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ダメ作家の作品は擁護されるべきか

KaoRiさんの告白、告発の文章を読んだ。つらかっただろうと思う。

note.mu

これを読んだあと、アラーキーの写真をこれまでと同じように見ることはできない。

アラーキーの写真は好きだった。
文学研究をしている人間として、私は作品の創作過程がはらんでいた倫理的・道徳的な問題を、そのままナイーブに作品自体の価値に結びつけて、断罪するようなことはしたくないと考えている。だから脊髄反射的に弾劾したりはしない。(現時点では一方的な申し立てだ、ということもある)

しかし、自分も研究者であると同時に、この時代を呼吸する一人の人間で、こうした創作、公開、事後対応のプロセスを経ていることが強く疑われる(断定はしないでおく)作家の作品に対して、かなりの嫌悪感を感じてしまう。そしてその感情が、作品の評価に対して跳ね返ってしまうことを止めることはできない。残念だ。

私は「モデル小説」についての歴史的な研究というのをやっていて、これとよく似たトラブルの史的変遷について少し知識がある。近代の小説家は、明治からずっと、まわりにしばしば迷惑をかけて創作を行ってきた。代表的なのが島崎藤村である。

藤村は、自分の姪っ子と性的な関係を持って、子どもまで産ませてしまった。もちろん、当時からそれは許されざることで、批判もあった。だが、彼はそのことを公表し、あろうことか『朝日新聞』にそれを題材とした連載小説まで書いた。『新生』(1919年刊)という作品がそれである。

現在では、もう考えられない状態である。当時の作家および文学についての感覚とはそのようなものだった。ただし、そのことは被害者を不幸にしなかったことは意味しない。たんに、被害者の悲劇がほとんど一顧だにされなかったというだけである。

藤村の姪っ子のその後の運命については、以下の本がある。こういう本が書かれるところに、その後の文学をめぐる私たちの社会の感性の変化がある。

島崎こま子の「夜明け前」―エロス愛・狂・革命

島崎こま子の「夜明け前」―エロス愛・狂・革命

島崎こま子おぼえがき

島崎こま子おぼえがき

hdl.handle.net

被害者側に共感がシフトしたことを示したもっとも明確な出来事は、柳美里の『石に泳ぐ魚』(1994年)をめぐる裁判だと思う。顔面に腫瘍をもつ登場人物のモデルとされた女性が、プライヴァシー侵害などを訴えて裁判を起こした事件である。2002年に最高裁が判決を下し、柳美里の敗訴が確定した。無名の、一般人の被害の訴えが、出版差し止めという強い判断まで事態を導いた、大きな出来事だった。

この時代に、明確に「書く者」と「書かれる者」の関係性は、曲がり角をまがり終えた。そして私たちは、その後を生きている。(このあたり詳しく知りたい方は、次の拙論をどうぞ。「「モデル小説」の黄昏──柳美里「石に泳ぐ魚」裁判とそれ以後」。全文以下で読めます)

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芸術家の作品の価値が、作品外の要素を排除して、それ単独で決まるというのは、ロマンチックな幻想に過ぎない。今、現実には作家自身についての毀誉褒貶や、批評軸や権力関係も含む外部的な要因で、その評価は決まっている。

その意味で、今回のKaoRiさんの告白と批判は、アラーキーにとって大きな打撃になって当然だし、それは現代の芸術空間の生態系として、当たり前の連鎖だと思う。

その上で言うとアラーキーの作品が真に偉大なら、関係者がほとんど死に絶えて、記憶が風化した後にも、彼の作品はまだ観衆を魅了し続けていると思う。芸術の偉大さがあるとすれば、時間の摩滅に耐えうるところにある。

島崎藤村の作品は、生き残った。彼は迷惑をかけ続けたトラブルメーカーだったし、もしかしたら死後75年を経てまだなお関係者で迷惑を被っている人が、いるのかもしれないが、ともかく彼の作品は読者を獲得し続けている。

アラーキーの作品は、生き残るだろうか。

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