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仏国鉄スト、政府改革案に抗議


パリ市内のデモ 2018年4月3日 出典 flickr  Hermann.Click

Ulala(ライター・ブロガー)

【まとめ】

4月仏全土、SNCF(仏国鉄)の職員らによる大規模ストに突入

SNCF改革は歴代フランス政府にとって最も難しい案件。

・SNCF以外の移動手段である格安長距離バスやカーシェアリングなどが台頭。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39379でお読み下さい。】

4月に入り、フランス全土は、SNCF(フランスの国鉄)の職員らによる大規模ストに突入しました。

政府は、SNCFが450億ユーロ(約5兆9000億円)の負債を抱えており、公的資金の投入も毎年増え続け、現在では10年前より22%も増加している現状を打開するためにも改革の必要性を訴えています。

これに対して組合は、マクロン大統領が掲げるSNCFへの競争導入などを含む政府の雇用改革案に反発を強め、4月から3カ月間、5日ごとに2日間のストを6月末まで18回続ける予定を打ち出しました。

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▲写真 仏マクロン大統領 出典 Flickr  thierryleclercq

最初のストは現地時間の2日午後7時から始まり5日午前8時まで行われ、ストの影響で3日は高速鉄道の約87%、普通列車は80%が運休となりました。

政府が掲げる改革の中で最大の争点となるのが、シュミノーと呼ばれる「鉄道員」の資格の改定です。実は、公務員とも違うこの鉄道員たちの権利は一般の労働法で管理されていません。

その違いを例にあげれば、普通の会社には会社経営の悪化によるリストラがありますが、SNCFは終身雇用。通常のフランスの定年は62歳からですが、車掌、駅員は50歳から可能。

民間企業は約25日程度の有給ですが、SNCF職員は28日。また、特権として運賃の割引が本人及び家族にも適用され、毎年約100万人が利用していており、その割引額は年間約1億ユーロ(約131億円:2018年4月7日レートによる)に上ると言われています。

なぜ、「鉄道員」のみがこのような特別な労働法が設定されているのでしょうか?それはこの労働法が設定された当時は、鉄道には石炭が使用されており、石炭の煙により肺を悪くし健康を害するなどの鉄道員の健康に配慮されていたからです。しかし、もちろんながら現在では石炭で電車は走っておらず当時の状況とはかなり変わってきています。

そこで、この特権階級とも呼ばれるようになった労働法を、段階的に一般の労働条件に合わせていく事が目指されているのですが、しかし、そう簡単なものではなく、SNCFへの改革は歴代のフランス政府にとって最も難しい案件の一つとされてきました。

1995年のジュぺ首相においての改革は、1カ月近くストライキが行われ交通が麻痺し、最終的には政府が改革案を撤回せざるをえなくなりました。労働者の足となる鉄道がストップされた場合、当然ですがフランス国内は大混乱に陥ります。この大型ストの影響で1995年のフランスの第3四半期のGDPは0.1ポイント下がったとも言われており、改革をすることは必要と分かっていても、他の影響を考えると強固に進めることができないのがSNCFに対する改革。

しかしながら、ジュペ首相時代の大型ストからすでに時は23年流れ、時代は変わりました。1995年とは利用者を取り巻く環境も変わってきています。

まず2007年、新保守主義路線を掲げていたサルコジ氏により、ストライキの際にも公共交通機関の最低限の運行を義務づける法律が制定されました。そのため、ストが行われても1995年時とは違い現在は最低限の運行が行われています。

また以前は法律でSNCFの独占主義が保障されていたため、フランスの国内に長距離バスがありませんでしたが、2015年、いわゆるマクロン法で規制が緩和されました。長距離バス路線の開設が自由化され、マクロンカーまたはマクロンバスと呼ばれる長距離バスが、現在ではフランスの各都市を結ぶ路線が展開され安い値段での長距離の都市間の移動が可能となっており、今回のストでも多くの人に利用されています。その他にもインターネットや携帯電話の発達が大きく変化をもたらしました。

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▲写真 フランスの長距離バス OUIBUS 出典 OUIBUS

マクロン政権において2017年に従業員が会社に対してオフィス以外の場所で働きたいと申し出る権利を認める新たな労働法案を可決。スト当日、会社に出勤することをあきらめ、ノート型パソコンとインターネットを使って自宅で仕事をすることも可能になりました。

そして、特に今回のストで大きく注目を浴びたのは、車の運転者と相乗りを希望する人をつなぐサービスを提供している業界大手の「BlaBlaCar(ブラブラカー) 」や「Karos(カロス) 」など、新しいタイプのカーシェアリング会社の大活躍。

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▲写真 BlaBlaCar Ladies Onlyプラン 出典 BlaBlaCar

インターネット上で予約できる相乗りサービスで、行き先が同じ方向の人々が設定された金額を払い相乗りさせてもらいます。電車よりも値段が安いため普段でも利用している人はいましたが、スト期間中には通常の10倍のアクセスがあり、90000人の新規加入者を獲得。最終的にストの期間中、184000席分の移動手段が提供されたのです。

特に世界に事業展開しているブラブラカーの躍進が注目されており、今後のストの当日には、民間からバスを借り受け需要が多い「パリ ‐ リール」、「パリ ‐ ルーアン」、「パリ ‐ レンヌ」間のバスも運行するとのこと。

このように利用者を取り巻く環境が変化した結果、確かに今回のスト期間中にも、数少ない電車にどうにか乗ろうと乗客が殺到するなどの通常にはない混乱はありましたが、1995年ほどの混乱はみられていません。SNCFのみだけが頼みの綱だった時代は終わりを迎え、フランス国民も国民自身で他の移動手段や働く手段を選択できる権利を手にしたのです。

フランス世論による支持率にも違いがみられます。1995年のジュぺ首相の元でのSNCF改革に反対したストライキに対する世論の支持率は63%まで上がり、政府側が断念する結果となりました。

しかし今回は、ストライキは個人の権利と認められ行うことを尊重し「鉄道員にも同情する」と言う声もきかれる一方で、「フランスの失業率は約10パーセントであり、期間雇用の契約社員が多い中、公務員はいわば特権的な立場の人々が自分の特権のために市民に迷惑をかけてまでストを実行するのは、あまりにも傲慢だ」と言う批判の声も多く出ています。

そんな状況の中、フランスインフォとフィガロからの依頼による4月4日、5日に行われたOdoxaアンケート調査によると、世論のストライキに対する非支持率が57%と、反対の方が優勢となりました。

こういった世論の支持率は政府の決断や、ストの続行を含む組合の決断に大きく影響を与える要素ではありますが、現時点(4月7日)では、政府は改革を行う姿勢を崩しておらす、組合側も政府案はまったく受け入れられないとし、スト続行を表明。まだまだ利用者の困難な日々は続いていきそうです。

今回のSNCFによる大型ストは、特に旧体制のフランスから脱出するために改革を成功させたいマクロン政権の本気度と強靭さが試されているストでもあり、組合員の高齢化で弱体化が指摘されてはいるが、歴史的に政治に大きく影響を与えてきたフランスの労働組合の力が試されるストでもあります。フランスの大きな分岐点になるとも言え、今後の動きが注目されています。

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