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日本の家電がデジタル時代に失速した理由

■日本発だった家庭用ビデオ、CD、液晶テレビ……

日本の家電産業は、かつては世界に先駆けて新しい価値を生み出すことが非常に得意でした。家庭用ビデオやCD、そして液晶テレビのコンセプトなどは、いずれも日本のメーカーから生まれたものです。技術的に優れた製品を作り出し、それが消費者に受け入れられ、高収益に結びついていたのです。

ソニーは過去最高益を見込む(写真は社長の平井一夫氏)。(時事通信フォト=写真)

ところが、今世紀に入り、日本の家電産業は失速します。背景にあるのは、デジタル化による競争環境の変化です。アナログ時代は、部品と部品を組み合わせる際、そこに匠の技が必要でした。しかし、デジタルの世界では、基本性能が大幅に向上し、技術的進歩の差がわかりにくくなったうえ、組み合わせが容易になった結果、参入障壁が低くなり、誰もが簡単に高品質な製品を作れるようになりました。技術だけでは勝ち残れない状況が生まれたのです。

もう1つは、価値観の多様化です。以前は、技術開発に投資し、技術が伸長した分だけ製品の機能が向上し、その分価格が上がり、収益も上がるという単純な構造でした。しかし、技術伸長のカーブは必ずどこかで限界に近づき、緩やかになります。その段階にくると、消費者は必ずしも技術の差だけで商品を買わなくなり、機能・性能以外の価値が重要になります。

■技術以外の価値を求めていく方向にシフト

そんな中で、技術以外のところで差をつけるメーカーが現れてきました。象徴的な存在がアップルです。iPhoneは、従来の携帯電話に比べると単純な仕組みで、メカニカルな部分は折りたたみ式携帯などに比べればシンプルな作りです。バッテリー性能や音楽を聴く際の音質も最高というわけではありません。しかし、使い勝手やデザインのよさなど、感性に訴える新しい価値を生み出すことで成功しました。

もう1つの例が、米パソコンメーカーのデルです。自前の技術や工場は持っていませんが、日本のメーカーが軒並み失敗しているパソコン事業で今も収益を上げています。同社の場合、独自のサプライチェーンを戦略の差異化ポイントとして他社よりも効率的な事業で競争優位を築いています。このように、アップルにせよデルにせよ、デジタル化によって技術だけでは差がつかなくなった中で、技術以外の価値を求めていく方向にシフトしていったわけです。

ここでポイントとなるのが「効果」と「効率」です。アップルが追求したのは効果であり、デルが追求したのは効率です。この2つの方向性は根本的に両立せず、トレードオフの関係にあります。経営戦略を考えるうえでは、両社のように、自分たちが今、追求すべきなのは効果なのか、効率なのかをしっかりと見定める必要があります。

■無駄の多い工場のほうが、なぜよいのか

効率の追求とは、目的が明確な場合に、その実現に向けて無駄なことを一切しないことです。デルは、より高性能なパソコンをより安く提供するという明確な目的のために、無駄を徹底的に省くことによって利益を生み出しました。

ただ、効率を追求すると、明確なニーズ以外のものが見えなくなる問題があります。市場に潜在するニーズ、あるいは全く存在していない新しい価値は、効率の追求からは生まれません。

ハーバードビジネススクールの故ウィリアム・アバナシー教授は、自動車メーカーの工場を観察し、無駄の多い工場からは新しいアイデアが出てくるが、無駄の少ない工場からは新しいアイデアは出てこない傾向があることに気づき、これを「生産性のジレンマ」と呼びました。

新しいアイデアを生み出すには、効果の追求が必要です。効果とは、多様性のことです。さまざまなアイデアに基づきトライ・アンド・エラーを繰り返さなければ、新たな価値は生まれません。製品には必ず当たり外れがありますから、それを数多く繰り返せるほうが効果的です。ただし、そこには必ず無駄が存在します。現代のように、顧客のニーズが明確にわからないときには、無駄を許容して、新しいものを試すことが重要です。

■トライ・アンド・エラーに臆病になっていないか

日本の家電産業がデジタル時代に失速した理由は、効果と効率、いずれの追求も中途半端だったことです。

もともと日本の家電メーカーは、効率的な開発よりも、ゼロからイチを生み出す効果的な開発を得意としてきました。従来同様に研究開発に投資してきたものの、それまでのような利益が得られない局面に入ったのが2000年代初頭でした。そこで、収益性をよくするために効率を高めようとして出てきた考えが「選択と集中」です。

ただ、日本の家電メーカーは、伝統的にトライ・アンド・エラーをよしとする文化のため、1つのことに集中して無駄なことを一切しないというところまで、舵を切ることがなかなかできません。

効率を追求するなら、サムスン電子や中国のハイアールのように大量生産して世界のマーケットに打って出て、規模の経済性を追求する必要があります。それには、ボリュームゾーンである低価格帯の商品を展開する必要がありますが、そこには進出しようとしません。その理由として「人件費の安い韓国や中国にかなわない」といったことがよく言われます。

■「給与が高いから、安いモノは作れない」は幻想

しかし、実際には日本企業も中国に工場を造り進出していますし、開発担当者の給与は中国や韓国のほうが日本よりも高いのです。「日本は給与が高いから、安いモノは作れない」という考えは幻想にすぎません。また、中途半端な選択と集中を行っているため、新しいことに対するトライ・アンド・エラーにも臆病になっています。このように効果も効率も追求し切れない状況が、日本の家電産業を弱くしたのではないかと思います。

今後の日本の家電メーカーにとって何よりも重要なのは、それほど複雑なことではありません。これまでは技術開発に投資をするだけでリターンが得られましたが、それだけではだめなのです。何のために何をするのかを、ビジネス全体を見据えて判断する。言い換えれば、まともな経営をするということです。

終身雇用が定着している日本企業では、経営者は社内からの昇進組が多く、過去の事業における実績の“ご褒美”として登用されるケースが一般的です。しかし、事業部門の技術トップがそのまま社長になって技術開発にだけ目を向けていては今日の競争には生き残れません。事業レベルの戦略と全社レベルの戦略では求められる能力が異なります。

■経営力の強化にもっと資源を投資すべき

日本の家電メーカーの現場は依然として強く、技術やノウハウは蓄積されています。現状は、その現場力が、うまく収益化できていないだけなのです。一方、技術的な優位性を持たなくてもそれ以外の経営資源を伸ばすことで全体として競争優位を築いている米国や中国の企業が多く存在しています。日本企業も経営力の強化にもっと資源を投資すべきです。

外部からトップを招くことで経営力を強化したのが、シャープであり、東芝の白物家電の会社である東芝ライフスタイルです。両社とも1年足らずで業績が回復しましたがそれを可能にしたのは、現場の強さに加えて、台湾や中国から優れた経営能力を持った人が送り込まれて、経営が改善されたからです。

最近の白物家電の好調さは、日本の家電産業にモノづくりの基礎体力があることを示しています。日本の技術力に優れた経営力が加わることで、日本の家電産業は復活できるはずです。

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長内 厚(おさない・あつし)
早稲田大学大学院経営管理研究科教授
京都大学大学院修了、博士(経済学)。1997年ソニー入社。映像関連の商品企画・技術企画、新規事業部門の商品戦略担当などを務める。2007年研究者に転身。神戸大学経済経営研究所准教授、早稲田大学商学学術院准教授などを経て16年より現職。

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(早稲田大学大学院経営管理研究科教授 長内 厚 構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)

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