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女性の妊娠を憎む斜陽国家ニッポン

 文部科学省の調べによると、2015年度から16年度にかけて、公立高校で女子生徒が妊娠・出産を理由に、学校側から自主退学を勧められ、結果として退学したケースが32件あったことが明らかになったという。(*1)(*2)

 また、産前産後を除いて全期間通学をしたケースが778件、本人または保護者の意志による自主退学が642件となっている。
 通学を続けたケースが778件にくらべ、自主退学を勧められたケースは32件と、一見少ないようにも見えるが、本人や保護者の意志による自主退学、また妊娠以外を理由とする休学などが245件あることから、女子高校生が妊娠したということに対する学校や社会からの圧力は、そうとう強いことが分かる。

 実際、自分がこのニュースをツイートしたときにも「退学は行き過ぎだが、高校で妊娠をするような女子生徒に卒業できるような忍耐があるとは思えない」などという反応があり、妊娠ということを「女子生徒の一方的な失態」としてみなすような世論の頑固さを感じさせられた。

 女子高生が妊娠をするのは、決して女子高生自身のみの失態ではない。問題は学校教育において正しい性教育が行われていないことにある。

 男女が恋愛をした上、セックスに至る。これはごく自然のことである。しかし同時にセックスの結果、妊娠してしまうことは、非常にリスクが高い。だから通常私たちはセックスをする際はコンドームなどを用いて避妊を行う。

 しかし「ナマでやるのが愛の証」だったり「ナマでやっても外に出せば大丈夫」だったり「コーラで洗えば大丈夫」のような、いい加減な知識が氾濫しているのが実情だ。

 また、女性の側がコンドームなどの避妊具の使用を求めても男性側が快楽目的にそれを拒否するなどの問題もある。

 いずれにしても、セックスはどうしても男性の意向が優位に立ちやすい。一方で、その結果としての妊娠という肉体的、社会的なリスクを負うのは女性なのである。

 セックスをすることを単純に忌避するのではなく、対等な人間関係の中で妊娠というリスクをコントロールするためにはどうするかということは、人間関係の基礎として教えておく必要がある。
 そして子供に対して真っ当な性教育を教えることができる場所というのは、学校以外にありえない。故に、妊娠してしまった子供に対して教育の権利を保障するとともに、望まぬ妊娠を避けるための性教育を教えることが、妊娠退学のような問題を減らすためには重要である。

 しかし、今の日本で真っ当な性教育を行うことができるだろうか?
 3月に、東京都足立区で行われた性教育の授業が不適切であると自民党の古賀俊昭都議が指摘。足立区教委側は不適切ではないと反論している。(*3)

 ではどのような授業内容かといえば、高校生になると中絶件数が急増することは、コンドームは性的感染は防ぐが、避妊率は9割程度であり「妊娠を避けるためには産み続ける状況になるまで性交を避けること」などという内容であり、極めて真っ当で穏当な内容であるように思えるが、この程度の内容にすら噛み付く政治家がいるのである。

 こうした性教育に対する政治側からの介入は今に始まったことではない。
 政治と性教育の問題を考えるに欠かすことのできない「七生養護学校事件」という問題がある。
 これは東京都日野市の七尾養護学校(現、東京都立七生特別支援学校)で、知的障害を持つ児童に対して行われていた性教育に対し、2003年に一部の都議が「行き過ぎた性教育」と批判。その後、マスコミを引き連れて七生養護学校を訪れ、教材を持ち去ろうとしたり、恫喝まがいを行うなどをして七生養護学校に非難の声を集中させた。

 その非難を受けて東京都教育委員会は、授業に用いていた教材を没収するとともに、校長や教職員に対して厳重注意処分を下したという事件である。
 その後、七生養護学校の教師や在校生、保護者などが都や都議らの介入を不当として裁判に訴え、2013年11月に都議らの発言は侮辱行為であり、都教委による処分も違法という判決が確定している。(*4)

 しかし、この件は今もなお日本の真っ当な性教育に暗い影を落とし続けている。
 そして何を隠そう、この時に養護学校を批判した都議の一人が、今年になって足立区での性教育を批判している古賀俊昭都議なのである。

 更に自民党は都議らによる教育現場への介入を問題視するどころか、2005年に「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」を発足させ、保守系マスコミと共に性教育バッシングに乗っかった。そしてそのチームの座長についたのが、現総理大臣の安倍晋三なのである。

 いわば自民党は党ぐるみで真っ当な性教育を否定したと言える。そしてその体制がそのまま今の日本政治の中核に座ってしまっている。
 この状況で、真っ当な性教育に取り組む環境が生まれるかといえば、ハッキリ言って絶望的であろう。これからしばらくは、女性が男性からはもちろん、社会からも一方的に妊娠のリスクを負わされる状況は続くだろう。

 また、現状で退学に追い込まれた女子生徒たちは、真っ当な性教育をバッシングし、子供たちから隠そうとしている、今の政治体制の犠牲者であると言っていいのである。

 数十年前から少子高齢化は日本の屋台骨を揺るがす大問題でありつづけている。
 もはや子供が少ないというだけではなく、若者も少なくなり、労働人口自体が減ってきている。
 そうした中で、妊娠した女性を国がちゃんと下支えせずにどうしようというのだろうか。

 子供はコウノトリが運んできたり、桃の中に入って川を流れてやってくるわけではない。ましてや少子化だからと労働人口がいきなり発生することもない。セックスからの妊娠という過程を経て生まれ、労働人口になるには20年ほどの時間を要するのである。

 子供が減っているからこそ、正しい性教育を行う。そして女性が望んだ結果、妊娠をしたのであれば、それを社会が全力で支える。そのような支援体制がなければ、日本の斜陽が止まることはないであろう。

*1:妊娠・出産の高校生、学校の勧めで「自主退学」32件(朝日新聞デジタル ハフィントンポスト)https://www.huffingtonpost.jp/2018/03/30/highschool_a_23399064/

*2:高校生の妊娠、望まぬ退学 公立15・16年度、勧告受け32人(朝日新聞デジタル)https://digital.asahi.com/articles/DA3S13429202.html?rm=150

*3:性教育に圧力をかける自民都議は正しいのか(駒崎弘樹 NPOフローレンス代表)https://www.komazaki.net/activity/2018/03/post7665/

*4:七生養護学校の教育に対する不当介入事件〜都議・東京都に対し賠償を命じた判決が確定〜(三多摩法律事務所)http://www.san-tama.com/topics/32

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