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憲法についての鼎談から

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2月に西宮で行った憲法をめぐる鼎談がブックレットになって刊行されることになった。

「予告編」として、その中のなかほどのところの内田の発言をあげておく。

内田 今、石川さんが政治が急速に劣化してきて、前近代的で破壊的で、軍事力信仰をするというタイプの政権ができてしまったと話されました。その通りだと思います。本当に政治が劣化している。なぜ劣化したのか。小選挙区制のマジックも理由の一つでしょうし、官邸がメディアを抑えているということも理由の一つでしょう。でも、それらは言わば戦術です。なぜそのような戦術が採択されたのか、「何を実現するために?」という問いが立てられなければならないと僕は思います。

僕の暴論的仮説を申し上げます。敗戦後の日本の基本的国家戦略は、「対米従属を通じて対米自立を果たす」ということでした。これは敗戦国としてはそれ以外の選択肢がない必至の国家戦略でした。だから、後知恵で良い悪いを言ってもしかたがない。とにかく徹底的な対米従属を貫くことによって同盟国として米国に信任され、結果的に国家主権を回復し、国土を回復するというのが敗戦時の日本人の総意だったわけです。

そして、実際にこの「対米従属を通じての対米自立」というトリッキーな国家戦略は成功しました。1951年にサンフランシスコ条約で国家主権を回復し、68年に小笠原諸島が返ってきて、72年には沖縄の施政権が返還されました。だから、45年から72年までについて言えば「対米従属を通じての対米自立」というシナリオはそれなりの成果を上げたのです。

日本は50年代には朝鮮戦争を支持し、60年代、70年代は世界的な反戦機運の中で、「大義なき」ベトナム戦争でもアメリカを支持し、アメリカの世界戦略に従うことで、結果的には大きな果実を得たのです。

このことは「成功体験」として記憶されたわけですから、その後も対米従属路線に変更の出るはずがなかったのです。でも、対米従属路線に伏流していた日本人の心性には変化があった。

60年、70年の安保条約反対闘争は本質的には反米愛国闘争でしたけれど、これとまったく無縁なところにいたはずの一般のサラリーマンたちも実は別のかたちで愛国的な情念に駆られて対米経済戦争を闘っていた。あの時代の戦中派のラリーマンたちを衝き動かしていたのは「次の戦争は勝つ」というものでした。今度はアメリカに勝つ。経済で勝つ。

江藤淳は63年にプリンストン大学に留学している時に、ニューヨークで酌み交わした中学時代の同級生からこう言われたと書いています。

「うちの連中がみんな必死になって東奔西走しているのはな、戦争をしているからだ。日米戦争が二十何年か前に終わったなんていうのは、お前らみたいな文士や学者の寝言だよ。これは経済競争なんていうものじゃない。戦争だ。おれたちはそれを戦っているのだ。今度は敗けられない。」

当時はこういうマインドを持っていたビジネスマンは決して少数派ではなかったはずです。60年代以降の日本の高度経済成長を駆動してきた動機のうちには言葉にはされなかったけれど、反米的なセンチメントが含まれていた。

そして、そのような思いに駆動されて、70年代以後も日本の経済発展は止まるところを知らず、80年代にはもうアメリカの背中が見えてくるところまで来ました。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と持ち上げられ、「日本式経営」が世界標準になり、そしてバブル時代を迎えます。

もう遠い昔のことでみんな忘れてしまっていて、何であんなに浮かれていたのか馬鹿みたいだったと冷笑的に回顧する人が多いですが、僕はあの時の日本人があれほど興奮したのは、もしかするとこのままの勢いで経済力が増大すると、いずれアメリカから国家主権をお金で買い戻せるんじゃないかという途方もない夢を見たからじゃないかという気がするんです。

1989年は昭和が終わり、平成が始まった年であり、ベルリンの壁が崩壊したエポックメイキングな年でしたが、バブルの絶頂であったその年に、三菱地所がマンハッタンのワールドトレードセンターを購入し、ソニーがコロンビア映画を購入しました。日本の企業が摩天楼とハリウッド映画を買ったのです。あの頃よく言われた言葉に「日本の地価を合計するとアメリカが2つ買える」というのがありました。日本の地価の高騰に困惑する文脈で口にされたはずの言葉ですが、それを人々がどれほど自慢げに口にしていたのか、僕はまだ覚えています。それは単に金があってすごいだろうという成金自慢に止まらず、ここまで来たらアメリカも日本に対していつまでも宗主国面ができなくなるんじゃないか、うまくしたら札ビラでアメリカの頬をはたいて国家主権を金で買い戻せるんじゃないかという妄想を日本人が抱いたからではないかと思います。

80年代半ばから90年代はじめにかけてのバブル期の日本人があれほど高揚していたのは、単にお金の万能性を国民全体が狂ったように信じただけではなく、その「万能の金」で自分たちが最も欲しいもの、すなわち「アメリカの手にある国家主権」を買い戻すことができるんじゃないかと思ったからではないか。僕にはなんとなくそう思えるのです。

外交的には対米従属に徹しながら、金儲けに勤しむことで、国家主権をアメリカから取り戻す。日本人にとって、これは実にクレバーな国家戦略でした。アメリカで当時日本車を壊すような烈しいジャパン・バッシングがありましたけれど、アメリカの市民は市民で直感的に分かっていたんだと思います。「日本人は良からぬことを企んでいる」ということを。だから、さまざまなかたちでアメリカが日本経済に干渉したこともあってバブル崩壊に至った。

バブル崩壊後の日本人の脱力感を僕は覚えています。多くの日本人はバブル期の数年間に生涯で最も贅沢な日々を送ったはずですから、その分だけ脱力感も深かった。「失われた20年」と言われますけれど、これは別にお金がなくなって気落ちしたというだけではないと思います。お金がなくなったので、もう「国家主権をお金で買い戻す」という夢のような解決策の可能性がなくなった。その無力感が国民全体に無言のうちに共有されていた。

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