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なぜ日本は「情報隠蔽国家」になってしまったのか ~私が新刊の中で「預言」していたこと~ - 青木 理


青木氏の新著『情報隠蔽国家』(河出書房新社刊)

 情報隠蔽国家。つい先ごろ上梓した私の新刊にそんなタイトルを冠したら、まさにそれを地でいく事態が現政権の下で続々と発覚している。

 財務省は森友学園問題をめぐって公文書を改竄し、防衛省・自衛隊はイラク派遣日報を1年以上にもわたって隠蔽、防衛相にすら報告していなかった。いずれも「国家の情報」にかかわり、前者は前代未聞の犯罪的行為、後者は実力組織の文民統制(シビリアンコントロール)が問われる重大事態である。

いずれも現政権で必然的に起きた

 もとより、個々の事態を預言していたわけではない。ただ、いずれの事態も現政権の下で必然的に起きたものだと私は捉えている。つまり、事態の発生源となった役所や形態などに若干の違いこそあれ、すべての根底には現政権のありようや振る舞いが横たわっていて、そこを解き明かしていかない限り、責任の所在にも病の除去方法にもたどりつくことができない。この点にかんしていえば、私はたしかに新刊の中で「預言」していた。

 それではいったいなぜ、類似の事態が現政権下で続発するのか。また、こうした事態を放置すると社会はどのように朽ち落ちてしまうか。拙著で「預言」したことを土台としつつ、本稿では重要な2点について主に記したい。

国有地格安売却の背後には、「政権の影」は明確にちらついている

 まずは「なぜ」である。

 森友学園問題で財務省は、国有地の格安売却の経緯に関する文書を廃棄したと強弁しつづけ、ついには公文書の改竄という国家犯罪にまで手を染めた。財務省理財局の独断だったのか、政権側から何らかの指示や示唆があったのか、真相はなお不明ではあるが、改竄前後の文書を見比べれば、未曾有の所業に及んだ理由はおのずから明らかとなる。

 改竄前の文書を見れば、当事者が意識的だったか無意識的だったかはともかく、異例の国有地格安売却の背後には、首相の妻を筆頭とする「政権の影」は明確にちらついている。これが表沙汰になれば、「私や妻が関係していたら首相も国会議員も辞める」とまで言い放った首相を直撃し、政権基盤が大きく揺らぎかねない。だから隠し、改竄した。それ以外には考えられない。

陸自の日報を隠蔽したのは「なぜ」だったか

 続いて防衛省・自衛隊では、イラク派遣日報の長期隠蔽に先立ち、南スーダンPKO(国連平和維持活動)日報の隠蔽が問題化している。最終的には防衛省・自衛隊の幹部多数が処分され、当時の稲田朋美・防衛相が事実上更迭される一大スキャンダルに発展したが、この日報を隠蔽したのは「なぜ」だったか。

 これも隠蔽された日報を眺めれば理由は浮かぶ。そこに「戦闘」といった文字が刻まれていたから。現地・南スーダンで実際に「戦闘」が生起していれば、「戦地」派遣を禁じるPKO協力法ばかりか、憲法との整合性まで問われかねない。しかも当時はPKO派遣の延長問題が国会で審議されており、安保法制で政権批判を強める野党を勢いづけてしまうのは必定。だから「存在しない」と強弁して隠蔽した。

 その延長線上に、おそらくはイラク派遣日報の長期隠蔽もあった。2011年からの南スーダン派遣日報が「存在しない」のに、10年以上も前のイラク派遣日報の存在を認めれば、明らかな矛盾が生じてしまう。だからイラク日報も隠蔽せざるを得なかった。

事務次官まで務めた人物が公然と反旗を

 こればかりではない。厚生労働省では先ごろ、「働き方改革」と称した関連法案をめぐり、根拠のひとつとなるデータの幼稚なほどの杜撰さが判明、政権は法案の一部削除に追い込まれた。これも裁量労働制の拡大を目指す政権の意向に合わせるためだったのは疑いない。

 また、加計学園問題をめぐって文部科学省で起きた事態は、あらためて詳述する要はないだろう。自他ともに認める首相の「腹心の友」は、政治力などを駆使し、約半世紀も認められていなかった獣医学部の新設を目論んだ。その背後には「総理のご意向」を笠に着た圧力があったとする文科省の内部文書が明るみに出され、一大政治問題と化したが、官邸はこれを「怪文書」扱いして知らぬ顔を決め込んだ。

 加計学園問題で特異だったのは、文科省の事務次官まで務めた人物が公然と反旗をひるがえした点であろう。前文科事務次官の前川喜平氏は実名でメディア取材や記者会見に応じ、官邸側の無茶な意向によって「公正公平であるべき行政がゆがめられた」と告発したが、これについても官邸は「次官の地位に恋々としていた」などと前川氏に個人攻撃を加えた。また、おそらくは官邸発の情報だったのだろう、前川氏を貶める「出会い系バー通い」などという記事が政権寄りのメディアで大々的に報じられる始末だった。

政権の無茶な意向や無謀な政策に右往左往する官僚たち

 財務省、防衛省・自衛隊、厚労省、文科省。「国家の情報」をめぐってあらゆる役所で続発する事態に共通するのは、「一強」政権の無茶な意向や無謀な政策に右往左往する官僚たちの姿である。しかも官僚にとって最大関心事の人事を官邸に牛耳られ、露骨にそれを振り回す官邸の意向や政策に合わせるために戦々恐々とし、四苦八苦し、忖度と保身に走り、時に重要な情報や公文書を隠蔽し、時にそれを平然と捻じ曲げ、時には廃棄したと強弁し、ついには改竄にまで手を染めてしまった。

 つまり、個々の事態を分析するだけにとどまらず、強圧的な「一強」政権の無茶で無謀なありようと振る舞いに焦点を当てねば、問題の全体像は見えてこない。むしろ、そこにこそ問題の核心はあり、一連の事態の最大かつ根源的な責は政権にある。

私たちは情報と情報獲得の手段を保持しているか

 もうひとつ、こうした事態を放置しておくといったいどうなるか、という点についても簡単に言及しておく。

 2009年にようやく成立した公文書管理法は第1条で、公文書類を「民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と定義している。すなわち、これを隠蔽したり廃棄したり、ましてや改竄するなどというのは「国民共有の知的資源」を毀損する行為であり、「民主主義の根幹」を腐らせる国家犯罪行為。また、行政府が公文書を隠蔽したり、改竄文書を国会に提出すれば、立法府が行政を適切にチェックできなくなって三権分立は崩壊する。と同時に、後世に正確な歴史を残していくのも不可能になる。

 このあたりの重大性については、長々とした解説を加えるより、拙著『情報隠蔽国家』でも引用したアフォリズム(警句)を最後に記しておきたい。米国の第4代大統領であり、合衆国憲法の父とも評されるジェームズ・マディソンの言葉である。

〈人民が情報を持たず、あるいは情報獲得の手段すら与えられていない人民の政府は、喜劇、あるいは悲劇への序幕のどちらかである。知識は常に無知を支配する。自分たち自身が統治者であろうと欲する国民は、知識が与える力で自らを武装しなければならない〉

 さて、この国の現在はどうか。一応は民主主義国家を自称しているものの、私たちは情報と情報獲得の手段をきちんと保持しているか。無知に追いやられ、都合よく支配されようとしてはいないか。

 答えは記すまでもない。それはまさに喜劇、あるいは悲劇への序幕にほかならない。

(青木 理)

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