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「グループSNS」が最強のガイド 中国人の日本観光術

中村 正人 ,Official Columnist


日本国内で増える「アリペイ」と「ウィチャットペイ」が使える店

すでに、日本を訪れる中国の人たちは、自国の世界一進んだ決済サービスを、日本国内にも持ち運び始めている。

実は、日本国内の多くの百貨店や量販店、ドラッグストアなどは、中国の2大モバイル決済アプリである「アリペイ」と「ウィチャットペイ」を導入している。小売側としては、中国の人たちにたくさん買い物をしてもらいたいから当然のことなのだろう。

先日、都内のローソンでチューインガムを買ったときのこと。小銭の1円が足りなくて、仕方なく財布から千円札を取り出しながら、レジの女性が中国の人だったので、つい「『アリペイ』が使えればよかったのにね」と声をかけたところ、「えっ、使えますよ」との答えが返ってきた (「アリペイ」が使えるのは中国から来た中国の人だけで、それ以外の外国人や日本人は使えない。レジの女性はそのことを知らなかったのだ)。

もちろん、日本にもクレジットカードやSuica、おサイフケータイなどさまざまな決済ツールがあるのだが、都心の有名百貨店の売り場の目立つ場所に、「アリペイ」と「ウィチャットペイ」の2大アプリの垂れ幕が掲げられた光景を目にすると、「中国人の観光客は、日本人より便利に日本を旅しているのか」と、そんなボヤキも口にしたくなる。

「ぐるなび」と組んだ予約サービスも

最近知ったのだが、日本を訪れる中国の人たちは、先の2大アプリだけではなく、さらに新たな便利ツールも手にしている。

上海で「ウィチャットペイ」の使い方を手ほどきしてくれた中国の友人が来日し、いま日本を訪れる中国人観光客がよく使っているふたつのユニークなサービスについて話を聞いたので、紹介しよう。

中国では日々の生活を便利にするアプリサービスが次々に生まれているが、なかでも中国最大の生活サービスプラットフォームとも呼べるのがテンセント系の「美団点評」だ。

これは上海で出前を頼んだときに利用したアプリだが、もともと2003年4月にサービスを開始した中国のグルメ口コミサイト「大衆点評」と、10年に設立された共同購入型クーポンサイトの「美団」が、15年に合併したものだ。

「美団点評」には飲食店だけではなく、小売店、ショッピングモール、ホテル、映画、美容室などさまざまな店舗が登録される。口コミ以外にも、割引チケットや予約、デリバリー(出前)、配車サービスなどが提供され、登録ユーザー数は6億人を超えると言われている。最近では、中国の海外旅行者数の増加にともない、海外の店舗の情報も掲載されるようになった。


美団点評で新宿を選択すると、選んだ場所の口コミ情報がトップ画面に表示される(随時変化する)。

なかでも中国人観光客の数が多いタイと日本に「美団点評」は法人を設立し、本格的なサービスを始めている。昨年末には日本の「ぐるなび」と組んで、事前決済型の多言語レストラン予約サービスも開始した。

すでに日本国内の80万店舗(2018年3月現在)が登録されており、いまや中国人観光客は、ふだん自国でレストランを探し、予約するという日常のシーンを、日本でも体験しているのだ。

グループSNSできめ細かい情報をゲット

もうひとつは、まだ一般の日本人には馴染みのない新たなSNSの活用法である。少々大げさにいうと、われわれにとっては、これは未知の領域といえるかもしれない。

もはや主流は、団体旅行から個人旅行へとスタイルを変えた中国人の観光客。彼らはいかにして日本での旅行を楽しむための情報を入手しているのか。それは、「グループSNS」と呼ばれるものだ。

いくつかのケースはあるのだが、いちばんわかりやすいのは、あるひとつの旅行会社で予約して同じ日に日本に出発する不特定多数の個人客をグルーピングしたものだ。

このグループチャットに参加しているのは、たまたま同じ日に中国各地から日本各地へ向かう、見ず知らずの個人客同士。目的地も宿泊先も行動も、さらには日本旅行の経験も理解もまったく異なる人たちだ。ところが、彼らはグループチャット上で自分の遭遇した出来事や体験を語り合い、異国の地で誰かに困ったことがあれば、惜しみなく情報提供し、助け合うのである。

これはSNSという「公共」の場だからでもあるが、同じ時間を日本で過ごすことになった奇遇を共有する人々の間に特別な関係が生まれているからだと思われる。自らの経験や知識を自慢したい素直な気持ちもあるだろうが、実際に日本に滞在している者同士であれば、それも伝わりやすいだろうし、感謝されることも多いはず。情報提供のしがいもあるのだ。

チャット上に飛び交う質問はあらゆる範囲に及ぶ。たとえば「関空にどうやって行くのが安い?」「どのコンビニなら『アリペイ』が使える?」「Suicaはどこで買える?」など。なかには「Suicaで余ったお金はどうすれば戻せる?」といったきめ細かいものまである。



成田空港のJRトラベルサービスセンターの光景。

関係者に頼んで、ある出発日のグループSNSに入れてもらったことがあるが、日々交わされる内容をみていると、いま彼らの周辺で何が起き、何に困っているのか。何をどこで買いたいのかといったことが具体的に手にとるようにわかる。

商機を求めて、日本国内の小売店が、これら中国からの観光客のグループSNSに、特典情報を広告として流し込むサービスもすでに始まっている。個人観光客というつかみどころのない相手には、これまでのように紙のパンフレットやウェブサイトをつくって多言語化するだけのプロモーション手法では通用しなくなっているからだ。

かつて盛んに推奨された中国版ブログの「ウェイボー(微博)」を開設し、「ウィチャット」のSNSアカウントを取得しても、ただ一方的に情報を受信・発信するだけでは、利用価値があまりなくなっている時代なのだ。

海外旅行する中国の人たちのグループSNS、そのリアルタイムで濃密な情報のやりとりには驚くばかりだが、困ったことに、今年に入って日本で摘発の相次ぐ中国人観光客向けの白タク行為も、これらの延長線上にある。単に電子マネーの移動ですむ決済は問題なくても、人を介した配車アプリサービスとなれば、現行の日本社会のルールに抵触してしまう。

なんともやっかいな話だが、われわれはこのような現実に付き合っていかなければならないのだ。

連載 : ボーダーツーリストが見た北東アジアのリアル
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