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TVの"わかりやすさ至上主義"に疑問 「ヤバい飯」取材に上出Pが込めたもの

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(1)善悪や白黒の境界線問いかけたい

「ヤバい人たちのヤバい飯を通じて、ヤバい世界のリアルを見る」という、前代未聞なグルメ番組として2017年10月に放送され、大きな話題を呼んだテレビ東京の『ハイパーハードボイルドグルメリポート』。殺し合いを繰り返すアメリカの極悪ギャング、リベリアの元人食い少年兵の飯、台湾マフィアの贅沢中華など、世界のディープな人々の“飯”を徹底取材し、10月度の「ギャラクシー賞」を受賞するなど、高い評価を得た。

その第2弾は9日、そして今日16日の深夜24時27分からと、2週にわたって放送。1週目はロシア・ウラジオストクの北朝鮮レストランと麻薬密売現場に潜入し、さらにシベリア奥地の通称カルト教団の村で暮らす人々の飯を見せてもらうという内容で、放送されるとSNSでも「めちゃくちゃ面白い」「テレ東すげえ」「自分の知らない世界がある」と様々な意見が交わされている。

2週目ではセルビアの難民に迫り、さらにディープな世界を見せていく同番組。独特の構成には、上出Pによる「解釈の余地を残したい」という思いも込められていた。


■上出遼平
制作局ディレクター。2011年、テレビ東京入社。これまでに『ありえへん∞世界』『世界ナゼそこに?日本人』『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!』などの番組を手掛ける。

"飯食ってる瞬間"に何かがある

――今回の放送の「ロシア “極北カルト飯”」と「セルビア “足止め不法難民飯”」を一足先に見せていただいたら、前回よりも「ヤバい人たちを追っているけれど、どんな人たちも、自分たちとなんら変わらないんだ」という視点が強く感じられました。

そもそもの「ヤバい」っていう言葉の定義が曖昧だから、前回と比べた時の違和感があるかもしれません。前回はたまたま「ヤバい」が「危ない」に近かったんですよね。だけど、例えばトランプ大統領も「ヤバい」し、レディー・ガガもいろんな意味で「ヤバい」じゃないですか。それは、“すごい”とか“とんでもない”とか、いろんな意味を含んで「僕らと圧倒的に何かが違う」みたいなことを表せるのが「ヤバい」っていう言葉だからだと思うんです。この番組って危険な人がフォーカスされがちなんですけど、僕にとっては別世界の人に会いに行っているだけで、危険なことには興味はないんです。

ただ、同じ地球上の全く別世界に暮らす人たちも、飯食ってる瞬間には僕らと同じ何かがあるはずで、それを撮ってくるのがこの番組です。食べ物には、民族や土地や宗教や思想が思い切り現れているのに、それを食べてる人の表情はなんかみんな一緒だったりする。それが面白いんですよね。腹を満たした瞬間の生き物の顔。

――番組を見て、東海テレビ制作の『ヤクザと憲法』を思い出したんですが、影響を受けているそうですね。

がっつり影響受けてますね。他に森達也さんの作品もそうなんですけど、違う世界に暮らしている自分たちに関係のない、違う生き物みたいに見える人たちも「分岐点で違っていったかもしれないけど、もとをただせば同じだな」というのがあって。そう思う想像力を持つこと、それを手伝うことがテレビのやるべきことなのかなと思っています。ただ『ヤクザと憲法』のように質の良いドキュメンタリーを作るときは、すごく長い時間をかけて取材をしていると思うのですが、自分たちにはそれができない。どうしたらいいんだろうと考えたときに、「メシの瞬間に、何かが凝縮されるんじゃないか」と思いました。

――メシを食べる瞬間を撮ろうと思いついたきっかけは具体的にあったんですか?

今まで取材で僻地に行ってきて、ロケの最中にメシを食っている人が目についていたんです。番組の筋とは違ってくるので使えないけれど、いつかメシの場面だけを使って番組を作りたいなと思っていました。

どちらからの視点も描くこと

――今回、カルト教団の人々と元から住んでいた村の人、セルビアの難民と元からその国に住んでいた人と、どちらからの視点も描くということが、前回よりもくっきりしていた気がします。

前回も、出てくる人は全員悪人だけど、「その人たちが本当に真っ黒なのか」という疑問は投げかけたかったんです。今回も、善悪や白黒の境界線ははっきりしているのかと問いかけるものを作りたいとは思っていました。どっちが正義でどっちが悪かと、当たり前のように切ることも多いけれど、世の中には言い切れないことだらけじゃないか、と。

セルビアの問題も、自分の国を捨てて5,000キロの旅に出るまで追いつめられているのに、それを自動小銃でつかまえようとするなんてどうかしてる、とも思える。その一方で、ヨーロッパでは難民出身のテロリストに家族を殺された人もいる。どっちもが、ただただ安全に、幸せに暮らしたい。それだけなのに、どちらが正義とも悪とも言えない状況が何層にもなっている。越えたら違法だとされる国境ですら、その成り立ちが果たして正しかったのか、それさえ不確かじゃないですか。僕らはジャーナリストではないし、報道のスキルを勉強していないので、バラエティの枠でちょっとでも何かを感じてもらえたらいいなと思って。

(2)上からの指摘は無視する姿勢


説明しようとすると紛れこむ意図

――番組では、テロップなどは分かりやすく配していますが、説明過多にはならないようにしている感じも受けました。最近、NHKなどでは『ノーナレ』といって、ナレーションをなくしたドキュメンタリーもあったりします。説明過多でないと、逆にじっくり人の表情を見ようとか耳を澄まして聞こうとしてしまうんですよね。

ナレーションに関しては、意図して演出したのは半分、原稿作るのが面倒というのが半分です(笑)。大量のナレーション原稿が後で捨てられるのを見るのもいやだし、やっぱり見る人が前のめりになって理解したいという姿勢を作れたらいいなと思います。説明しようとすればするほど、こちらの意図とか嘘とか恣意が紛れ込むので、それはないほうがいい。あいまいなものをあいまいなまま進めていこうというのがポリシーで。ただ、やっぱりテレビって、これにはこういう背景で、と説明したがるところはあるんですよね。

――視聴者が食いつくための仕掛けとかは考えてますか?

今の『ハイパーハードボイルドグルメリポート』は説明が足りないと思いますが、”足りなさ”の塩梅は考えていますね。説明をしすぎたら、わかりやすい番組になるけど、姿勢は前のめりじゃなくなる。なるべく解釈の余地を残したいんです。

――それって、今のテレビとは逆じゃないですか。わかりやすいとか、瞬間的な刺激で食いつかせようとするものがあふれていて、そこに対してはそれだけでいいのかという疑問を日々私も抱いているんですけど。

それが今の基本で否定するわけじゃないけど、わかりやすさ至上主義、というのはちょっと蔓延しているのかもしれないとは思います。テレビの作り手は、視聴者に合わせて「簡単にわかりやすく」と作るけど、見ている方からすると「そんなのわかってるよ」となって、お互いに離れていくこともあるだろうし。今の時代、見破られますから。そこに一発、どうですかと提案をしたかったんです。極端な話、視聴者の方が賢いですよって。

――それに対して、テレ東内では、どういう反応だったのでしょうか。

やっぱり「わかりづらい」という指摘を受けて、「なるほど」とは思うんですけど、すべて無視する、という姿勢は忘れないようにしました(笑)。指摘を聞いていたら、いわゆるクオリティが高いと言われる、いつものテレビが仕上がるとは思いますが、僕は説明不足であいまいなままいきたいし、それがこの番組なんです。でも、アドバイスをくれる先輩も、上が言い過ぎても面白くなくなることも知っているし、「最終的には自分で判断していいよ」と言ってくれる。すごく恵まれているんですね。

出会った人が主役の番組

――この番組を語るとき、必ず『陸海空 地球征服するなんて』や『クレイジージャーニー』を引き合いに出す人はいると思うし、私も、その違いはなんだろうと思いながら見てきたんですけど、よくよく考えると、やっぱり違いますよね。

主役が違いますよね。僕も両方、よく見ていて「すごい」と思うんですけど、あちらはナスDや丸山ゴンザレスさんが主役です。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』はあくまでも出会った人が主役。だからなるべくディレクターの存在がたたないようにしてるんです。メシを食う瞬間だけは、日本からディレクターが行って、一緒に食べているということを感じてほしいので、映しているんですけど。あの場でもらう飯はうまい、ということは伝えたいです。

――ちなみに、今、個人的に見ているテレビ番組ってありますか?

『激レアさんを連れてきた。』は見ます。テレビの一番基本的なことだけれど、番組になりえないとあきらめていた部分をされていると思いました。それと、Netflixのドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』とか、次から次へと見てしまいます。映像の作り方も、物語もすごい。

アメコミ原作の『デアデビル』や『パニッシャー』も、なぜ悪が悪になったのかが描かれていて、そちらに感情が持っていかれます。僕は2013年度の「新聞広告クリエーティブコンテスト」を取った「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。」という作品に、衝撃を受けたことを思い出しました。その作品を見たときに「鬼は悪くて、桃太郎は正義」という考えが染みついていたのか、と驚いたんです。日本で親しまれている作品は、勧善懲悪で、白黒はっきりという価値観が内面化されていることも多いし、その結果ヘイトにつながるなら、ナンセンスだなと思います。

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