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"景気対策としてインフレを起こせ"―飯田泰之氏の語る"デフレ脱却の処方箋"

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駒澤大学の研究室でインタビューに答える飯田泰之氏(撮影:野原誠治)
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文部科学省のサイトの「高等学校学習指導要領」には、「現代社会」の授業を行う際の目標として、以下の文章が掲げられています。「人間の尊重と科学的な探究の精神に基づいて、広い視野に立って、現代の社会と人間についての理解を深めさせ、現代社会の基本的な問題について主体的に考え公正に判断するとともに自ら人間としての在り方生き方について考える力の基礎を養い、良識ある公民として必要な能力と態度を育てる」。

"公民"であるためには、様々な問題意識を持つ必要がありますが、忙しい日常の中で忘れてしまいがちです。現代社会の問題点を改めて考え直すことを目的に、BLOGOSは、「知」のプラットフォームSYNODOSとタッグを組んで新感覚のインタビューシリーズ「SYNODOS×BLOGOS 若者のための『現代社会入門』」を開始します。SYNODOSは、多くの若手識者が参加し、現代社会を多角的に検討する「知」の交流スペースを目指しており、オピニオンブログ「SYNODOS JOURNAL」の運営も行っています。 本シリーズは、毎月第2水曜日にSYNODOSに寄稿している論者のインタビュー記事を掲載し、その記事への疑問や異論・反論に対する回答記事を第4水曜に掲載するという方式を採用。こうした方式の採用によって、インタラクティブな誌面の実現を目指していますので、読後に感じた疑問点をぜひぶつけてもらいたいと考えています。

第1回目は、駒澤大学准教授を務めるSYNODOSのマネージング・ディレクター飯田泰之氏に、2012年の日本経済と、食い違う経済学者たちの主張を読み解くための処方箋について聞きました。(取材・執筆:永田 正行【BLOGOS編集部】)

※記事へのご意見は、コメントフォームおよび議論ページにお寄せください。締め切りは1月16日(月)正午とさせていただきます。次回の記事掲載日は25日(水)を予定しております。※意見・質問の募集は締め切りました。

主張が食い違う裏には”経済学者個人の価値観とインセンティブ”がある


―テレビや新聞などのメディアを通して、様々な経済学者が異なる主張をしています。それぞれの主張の違いを、我々はどのように理解すればよいのでしょうか?

飯田泰之氏(以下、飯田氏):経済学者にかぎらずメディアで発言している論者の意見は3つの異なる源流を持ちます。一つは、その人の学術的なバックグランド。つまりは依拠する理論体系ですね。もう一つは、その人の価値観。これは個人的に何を”善し”とするかです。最後は、その人の個人的なインセンティブ。この3つが混じっていることを、必ず意識しなければなりません。

―三つ目のインセンティブについて、具体的に教えてください

飯田氏:卑近な例をあげれば、テレビに出ている時に全面的なテレビ批判をする人はまずいないでしょう。「今後もテレビに出演したい」というインセンティブがあるからですね。これが「二度とテレビに出なくともよい」と考えている人や、あるいはテレビ批判が飯のタネになっているような人であれば、当然事情は異なってくるでしょう。このインセンティブを上手に使った、そして上手に使いすぎた例が原発村なわけです。このような直接的な利害までは行かなくとも、知人・友人・取引先を真っ向から批判するのはちょっと難しい。多くの省庁や政治団体がふんわりと論者を囲い込むときに使うのがこの手法です。若手――それこそ院生の頃から「お友達」になっておく。

第二の価値観については利害やインセンティブの外、メタにあるものです。僕は「不平等、特に貧困の大部分は運に起因している」という考え、価値観をもっています。究極的には、真面目に生まれるか、不真面目に生まれるかも含めて運。「努力する才能がある人はいいな」と思いますが、それもそのように生まれついた、育ててもらえたという意味で運と無縁ではないと考えています。ですので、「経済的な格差は自己責任だ」とする戯画的な市場原理主義的発想には与しません。高所得者と中間層の差については自己責任論もある程度の意味はあるでしょうが、貧困の問題はそのほとんどが運の問題。運の問題なんだからそれを是正するシステムがないといけない。

―では、論者の主張が食い違う場合、価値観やインセンティブの部分で食い違いが生じているということでしょうか?

飯田氏:他の学問に比べると、経済学者の場合、理論的な根っこの部分は同じことが多い。たとえば、お札を無制限に刷ってインフレにならないという人はいません。異論が出るのはその際のインフレがハイパーインフレに化けるという懸念をどの程度重視するかでしょう。しかし、ハイパーインフレになってしまうという人には、インフレーションターゲットの導入を、といったかたちで理論的に詰めていくことができる。

しかし、これはあくまで「理論的には」です。もし純粋な「経済学マシーン」みたいなものがあれば、所与の状況と目指す社会的な目標を与えてやれば、経済的に合理的な回答をアウトプットしてくれるでしょう。しかし、実際の経済学者は経済学マシーンであると同時に生身の一市民でもあります。ですから、個人的な価値観がどうしても入ってしまいます。さらには、個々人のインセンティブも働きますから、理論の外側での対立が生じてくることも多いでしょう。

―なるほど、経済理論の外部にも着目しなくてはいけないということですね。

飯田氏:そう。理論だけではなくその背後にある価値観・インセンティブまで含めて考えないといけない。さらにもうひとつ重要なのが「何を変えられる変数」と見ているかです。

現在のようなグダグダな政治状況を前提として考えているのか、それとも政治状況も動かせるものとして考えているのか。より狭い話でいえば、日銀法を改正できるという前提に基づいた政策と、現行法に基づく政策では当然対異なってくるわけです。

僕が主張しているかたちでのリフレ政策は日銀法の枠内では実現できません。なので、「現行法を変えないで」という前提で話をしている人とはどうしても意見は一致しない。たとえば、官僚は基本的に現行法の枠内での解決策を考えるのが仕事ですから、抵抗は大きいかもしれませんね。官僚あるいは官僚寄りの論者にとっては、法というのは不変の前提だからです。僕は、そういう論者がいてもよいと思いますが、「変える必要があるなら変えなければいけない」と思います。日銀法にかぎらず、「いや、○○法があるから」と反論されると、「だから、それを変えろといってるんだよ」と僕は思ってしまいますね。

現在の経済状況を好転させるにはインフレが必要です。インフレのためには金融緩和の継続がマーケットに信用される必要がある。さらに大幅な緩和が行きすぎにならないように、あらかじめ予防線を張っておく必要がある。だから法的な意味でのインフレーションターゲットが必要なのです。インフレ率1.5%までは無制限・無期限で徹底的に緩和を続ける。2%を超えたら足下の経済状況を見ながら、いまやっているように、その場に応じた政策をとる。そして3%を超えたら締める。

このような目標に応じた政策を日銀法に書けるのか、書けないのかという議論をはじめることが必要です。現行の日銀法の範囲内だと、「量的緩和の継続を日本銀行が強く主張する」というかたちにしかなりません。過去に日銀は脱デフレまで緩和継続といいながら、デフレのままで2回利上げを断行している。法的な拘束なしではそんな組織の緩和宣言を「一体誰が信用する?」という話ですね。

いずれにしても、前提として与えられた状況の変数が何なのか、という点で対立することはあります。変数が違えば、ベースの理論が同じでも主張に差が出てきます。僕は少なくとも「法律」は動かすべき変数だと考えています。また、政権党が変わればできるということであれば、「政権党」も動かしていい変数でしょう。ただ、国際環境は動かしようがない。このように、何を変数と判断するかが、主張の食い違いにつながっている場合も多いです。

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