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キャッツ会計士・最高裁判決(有罪確定)への感想

細野祐二氏の著書は何度も当ブログで取り上げさせていただきましたし、法と会計の狭間の問題を検討するにあたり、その意見については何度も参考にさせていただきました。JALがあのようになる2年以上前から「空飛ぶ簿外債務」として、その問題点を指摘されていたことや、日興コーディアル事件が話題となるきっかけとなった論稿をお書きになっていたことも印象的であります。

その細野氏が被告人とされているキャッツ粉飾決算刑事事件の最高裁判決(第一小法廷)が5月31日に下され、細野氏の有罪が確定しております。話題の事件判決として、すでに最高裁のHPで判決文が公開されております。これまでの細野氏の主張から、どのような判決が出るのか楽しみにしておりましたが、結果はわずか4ページの短い判決文です。補足意見もなく、裁判官全員の意見として原審(高裁判断)を支持しております。

「司法に経済犯罪は裁けるか」(細野祐二著 2008年 講談社)の第3章「司法と会計」を改めて読み直し、この最高裁判決文を何度か読み返してみましたが、制度会計における会計行為(会計事実+会計処理の原則・手続き+会計報告書・会計数値)のうち、細野氏は会計処理の原則・手続きのところで勝負しようとしたのでありますが、最高裁は「会計事実」で判決を下した、というのが実際のところではないでしょうか。法律家が複式簿記を知らない(得意としない)ことは細野氏が先の著書のなかで述べているとおりだと思いますし、継続企業の前提において、「貸金」「預け金」の区別にどれほどの意味があるのか、ということも、おそらく細野氏が述べているとおりかと思います。※ちなみに、上の「会計行為」の解説は、「会計学一般教程(第7版)」武田隆二著の4頁をもとにしております。

しかし、消費貸借や消費寄託という契約の「要物契約性」については、まぎれもなく会計ではなく、法律の分野であります。「資金移動の根拠となる契約は果たして有効だったのか」というところは、会計基準によって判断されるのではなく、まぎれもなく法律もしくは裁判例によって決定されるのでありまして、額面30億円のパーソナルチェックが交付されたことによって、「返済がなされたのか」「運用資金が移動したのか」というあたりは、消費寄託契約の有効性を決する「要物性」の問題として、すでに最高裁よりも前の大審院の時代に出た先例があります。最高裁が焦点をあてたのは、会計処理の手続きではなく、それ以前の「会計事実」であり、細野氏がこの「会計事実」を認識していたことに注目していたものと思われます。パーソナルチェックを振り出した人間の資力が乏しかったのかどうか、支払呈示に回さないような合意があったのかどうか、これらは継続企業の前提における会計処理の問題からすれば、その処理方法に大きな問題はなかったのかもしれません。しかし、消費貸借契約、消費寄託契約が有効に成立しているかどうか、つまり条文上の「要物性」や「寄託」の意味を解釈するうえでは大きな意味を有しているのでありまして、そこが明確にならねばそもそも「会計事実」(物的・経済的な事実関係)が存在しないことになるのではないでしょうか。

もちろん、虚偽記載有価証券報告書提出罪の「共同正犯」が認定されているわけですから、そこには刑法総論でおなじみの「共謀共同正犯」に関する成立要件(たとえば順次共謀による共同正犯の成否など)も議論されるのかもしれません。しかし、このあたりは最高裁は極めて保守的であり、とくに「経済犯罪」に特有の論点でもありません。最高裁は、会計専門職に対して太刀打ちできない「会計処理の妥当性」で議論するのではなく、契約法理の支配する領域、つまり会計事実のところで判断を下したのであり、法律を知らないことをもって故意は阻却されない、という、これまた司法ではあたりまえの論理によって、ほとんどむずかしい議論もすることなく有罪を認定したものと思われます。

正直なところ、細野氏側を応援していた立場からして、「なぜわずか4頁の最高裁判決」で終わってしまうのか、冷静に分析をしてみたいと思ったので、心苦しいのではありますが、このような感想を書かせていただきました。会計不正事件のなかで、監査人が最も粉飾を発見しにくいのは経営者が第三者と共謀している場合であります。おそらく粉飾見逃し責任を問われる可能性は乏しいと思います。しかしその監査人が「経営者の共謀の事実を知っていながら適正意見を表明したら・・・」といった論理が最高裁の判断には流れているように感じました。司法にも経済犯罪を裁く方法が(それなりに)あるのではないか・・・というのが正直な感想であります。

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