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競争力の低さは学生ではなく教授の問題

長い歴史を誇る東京大学。時間の流れとともに、大学自体にも変化が生まれている。東大卒業生は母校をどのように見ているのか。精神科医の和田秀樹氏に聞いた。

今の東大生は目的意識を持っている

── 東大は批判の対象となりがちですが、卒業生として東大をどのように見ていますか。

確かに海外のハーバードやオックスフォードといった大学と比べると、さまざまな問題はあるのかもしれません。しかし日本国内の他の大学に比べれば入試問題の質はずっと良い。いろいろな面での情報処理能力のトレーニングになるような入試問題を課していることで、地頭の良い人を集めることには成功しています。

ただ今は18歳くらいまでの日本の若い人たちの学力格差が開いています。昔は、中卒や高卒くらいの人でも非常に優秀な人はたくさんいましたし、二流大学や三流大学と言われる人の中にも哲学書を読むような人を見かけることができました。われわれが受験勉強だけをして東大に入ってくるのに対して、他大の人の方がずっと本を読んでいるというようなことがあったと言えます。

ところがゆとり教育や勉強批判、また少子化などによって大学に入りやすくなると、いわゆる二流大学や三流大学の学生の中にすごい人をほとんど見なくなりました。

その一方、今の東大に入学する人は、昔以上に私立の中高一貫校出身だったり、塾や予備校などに通ったりしています。学力を伸ばす環境が整っているため、東大生のレベルは上がっているかもしれません。僕らが大学生だったころ、つまり30年くらい前の東大生は、たまたま受験勉強が他の子よりもできたというぐらいの話でした。今の東大の子は一般の若い子とは違います。だから起業して成功する人や外資に行く人の中にも東大出身者が増えています。

── 問題は東大生にあるわけではない。

東大生は機を見るに敏です。今の東大生は大学に入ってからすぐに勉強を始め、目的志 向も高い。留学に行きたいと考えている人はその準備を始めますし、司法試験を受ける人は予備校に入る。昔は全然勉強しませんでした。それでも良い会社に入れていたからです。今はそうではないので勉強するのでしょう。東大の問題は教える側の質が低いこと。昔から東大は「学生一流、教授三流」と言われていました。だからノーベル賞受賞者をなかなか輩出できませんでしたし、名物教授も他の大学に比べると少ない。それはトップクラスの人が大学に残らないからです。教える側の質が低くても東大生が社会に出てからもうまくやっていけたのは、もともと学力や学習意欲が高い学生が多かったからでしょう。

今は海外の大学の卒業生と戦わなければならない時代

── グローバル化が進んでいる現在でも、学生自体の能力が高ければ問題はないのでしょうか。

昔は日本国内で勝てればよかったと言えます。また企業の研修がしっかりしていたので企業が育ててくれました。学歴は地頭の良さを証明するだけのものでした。

今は即戦力が求められる時代です。そうした中、ハーバードやオックスフォード、北京大学を出た人が日本の市場に参入してきています。そうなると質の低い教授では困ります。学生がいくら優秀でも自己流で勉強しているだけでは、組織だった教養カリキュラムがある大学の学生には勝てません。加えてハーバードビジネススクールの場合、大学しか経験したことがない学者は少数派。経営や政治などの分野で成功した人を教授として呼び、学生を教えています。

東大は、日本の中ではそれなりに優秀な人を集めています。今の日本では、東大に入れ るくらい優秀なのに、あえて慶應や早稲田を選ぶ人は少ない。そういう意味でも優秀な人を集めているのに、やはり大学教育がダメ。独立行政法人化したのだから、教授の年俸をもっと上げる代わりに優秀ではない人を淘汰するシステムをつくらなければならないと思います。もしくは他の業種から教授になれる仕組みをつくってもよいでしょう。

── 海外の大学と比べて東大には誇れるところはないのでしょうか。

海外の大学の場合、大学時代がまさに詰め込み教育です。それと比べると東大はそれほど勉強漬けの学生時代になるわけではありません。そのため社会人のまね事もできます。私自身、学生時代に雑誌のライターをしていました。そこで分かりやすい文章を書いた経験が、精神科医として患者に平易に説明しようとした際に役立っています。東大の一番の強みは教養課程がしっかりしていること。この2年間の教養課程の間に遊んだり教養となる知識を身に付けたりできます。

求められるのは「ノブレス・オブリージュ」教育

── 東大生については、どのように感じていますか。

東大生にも2種類います。親や学校の先生に言われて勉強し、それで学力が高くなって東 大に入る人。どうしても東大に行きたいと私の本を買うなどして受験勉強法を工夫した人。前者は、大学に入ると目的がなくなってしまいますし、自分で工夫することができないので使い物にならないと思っています。

ただし今の東大生の一番の問題は、ダメな人への同情がないことでしょう。昔は東大生も東大以外の大学に行く人も受験で苦労していました。努力したのに東大に行けなかった人もいると東大生は分かっていたのです。だから多少なりとも自分が東大に入ったことに負い目を感じていました。

しかし今は勉強していない人が遊んで過ごしているのを見ているので、東大生は彼らが苦労したとしても「自業自得」だと思っています。その結果、弱者に冷たい社会になってしまいます。今は目には見えない経済格差の問題で、塾に行けるか行けないか、学力を伸ばせるか伸ばせないかが決まっている面もあるのに、それが理解できない。

現実に年間3万人以上が自殺し、そのうちの約1万人が経済問題を理由としています。またいろいろな形の貧困問題も存在しています。そうした中、普通は自分だけがおいしいものを食べることに引け目を持つもの。もっと東大生に対して「ノブレス・オブリージュ(財産や社会的地位の高さに伴って生まれる責任のこと)」教育をした方がよいのではないでしょうか。昔は、官僚にも貧乏でもいいから国のために尽くすという精神がありました。しかし今はそうした精神があるようには感じられません。

かつて東大は嫌われている面がありつつも尊敬されているところもありました。今はすごいと思われても尊敬はされていないのではないでしょうか。東大が以前のように尊敬されるためには東大生への「ノブレス・オブリージュ」教育が必要です。

WADA Hideki
1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。国際医療福祉大学大学院(臨床心理学専攻)教授。












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