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老年学と金融研究を組み合わせ「資産の高齢化」問題の解を探るファイナンシャル・ジェロントロジー - 「賢人論。」第60回駒村康平氏(前編)

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相続は早くやり過ぎても遅くやり過ぎてもダメ


みんなの介護 高齢者の資産運用問題の中でも”相続の問題”は、特にトラブルの元となるケースが多いようですね?

駒村 それは今に始まったことではありません。 シェイクスピアの戯曲「リア王」では、ブリテンの王であるリアが高齢を理由に退位する際、国を分けて3人の娘に相続させましたが、その結果として国を追われ、正気を失い、荒野をさまよいながら亡くなるという悲惨な晩年を過ごすことになりました。

一方、日本の歴史ではそれと反対のことが起こっています。豊臣秀吉は嫡男に恵まれなかったために、さまざまな人物を養子にして家督を継がせる準備をしていました。ところが、側室の淀君の間に秀頼が生まれると、彼ら養子を切腹させたり他家に追い出したりしたため、徳川家康に付け入る隙を与えてしまいます。

要するに、相続は早くやり過ぎても遅くやり過ぎてもトラブルが起こるのです。相続のタイミングは古今東西を問わず難しいようです。

みんなの介護 ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センターの研究成果が、こうしたトラブル解消に役立つのはいつ頃でしょうか?

駒村 同センターはまだ始まったばかりですので、残念ながら「いつ」とお約束できる段階にはありません。ただ、加齢や認知機能の変化により、高齢者の意識決定がどのように変化していくのか、従来から研究されている行動経済学でわかっていることとの違いはどのようなものかなどを明らかにしたいとは思っています。

一方で、高齢者が保有している資産はどんなものなのかというデータもまだ十分揃っていないし、金融取引において適切な判断ができる認知能力をどう測定するのかといったことについてはこれからです。

そういう意味では、現時点ですでに高齢者になっている人の問題には対処できないけれども、これから高齢者になる50代、60代の人たちにむけて、「未来の老後」の指標を提示するための研究と言えるかもしれません。

みんなの介護 今後、ファイナンシャル・ジェロントロジーの研究成果が蓄積されていけば、加齢による認知能力の衰えを数値化し、把握することができるのでしょうか?

駒村 もし、それができたとして、金融商品を扱う窓口スタッフが「あなたは認知能力が低下している疑いがあるので、テストを受けてください」と顧客に対して言えるでしょうか?むずかしいですよね。

70歳以上の普通自動車の運転者にシルバーマークを支給して表示することを更新時に義務づけている自動車の運転免許と同じようにはいかないのです。

というのも、「老い」には個人差がありますから、70歳を過ぎても頭がしっかりしている人もいるし、そうでない人もいる。単純に年齢で割りきることはできませんよね。

それに、金融取引は免許制ではありませんので、シルバーマークのようなものを支給する機会もありません。

みんなの介護 とはいえ、認知機能が衰えた高齢者を狙った悪徳業者がいるのも事実です。読みもしない出版物を定期購読させられたり、高額の金融商品や保険商品を売りつけられたりする例もあります。そうした被害から高齢者を守るという目的があれば、認知能力テストを義務化することができるのではないですか? 

駒村 例えば「年金受給年齢になったら必ずテストを受ける、あるいは数年に一回は年金機構に行って認知機能のチェックを受け、客観的に自分の認知機能の状態を把握する」などは一つ対策として考えられるかもしれないですね。

また、認知機能の低下につけ込んだビジネスの規制も必要です。 実際、ヨーロッパや北米ではすでに行動経済学などの知見を生かして、顧客の認知機能の低下の隙を突くような契約への規制も始まっています。代表的なのがクレジットカードです。

制度だけではなく、選択技術の活用も一つの方法です。損害保険の分野では、自動車のドライブレコーダーの普及により、急発進や急停車、接触などの記録を定量化して、ペナルティの多い人には保険料が上がる仕組みを設ける動きがあります。映像や数値で記録されるので、本人にも自身の衰えを納得してもらえるのです。

近ごろ発展の目覚ましいAI(人口知能)の研究が進めば、顔認識や言語認識などの技術によって認知機能の低下の兆候を認識することができるかもしれません。表情の移り変わりや言動の一貫性などは、かなりの精度で評価できるようになっています。

みんなの介護 AIなどのテクノロジーの進歩には大いに期待したいですね。

駒村 内閣府は2016年冬から「人工知能と人間社会に関する懇談会」を開催していて、さまざまな技術が検討されています。現時点では身体機能の欠陥などをサポートする技術が多いようですが、認知症や心の問題を解決するような技術が開発されることに期待したいですね。

それから、認知症の進行を遅らせたり改善したりする薬や治療法など、医療の分野での進歩が問題解決に直接結びつく可能性も考えられます。問題は深刻だけれども、未来は暗い面ばかりではありません。

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