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下流層の若者は「安心できる他者」になれるか~虐待を越えて~※Yahoo!ニュースからの転載


「モーニングとなりカフェ」開始前。スタッフは、安心できる他者の模範になれるか。

■虐待事象のほかにこうした施設や上限年齢の問題も含めて「児童虐待」

少し前にここで書いたように(貧困と虐待は「平等な不幸」ではない)、トラウマ(心的外傷)の原因は大きく分けて4つあるといわれる。それは、
1.災害、2.事故、3.戦争、4.暴力/虐待
の4つで、これに関する記憶の襲来(フラッシュバック)は生涯続くとも言われる。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療については、古典であるJ.L.ハーマン『心的外傷と回復』(中井久夫訳/みすず書房)他にも書かれているとおり専門的な治療法があり、それに伴う諸症状を緩和する薬もたくさん出ていることだろう。

が、同書の最後でも触れられるのだが、上述どおりフラッシュバックは「治癒」後も当事者を襲うと言われ、そうなると生涯続く記憶の襲来に関して、その襲来後の備えを常時しておく必要もある(しぶといフラッシュバックについては、以前当欄にこんな記事も書いた。死の床にまで襲うフラッシュバック~18才以降のPTSD)。

今朝ネットニュースを見ていると、以前より支援者の間で囁かれていた「施設内性暴力」の問題が取り上げられており(「誰にも話せなかった」 施設内性暴力、声あげられず)、児童虐待に続く二度目の暴力ともいえるこうした暴力の被害とPTSDも含めて、これまで以上に我々の社会はPTSDと向き合っていくことになるだろう。

18才以降の社会的養護の問題については、「えんじゅ」というネットワークが東京でつくられ、6月には関連フォーラムもあるという(アフターケア事業全国ネットワークえんじゅ2)。

施設内暴力にしろ18才以降のケアにしろ、児童虐待の急増と同時に以前より指摘されていた問題であり、虐待事象のほかにこうした施設や上限年齢の問題も含めて「児童虐待」であると認識する段階が来ている。

■フラッシュバックは当事者を襲う

トラウマ原因の1つである、暴力(性暴力・DV・いじめも)と児童虐待のフラッシュバックはいろいろかたちを変えて当事者を襲う。それはいくつになっても出現する可能性があるとハーマンはいう。

記憶の再生と共有(被害者同士での)、そして記憶の「再結合」といった心理的支援の段階は、精神科医や臨床心理士の仕事となる。それらの指導のもと、精神医療の中で、PSW(精神保健福祉士)や看護師と深くて濃い日常を重ねている患者さんもいることだろう。

また、そうした精神療法を受けずとも、NPO等の民間の「居場所」で、やさしい支援者と日常生活や作業を送ることにより、徐々に負の記憶を薄れさせている当事者もいるだろう。

が、医師にしろ看護師にしろPSWにしろ臨床心理士にしろNPO職員にしろ「支援者」であり、いつかは当事者のもとを離れる。負の記憶の存在を許し、そうした記憶を刻印された「仲間」と出会い、自分の人生の記憶を組み立て直し、ゆるやかな日常生活の中で徐々に人生がリスタートしたとき、それまで自分を支えてもらった支援者たちと別れる時期が来る。

またこのような支援者機関とは一切出会わず、一人だけでそうした記憶と付き合っいる当事者もいる。多くの場合は「家族」がなんらかのかたちでサポートしていると予想できるが、児童虐待についてはその家族が加害者であるため頼れない。
頼れないどころか、その家族と出会うことがフラッシュバックになるため危険なのだ。

■「安心できる他者」を求める

支援機関を旅立つ。
PTSDの諸症状が一見緩和されたように見える頃(人にもよるが20代に入ってから)、当事者は一人で社会に投げ出される。言い換えると、支援機関で出会っていたような「安心できる他者」が不在になる。

あるいはもともと支援機関と出会っていない。だが、家族と再会することは危険である。
けれども「孤独」はつらい。ここでもやはり「安心できる他者」は求められている。

児童虐待は多くの場合、経済的下流階層の家庭内で起きている出来事だと思う。そして残念ながら虐待は16~18年周期で家族内を「連鎖」しており(祖父母→父母→子)、その連鎖の中で軽度の知的障害が生じ(第4の発達障害→杉山登志郎医師)、勉強や学習の意義が加害者も被害者も把握できない。学ぶことを初めから諦めている。学びの必要性は感じているだろうが、諦めている。

児童虐待を原因とするPTSDの被害者と、このような若者は重なる。
トラウマを抱え諸症状(自傷や強迫)を抱えつつ「学習」も同時に奪われつつ、それられ総体が「しつけ」であると思いこんでいる部分もある。また、親が虐待をせざるをえないほど「自分はダメな存在」であり、虐待の原因は自分であると、一時期まで思い込んでいることもある(せつない)。

■「安心できる他者」への変化可能性を高校生の頃知っておくこと

支援者がいなくなったり初めから孤独な時、当事者がすがるのは、そうした同じような体験をしてきた別の当事者だ。

だが、同じPTSDを抱える者同士、互いに「安心できる他者」になることができるのだろうか。

残念ながら多くの場合、安心できる他者にはなれず、虐待の連鎖の再生産に加わっていくのだろう。

だが、安心できる他者と幸運にも出会い、あるいは最初は相手は安心できる他者ではなかったものの大人になるにつれ変化していき、徐々にではあるが安心できる他者になっていった事例も僅かではあるが僕は知っている。

結局、生涯にわたって続くPTSDを生涯にわたって薄め続けてくれるのは自力だけではおそらくムリで、もちろん支援者も長期的にはムリで、このような身近な安心できる他者と出会うしかないと僕は思う。

いや、寂しい(経済的下流)若者同士、「出会う」ことは比較的容易にできる。その出会いの「次」が虐待とDVの連鎖の方向にはならず、安心できる他者化して互いを不器用ながらも支え合っていければいい。

けれども現実には難しい。難しいが、たとえば高校のとき、勉強は諦めているかもしれないが、何らかの機会の中でそうしたメカニズム(虐待当事者を「安心できる他者」が癒やす)を知ることは可能だ。

それは教師による総合学習や雑談の中でかもしれない。あるいは保険室の中でのトークかもしれない。あるいは、教師以外の「高校内居場所カフェ」の中でかもしれない。

パートナーをPTSDから守り虐待の連鎖を防ぐには、「安心できる他者」への変化可能性を高校生の頃知っておくことが必要だ。

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