きちんと自分で北朝鮮に向き合い、情報を収集して相手を研究して取り組んでほしい」と強調した。

 蓮池氏はかねてから「拉致問題の膠着化は日本側にも原因がある」と安倍政権を繰り返し批判してきた。昨年も「安倍首相ら政治家は『あらゆる手段で拉致被害者を取り戻す』と言ってきたが、具体的にしたことは制裁の強化ばかり。本当に取り戻すつもりなら、相手を分析して戦略を考えてほしい」と語っている(朝日新聞デジタル 2017年8月23日)。

 そもそも、2002年に日本に帰国した拉致被害者を戻すよう要求してきた北朝鮮に対して、強硬姿勢で日本にとどめたという官房副長官時代の安倍氏の功績も著書『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』の中で完全否定。「安倍首相は、われわれを人気取りのために利用しているのではないか」というのが蓮池氏の見解である(現代ビジネス 2016年2月6日)。

安倍晋三 首相
「必要なのは対話ではない。圧力だ」

毎日新聞 2017年9月21日

 これは安倍首相が昨年、ニューヨークで開かれた国連総会で語った言葉。首相は15分間の演説の8割を北朝鮮問題に割き、国際社会の結束と北朝鮮への「圧力」を求め続けた。そして9月25日、首相官邸で会見した安倍首相は衆議院の解散を正式に表明し、「国難突破解散」をブチ上げて衆院選に大勝した。

 安倍首相は今年1月にも「北朝鮮が非核化の約束をほごにしてきた経緯を踏まえれば、対話のための対話では意味がない」と語っていた(朝日新聞デジタル 1月26日)。

ドナルド・トランプ 米大統領
「日米で緊密に連携していきたい。日本はビッグプレーヤーだ」

日テレNEWS24 5月10日

 5月9日、北朝鮮は拘束していた韓国系アメリカ人3人を解放した。6月に行われる米朝首脳会談を見越したものだ。

 10日にはトランプ大統領から安倍首相に電話協議が持ちかけられた。同席した日本政府関係者によると「米国人解放をよほど報告したかったようだ」とのこと(日本経済新聞 5月11日)。水面下ではトランプ大統領の信頼が厚いポンペオ国務長官が北朝鮮との交渉を繰り返し行ってきた。9日にも金委員長とポンペオ国務長官の会談が行われ、北朝鮮メディアは「満足のいく合意」に達したと報じた(日テレNEWS24 5月10日)。しかし、日本政府にはポンペオ氏にあたるような交渉ルートがないように見える。

 安倍首相は米国人3人の解放が「大きな成果である」と祝意をトランプ大統領に伝え、「拉致問題の解決のために、日米そして日米韓であるいは中国の協力も得て、この問題の解決のために全力を尽くしていきたい」とコメントした。しかし、米国人の拘束と日本人の拉致問題は根本的に違うという指摘もある。拉致被害者家族の一人、増元照明さんは「米国人解放が日本人拉致被害者に与える影響はない。日本政府は全ての被害者が即時帰国できるよう、これまで以上に全力で臨んでほしい」と強く訴えた(日本経済新聞 5月10日)。

 トランプ大統領は「日本はビッグプレーヤーだ」と語ったが、日本は当事者なんだからビッグプレーヤーに決まっている。安倍首相はこれまで繰り返し「対話のための対話では意味がない」と語ってきたが、いよいよ拉致被害者奪還に向けた対話のステージが迫ってきた。

 元韓国国防省北朝鮮分析官の高永喆氏は「日本が、拉致問題解決に向けて切れるカードは“経済支援”しかない」と断言している(『週刊文春』5月17日号)。安倍政権の外交手腕の真価が発揮されるときがやってきた。まさか「本当は対話などしたくない」なんてことはないよね?

(大山 くまお)

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