記事

あえて言う「やはり土俵は女人禁制」 - 関裕二

1/2

[ブログで画像を見る]

 土俵の女人禁制は女性蔑視で前近代的だと、批判が集まっている。グローバリズムの波に逆行しているし、男女平等という人類の理想とかけ離れているというのだ。確かに、京都府舞鶴市の一件は、間違った判断だった。また、歴史をふり返れば、「女性も相撲を取っていたのだから、女人禁制は矛盾している」、という主張もある。

 しかし、蛮勇を振り絞って、ここは反論してみたい。女人禁制は、一般に信じられているような「血の穢れ」が理由ではないと思うからだ。そして、当の日本相撲協会自身も、女人禁制の歴史的背景を理解していないから、混乱を招いていると思う。

 そしてこれは、相撲協会だけの問題ではない。相撲は太古の習俗を継承しているが、日本人自身が、日本人の民俗と信仰形態を知らないでいる。そこで、相撲の話は後回しにして、日本人の信仰と女人禁制について考えておこう。

女性の地位低下を招いた原因

 まず、意外かもしれないが、太古の日本に、「血の穢れ」という発想はなかった。「血(チ)」は「霊(チ)」と同源と信じていて、どちらも生命の源と考えた。明確に女性のケガレを唱え始めたのは、平安時代、天皇を頂点とする法制度(律令)が整い、男性貴族社会が確固たる地位を確立してから(要は藤原氏の天下)のことだ。それ以前、女性は優遇され、尊重されていた。それどころか、連載中述べてきたように、「神とつながる高貴な女性」は、ヤマトの統治機構の一翼を担っていた。女性は祭祀の中心に立ち、女性の力がなければ、国の安寧も約束されなかったのだ。

 万物(大自然、あらゆる現象)に精霊や神が宿ると信じた多神教世界の住人である日本人にとって、神とは大自然であり、「災害や祟りをもたらす恐ろしい存在」だった。また、祟る神を祀りなだめれば、恵みをもたらす神に変身するという発想があった。具体的には、天皇の娘(斎王、巫女)が荒ぶる男神を祀り、性的関係を結ぶことで懐柔し、神からパワーをもらい受けたのだ。その力を王に放射し(妹=いも=の力)、また、神の託宣を王に伝えたのだ。

 このシステムは巧妙にできていた。巫女を産んだ母親(キサキ)の実家が、神の託宣を利用できたからだ。神の言葉は実家の意志でもあった。つまり、キサキの実家(実力者)が王を支配できたわけで、女性の地位はすこぶる高かったのである。

 ところが、次第に女性の地位は揺らいでゆく。まず、仏教公伝(538年あるいは552年)が大きな意味を持っていた。

 仏教の経典の中に、「女性は成仏できない」「女身垢穢(にょしんくえ)」などの言葉が散りばめられている。キリスト教と同様、仏教にも、女性蔑視の発想が沈殿していた。ただし蘇我氏は、仏教を独自に解釈し、日本的な信仰形態の中に押し込めた。「神を祀るのは女性」だから、まず尼僧に得度させたのである。当時の仏教世界では異例の事態だった。

 蘇我氏といえば、渡来系のイメージが強い。しかし、彼らは縄文時代から継承されてきた日本固有の宝石・ヒスイを守り続けている。この伝統を破壊したのは藤原氏で、蘇我氏の滅亡とともに、ヒスイは捨てられる。蘇我氏は、仏教を取り込むことで国の発展を願う一方、女性を尊重するという「残すべき伝統」は守ったのだろう。

 ところがここから、女性の地位を下げる2つの要素が発生した。7世紀末から8世紀初頭の持統天皇と藤原不比等の時代に、本来男神だった太陽神(天照大神)が女神にすり替えられてしまった。その上で「女神天照大神を持統になぞらえる」ことによって、持統女帝から始まる新たな王家の正当性をでっち上げたのだ(拙著『藤原氏の正体』新潮文庫)。

 これが女性の地位の低下を招いてしまった。まず、男神・天照大神の相方だった女神の豊受大神と、天照大神を祀っていた斎王(天皇の親族の女性)が、段階を経て、無用の長物になっていく。神と結婚できなくなったからだ。また、世間一般の巫女も同じ理由から零落していく。神社の門前の花街でスケベおやじどもの相手をする遊び女に落ちぶれた。そして平安時代、男性貴族社会が確立されると、太古から継承されてきた信仰や慣習はすっかり捨て去られ、同時に世間一般の女性の地位も下がり、血の穢れが取り沙汰されていくようになったのである。

あわせて読みたい

「大相撲」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    日本が世界第4位の移民大国な訳

    ビデオニュース・ドットコム

  2. 2

    金足農 甲子園躍進で予算ピンチ

    キャリコネニュース

  3. 3

    翁長氏が後継指名 玉城氏出馬へ?

    田中龍作

  4. 4

    容疑者脱走 取材班に住民が迷惑

    NEWSポストセブン

  5. 5

    石破氏に軽減税率の阻止を期待

    おときた駿(東京都議会議員/北区選出)

  6. 6

    客離れに苦しむ鳥貴族の戦略ミス

    MONEY VOICE

  7. 7

    翁長氏の治療批判する記事に苦言

    中村ゆきつぐ

  8. 8

    チケット転売の公式化は不道徳か

    橘玲

  9. 9

    すぐそこに迫る脱・現金化の大波

    MONEY VOICE

  10. 10

    全て反対? 野党批判に騙されるな

    猪野 亨

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。