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海賊版漫画サイトへのブロッキングが「緊急避難に当たる」という解釈は許されない

一般にこの場で私自身の法的な考えや政治的な見解を言うのは控えていますが、この問題、すなわち「著作権保護のための通信遮断が緊急避難に当たる」という解釈は、許されないものと思います。

以下は、この問題についての基本的な整理です。

・利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会(第6回会合)議事録 http://www.soumu.go.jp/main_content/000137400.pdf p5-7

・安心ネットづくり促進協議会児童ポルノ対策作業部会法的問題検討サブワーキンググループ報告書https://www.good-net.jp/…/original/201711012219018083684.pdf

私自身は、通信の秘密の違法性阻却事由たる緊急避難は極めて厳格な要件の下で認められると考えており、事実上、児童ポルノのDNSブロッキングが限界だろうと思っております。

児童ポルノと著作権侵害は同じ緊急性が高いというお立場もあると思いますが、少なくともこれまでの解釈からすれば、「緊急」の意味が差し替えられていると言わざるを得ません。

私自身は、この数年、関係本部・庁の方から、「そろそろ知財ブロッキングが解釈でできないでしょうか」と定期的に訊ねられ、そのたびに「電気通信事業法の解釈としては無理であり、早く立法したらよいと思う」と言い続け、その方向での具体的な論点も答えてきました。

著作権保護のための方策についてしっかりした議論を重ね、正当性と実効性ある立法措置を怠ってきて、このような「緊急」事態を招いたのは、ひとえに関係本部・庁の無策と、法的に無理筋な解釈変更に固執された方々によるものです。

そのつけを、国民全体の通信の秘密・知る権利に、公開の議論もなく性急に決着を付けることで、回そうというのは、私にとっては理解しがたいことです。

一般に誤解がありますが、通信遮断はアクセスを遮断する「窃用」だけではなく、その前提として論理的には全ての通信について事業者が行き先を「知得」する必要があります。

全ての国民の全ての通信の秘密を、このような法令上の正当行為でもなく、緊急避難でもない形で侵害することは、許されないことだと思います。言い換えれば、著作権侵害サイトにアクセスするわけではない、全ての通信の秘密が、不当に侵害されることになるのです。

このようなあやふやな根拠で遮断をしろと要請されても、通信事業者は経済的負担・設備準備以前の問題に、法的リスクの問題も考慮する必要があります。

遮断に関わるISP等は、通信の秘密侵害罪での大量の告訴告発等のリスクにさらされることになります。仮に政府見解ないし会議の決定なるものが示されても、それを信頼して行動したことのリスクは負わなければ行けません。

ここから先は憲法・情報法研究者の間で見方が分かれるものと思いますが、私自身は、適切な利益衡量を行い、明確な基準を立て、必要最小限度の範囲に遮断の範囲を限定し、司法的関与・異議申立て等の手続を整備して、著作権侵害サイトへの遮断を合法化する立法は、公共の福祉に適合し憲法21条に反しない余地があるものと考えています。

この問題については、 木下 昌彦 (Kinoshita Masahiko)先生の知財本部委員会での「著作権侵害サイトのブロッキングをめぐる憲法上の問題について」が参考になるでしょう。 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/contents/dai3/siryou4.pdf

私自身も、この問題で苦しんでおられる出版社・著作者の方々ほどではありませんが、物書きの端くれとして、著作権侵害は苦々しく思います。自分の著作権が侵害されているサイトを見たこともあります。

しかし、そうした方々も、ひとたびこうした根拠のない例外を認めれば、それが今後、ご自身の表現の自由や通信の秘密にどのような影響を及ぼすか、立ち止まって考えていただきたいと思います。

民主的な立法過程はもちろん万能ではありません。が、そこを通すという手続きを踏むことで、全ての当事者が自己の利益・考えをもう一度見直し、濫用のおそれのない合理的で正当な集合的決定にたどり着くことができるはずというのが民主主義を支える考えであり、現在の政府もそれによって統治の正当性を得ているわけです。

そうした立法過程を回避して、国民の基本的権利にかかわる重要な問題について、自己の利益を通そう・あの人の利益を通してあげようというのは、それが美辞麗句で語られれば語られるほど、警戒をする必要があります。法律による行政の原理とはそうした機能を持っています。そして今回は、通信の秘密だけでなく、この原理それ自体が危険にさらされているともいえます。

私自身、児童ポルノのブロッキングが緊急避難に当たるとする議論に関わりましたが、こうした問題に関係者の方々はみな自覚的であったと思います。極めて限定された中身の正当性はいうまでもありませんが、手続的にも、あらゆる角度からの法律論に加えて、事業者・利用者の方々も徹底的に議論をし、報告書を公表し、さらにそれを政府の場で議論し、といった段階を積み重ねて、公衆に向けて注意を喚起し、正当性を少しでも調達しようと努めてきたところです。

今回の著作権ブロッキングについては、残念ながら外野から見ていて、中身に加え、そのような手続きを踏むのではなく、むしろ回避しようとされているのではないか、と感じます。そのことは、今後の情報通信社会、政府自身がSociety5.0の実現を叫ぶこの時代において、一面では政府の統治の正当性を、他面では著作権(者)という正当な権利(者)の基盤を、ともに掘り崩すことになるのではないかと恐れます。

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