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第400回(2018年4月16日)

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シリア政府軍による化学兵器使用を理由に米英仏軍がシリアをミサイル攻撃。米国はシリアの後ろ盾、ロシアに対する制裁にも言及。北朝鮮の動向も含め、国際社会は不透明感を増しています。メルマガ400号の今号は、深層で連動する極東・中近東情勢を整理します。


1.新たな局面

3月8日、米国は北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)からの申し出を受け入れ、米朝首脳会談開催の方針を発表。金正恩は核・ミサイル実験凍結を示唆しました。

米朝首脳会談が実現すれば史上初。朝鮮半島情勢に変化をもたらす可能性が高いでしょう。現時点では5月から6月初開催の見込みです。

その後、3月25日から28日にかけて金正恩が電撃的に訪中し、習近平(シー・ジンピン)と会談。北朝鮮を巡る駆け引きは新たな局面に入りました。

直後の30日、北朝鮮と韓国は金正恩、文在寅(ムン・ジェイン)の南北首脳会談を4月27日に板門店で行うことを合意。11年振りの首脳会談です。

米中韓朝4ヶ国の駆け引きの中、日本は蚊帳の外に置かれている感が否めませんが、安倍首相は訪米し、明日(17日)以降、トランプと会談予定。

首相は何を主張し、どのような交渉をするのでしょうか。帰国後、国会に可能な限り報告をする義務があります。

金正恩は2011年末に指導者となりましたが、訪中は初めての外国訪問。就任から6年以上、国家指導者が全く外国訪問をしていなかったのは異例です。

初の外国訪問に踏み切ったのは、それだけ追い込まれていたのか。核・ミサイル開発を含め、交渉カードが整ったので外交に打って出たのか。見極めが必要です。

金正恩は28歳で指導者に就任。国内には独裁への反発もあることから、過去数年間、反対派粛清に腐心。体制が固まったということかもしれません。

最初に選択した訪問先が中国。朝鮮戦争以来の特別な友好国であり、隣国であることに鑑みれば、当然のように思えますが、実はそれほど単純ではありません。

1990年代以降、中朝関係は冷え込んでいました。その原因は冷戦終結後の1992年、中国が韓国と国交を樹立したこと。さらに2014年、習近平が国家主席として初めて韓国を訪問したこと。北朝鮮にとって衝撃的屈辱だったと言われています。

最近では、中国も核・ミサイル実験に対する国連制裁決議に呼応。過去に見られなかった厳しい姿勢を示し、北朝鮮は激しく反発。こうした中で初の外国訪問先として選択した中国。深層は単純ではないでしょう。

ところが、中国は金正恩を大歓待。報道によれば、金正恩の宿泊に充てられたのは釣魚台迎賓館。先客を急遽退去させ、敷地全体を提供したそうです。

全日程に習近平が同行。金正恩の訪中は非公式でしたが、中国は異例の超厚遇。北朝鮮中央通信も習近平に対する感謝報道を行うなど、急転直下の蜜月ぶりです。

北朝鮮の動きは、今になって振り返ると整然としています。思い起こせば昨年の11月29日。参議院予算委員会での質問当日の未明、北朝鮮がまたミサイルを発射。

予算委員会で「ミサイルは最新型大陸間弾道弾(ICBM)火星(ファソン)15号ではないか」と質問。小野寺防衛大臣は「未確認」との答弁でしたが、後日、北朝鮮が「火星15号」であったことを発表。

ミサイルはロフテッド軌道で高度4475kmに達し、53分後に960km先の日本海に落下。後に、通常軌道で発射された場合は1万3000km以上飛行可能であったことが判明。

同日の北朝鮮国営中央テレビ(KCNA)は「核武力完成」を宣言。米国も米本土全域が射程圏内に入ることを追認。米朝の緊張関係は新たな局面に入りました。

その後、国連安保理や米中の北朝鮮への対応が厳しさを増す中で越年。すると、年が明けた1月9日、北朝鮮は韓国との南北閣僚級会合において、2月開幕の平昌五輪に参加することを表明。新たな外交カードを切ってきました。

北朝鮮は韓国との五輪実務者協議において、政治的駆引き抜きで誠実に対応。金正恩は実妹の金与正(キム・ヨジョン)、韓国は国家安保室長を大統領特使として相互派遣し、南北首脳会談開催に合意。米国への首脳会談申し入れに先立ってのことです。

そして電撃的訪中。さらに直後の4月3日、北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相が訪露行程で立ち寄った北京で中国の王毅外相と会談。

同日の中国国営中央テレビ(CCTV)は「首脳会談の合意を早期に実行すべき」(王毅)、「上層部の相互訪問や意思疎通を強化したい」(李)との両外相発言を報道し、蜜月ぶりを演出。

そして4月6日、金正恩は6ヶ国協議復帰の意向を表明。中朝首脳会談で内々合意されていたとの文脈・演出です。

中国は会談の模様をSNS微博(ウェイボ)で速報する異例の対応。11年振りの南北首脳会談、史上初の米朝首脳会談に向けて、北朝鮮の後ろ盾としての存在感を誇示しました。

翌7日、遠く離れたシリアのドゥーマでシリア政府軍が化学兵器を使用した疑惑が浮上。トランプは化学兵器使用が事実であれば、シリア政府軍を攻撃する旨、再三の警告(予告)発言。シリアの後ろ盾、ロシアのプーチンに対しても名指しで批判。

13日、トランプはシリア政府軍の化学兵器使用を断定し、米軍に攻撃命令を発出。ミサイル105発をシリアの化学兵器工場に打ち込みました。

核兵器や化学兵器の保有・使用への報復措置を辞さない米国。米朝会談を控え、シリア攻撃は北朝鮮に対して強いメッセージになったことは事実です。

2.深層は複雑

しかし、極東と中近東における米中露の水面下の駆け引きは単純ではありません。深層は複雑です。一連の動きを改めて整理してみます。

北朝鮮は核・ミサイル開発によって米国全土を射程圏内に入れたことで外交カードを獲得。逆に米国は北朝鮮を武力攻撃する口実を得たという外交カードを獲得。双方が都合よく考えていることでしょう。

また、北朝鮮は韓国に「抱きつき」戦術を展開、さらに中国を電撃訪問。11年振りの南北首脳会談を決定し、6ヶ国協議復帰も打ち出し、米朝首脳会談前に自国に有利な環境整備に腐心。「第2のイラク」「第2のシリア」になることを回避する道筋を模索。

中国にとって北朝鮮を巡る交渉は、韓国内に配備された米韓軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)撤去に向けた外交カード。

米朝会談では、米国は「核・ミサイル廃棄」を要求する一方、北朝鮮は「朝鮮半島の非核化」を主張するでしょう。

「朝鮮半島の非核化」は、在韓米軍の核兵器撤去、及び北朝鮮がミサイル廃棄に同意すればTHAADも不要になるわけですから、当然撤去を要求。北京等も射程圏内に入る韓国のTHAAD撤去は中国の利益になります。

米朝首脳会談は「核・ミサイル廃棄」対「朝鮮半島の非核化」の構図。北朝鮮(及び後ろ盾の中国)は再び「行動対行動の原則」、つまりギブ・アンド・テイクを主張するでしょう。

交渉の場は2国間協議(バイ・ラテラル)と多国間協議(マルチ・ラテラル)。後者の中心は6ヶ国間協議。そこにはロシアも入ります。

ロシアは、英国における元ロシア外交官(英国との二重スパイ)毒殺未遂事件を巡り、英米両国と外交官退去命令の応酬を続けています。

また、ロシアはシリア情勢を巡ってはシリア政府(アサド政権)の後ろ盾。極東・中近東を巡る米露の駆け引きは連動しています。

そもそも、事業家としてのトランプはロシアとパイプが太く、大統領選でロシアが暗躍して投票に影響を与えたことが米国内の政治問題になっているのは周知のとおり。

ロシア・ゲート事件ではトランプとプーチンは盟友。マイケル・フリン大統領補佐官が駐米ロシア大使とウクライナ問題を巡る対ロシア制裁解除を交渉した越権行為で解任されたほか、トランプの娘婿(ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問)は現在捜査対象。極東・中近東を巡る米露の動きを額面通りに受け取ることは危険です。

時を同じくして、米中間で「貿易戦争」が激化。トランプの公約は「アメリカ・ファースト」。米国の経済・産業・雇用は諸外国(とくに中国やメキシコ、日本等)との不当な競争に晒されており、これを米国の利益優先で是正するというものです。

ロシア・ゲート事件等の影響で支持率が低迷する中、中間選挙も近くなり、昨年末頃から「貿易戦争」に関する発言もエスカレート。1月のダボス会議で不公正貿易に対する対抗措置の可能性に言及したトランプ。3月1日、ついに鉄鋼製品に25%、アルミニウム製品に10%の追加関税を課すことを発表。

この決定に反発し、自由貿易主義者のギャリー・コーン国家経済会議(NEC)議長が3月6日に辞任表明。前日の5日、やはりこの決定に強い懸念を示した共和党のポール・ライアン下院議長。とうとう4月1日に引退表明。ライアン以外にも、トランプ批判に端を発する共和党への逆風を背景に引退表明した議員は30名を超えています。

トランプはそんなこともどこ吹く風。4月2日に中国が対抗措置として米国からの輸入品30億ドル相当に対する関税導入を発表した翌3日、USTR(米通商代表部)が中国による知的財産権侵害への対抗措置として25%の追加関税を課す1300品目(約500億ドル相当)のリストを発表。

4日、反発した中国もさらなる報復措置を明言。5日、トランプは追加関税25%の対象中国製品を1000億ドル分積み増す意向を表明。まさしくチキンゲーム。

在ワシントン中国大使館は「一方的で保護主義的な行動はWTO(世界貿易機関)の基本原則と価値に反し、世界経済の利益を減少させる」との声明を発表。共産主義国家と資本主義国家が逆転しています。

一方のトランプ、「中国の不公正貿易が長年ワシントンに無視されてきた」と述べ、歴代政権との違いを強調。中間選挙を控え、不公正貿易による被害を受けている米労働者を守る大統領像を演出する思惑が見え隠れしています。

ビジネスマン出身のトランプ。最近は開き直って自らのビジネス手法を駆使しているように思えます。本質は金儲け。最終的に損することは回避するかもしれません。課税措置は実務的には早くても6月中旬以降。それまでに交渉余地があります。

極東・中近東を巡る緊張、貿易戦争の深層は複雑です。日本は如何に対応すべきか。与野党の垣根を越えて、国会内外で十分に議論しなければなりません。

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