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世界ランキング圏外ばかりの日本の大学、このままでいいわけがない - 尾木 直樹

 受け身から能動へ、学力の基準が転換を迎えている。2020年の教育改革以降、生徒や児童はどう取り組んでいくのがよいのか。教育評論の第一人者である筆者が今後を占う。(出典:文藝春秋オピニオン 2018年の論点100)

東大は世界ランキング46位

 これからの社会で必要とされる「学力」は、従来の日本の学力観とはまったく違う――これは私が常々主張していることです。つまり、OECD加盟国で実施されている「生徒の学習到達度調査」(PISA)のように、生活や社会活動での「活用力」が問われる時代になってきた。見通しを持つことが難しい社会情勢の中で、マニュアル通りの対応では解決できない、“正解”のない課題に取り組む力が求められてきています。

 にもかかわらず、日本では相変わらず、詰め込み・暗記中心型の学力観が根強い。偏差値に基づいた競争主義も、まだ大きな影響力を持っています。子ども4人を東京大学の医学部に入学させた“東大ママ”が、いまだにこれほど注目されるわけですから、時代錯誤も甚(はなは)だしいと感じざるを得ません。

 その意味で、毎年春に各メディアで発表される、東大への合格者数が多い高校を順位付けする「東大合格者数ランキング」は、いかに日本の学力観が遅れているかの象徴と言えますね。確かにこうしたランキングは読者にとってわかりやすく、特に受験を控えた子をもつ親御さんならば、つい手に取りたくなる気持ちもわかります。だからこそメディアも毎年大々的な特集を組むのでしょう。


東京大学を象徴する「赤門」 ©文藝春秋

 ならば一案として、国内の「東大合格者数ランキング」と一緒に、「世界の大学ランキング」も併載してはどうでしょうか。これはイギリスの教育専門誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』が毎年発表しているものですが、2017年9月に発表されたランキングでは、東大は前年の39位からさらに後退し、46位となっています。

京大が74位で、他の国内の大学は200位圏外ですよ。さらに、アジアの中でも日本は首位から陥落。近隣諸国の優秀な留学生にとって、自国の大学のほうが研究機関として優れているという状況ですから、今後は人材も集まりにくくなるでしょう。

学力の基準が大きく変化している 

 冒頭で触れましたが、現在、日本の教育は、大きな変化の只中(ただなか)にあります。かつての詰め込み式教育がすべて悪かったとはいいません。高度経済成長期の日本においては必要な部分もあったし成果もあったでしょう。そして、そうした既存の教育の恩恵を受けて育った人々にとっては、古い学力観からなかなか脱することができないのも、よく理解できます。

 しかし、冷静に考えてみてください。科学技術の進歩に伴い、これからの時代はAIなどを活用し、共存していく力が求められます。また、ますます多くの人や情報が国内に入ってくる、いわば「外からのグローバル化」が加速するでしょう。

 それはもう時代の趨勢(すうせい)であり、新たな社会のあり方に対応するために、新たな「学力」が必要なのは自明の理です。最近では、こうした世界基準での「学力」の変化に日本社会が追いつけていないことに気づき、我が子には海外で豊かな教育を受けさせようと考える人もかなり増えているようです。

 日本でもこうした世界的な潮流に対処しようと、文部科学省は次期学習指導要領を2020年度から順次実施すべく動いています。その柱となるのが「アクティブ・ラーニング」という学習方法です。

「主体的・対話的で深い学び」と説明されていますが、要はこれまでの教師から子どもへの一方的・受動的な学習ではなく、相互に意思疎通をはかりながら児童・生徒が能動的に学ぶ学習へ、ということですね。あわせて2020年度には大学入試改革が始動。「センター試験」に代え、思考力・判断力・表現力を問う「大学入学共通テスト」が実施されることが公表され、現在検討が進められています。

注目は体験や探究を重視した主体的学習

 私立の中高一貫校や、塾・予備校業界は、いち早くこうした流れに対応しています。たとえば、コンビニに入っていく人の映像を見せ、「なぜその人は隣のスーパーではなくコンビニに行ったのか」といった問題が数年前から入試でも出題されるようになってきました。知識だけでなく、情報や体験を基に状況を読み解き、思考する力を問うているんですね。

 文科省が実施している、小学6年生と中学3年生の全児童生徒を対象にした「全国学力・学習状況調査」。結果が公表されるとメディアで順位付けされることもあり、対策が過熱して競争主義に拍車をかけていると私はこの全数調査を毎々批判しています。それでもこの結果と、良い成績を残した学校の教育内容を照らし合わせていくと興味深い。

体験や探究を重視した主体的な学習を行っている学校は成績がいい、という傾向が見えてきます。高校まで広げても、探究学習などに力を入れていて、大学受験で優秀な成績を残している、という例がいくつもある。ただ、そこで「トップ大学合格のために、体験学習重視の学校に子どもを入学させる」となってしまっては本末転倒ですが。

 私も面白い取り組みをしている学校は積極的に紹介するようにしています。たとえば京都市立堀川高校では、1999年から「探究科」を設置。高校1年生から、生徒が自ら課題を設定して探究する、いわば自由研究のような授業があり、生徒は定期的な発表を経ながら最終的には研究を論文としてまとめます。自分が探究したい課題のために、高1でも高3の数学を勉強する生徒もいる。指導には教員だけでなく、京都大学の大学院生がアシスタントとして入ったりもします。

 ぜひメディアの方々には、こうした新たな「学力」養成に向けて実践に精を出している学校をもっと取り上げてほしいですね。積極的に地域ごとの興味深い学校を紹介し、シリーズ化して全国の注目校を取り上げていく。そうした企画が増えれば、私を含めた読者にとっても、ランキングの見方や、新たな「学力」のあり方を考えさせてくれる、絶好の契機になるはずだと思います。

(尾木 直樹)

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