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「ひるおび」における田崎氏、柿崎氏の発言で和田議員への名誉棄損は高い確率で成立しない

 和田議員が、「事実に基づかない放送 これでいいのか(http://blogos.com/article/285125/)」というブログを書かれ、氏の応援団と思しき方々から相当数の支持を得ています。
 氏はこの中で、

「田崎史郎氏は、自民会派所属で自民党所属でなく来年改選なので自己アピールしようとしたと、事実を誤認し批判」
「柿崎明二氏は「毀誉褒貶が激しい」「フェイクが多い」と根拠を示さず批判」

とした上で、

「事実に基づかない批判は名誉棄損でしかない。」

と主張しておられるのですが、どうも「名誉棄損」特に公務員又は公選による公務員の候補者、すなわち所謂「公人」への名誉棄損について相当程度に誤解していると思いますし、私自身同様の誤解に基づくのではないかと推測される名誉棄損訴訟を提起されておりますので、氏の名誉棄損の主張が成立するかと合わせて、少々解説させて頂こうと思います。

 まず刑事における名誉棄損の根拠条文は以下の通りです。

刑法230条1項
「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」

民事における名誉棄損の根拠条文は、上記の刑法230条1項と、

民法709条
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

になります。

 つまり民事においては、故意または過失によって、「公然と事実を適示し」て人の評価を下げる刑法230条1項に該当する行為を行った者は、「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」する不法行為を行ったものとして、これによって相手に生じた損害を賠償しなければならないと構成されているわけです。

 されこれだけですと、「事実に基づかない」どころか事実に基づいて批判しても「公然と事実を摘示し」に該当して名誉棄損が成立してしまいそうですが、刑法にはこのほかに以下の条文があります。

刑法230条の2第
(1)前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
(3)第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

 刑法第230条の2第1項、3項によって、公務員又は公選による公務員の候補者すなわち所謂「公人」に関する批判は、それ自体「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図る」為になされたものと見做され、摘示した事実が真実である事の証明があった場合は、刑法230条に定める名誉棄損は成立せず、刑事において名誉棄損が成立しない以上民事においてもまた名誉棄損は成立しないとされているわけです。

 では、直接具体的な「事実を適示」するのはなく、
 「毀誉褒貶が激しい」「フェイクが多い」若しくは「バカな知事」
などの言葉-意見・論評で人の評価を下げた場合はどうでしょうか。この場合には、以下の判例が事実上の基準となっています。

 平成9年9月9日最高裁判所判決(判時1618号52頁)
「ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、右意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、右行為は違法性を欠くものというべきである。そして、仮に右意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、事実を摘示しての名誉毀損における場合と対比すると、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されると解するのが相当である。」

 上記の通り所謂「公人」に対する批判は、「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図る」為のものと見做されるので、上記判例により、意見・論評によって所謂「公人」の評価を下げた場合、①その意見・論評が人身攻撃に及ぶなどの意見・論評の域を逸脱したものではない。②意見・論評の前提としている事実が真実であることの証明があるか、証明がなくてもその事実を真実と信ずるについて相当の理由がある。の二つがあれば、名誉棄損は成立しないものと解されています。

 そして言論の自由を尊重する日本国憲法(憲法21条)に鑑み、実務上①②は比較的幅広く認定され、相当な言論が「意見・論評の域を逸脱していない。」「真実と信ずるについて相当の理由がある。」とされています。

 つまり公人に対する名誉棄損は、極めて成立しづらいというのが、現在の司法の運用なのです(極めて正しい運用だと私は思います。)。

 では、和田議員が問題視している「ひるおび」における、田崎氏の和田議員は「自民会派所属で自民党所属でなく来年改選なので自己アピールしようとした」という批判、柿崎明二氏の「毀誉褒貶が激しい」「フェイクが多い」という批判は、和田議員がこれを裁判に訴えた場合、名誉棄損と認定されるでしょうか?

 裁判に絶対はありませんが、私は、高い確率で成立しないと思います。

 まず和田議員は田崎氏の「自民会派所属で自民党所属でなく」の事実誤認を殊更に強調しておられますが、和田議員の認識はいざ知らず、そもそもここは意見・論評の重要な部分ではない上、一般の人の理解では「自民党会派所属」と「自民党所属」は大差なく、実際和田議員は、もともと「日本のこころ」所属で、2016年11月18日に離党、同月21日に無所属のまま参議院の自民党会派に所属し、2017年9月24日に自民党に入党したもので、名誉棄損を構成するほどに和田議員の評価を下げるものではないとされる可能性が高い様に思われます。
 次の「来年改選なので自己アピールしようとした」については、「来年改選」はまさに真実であり、これを前提としてなされた「自己アピールしようとした。」という意見・論評は全く人身攻撃等には該当せず、間違いなく名誉棄損は成立しないものと思われます。

 次に柿崎明二氏の「毀誉褒貶が激しい」「フェイクが多い」ですが、「毀誉褒貶が激しい」や「フェイクが多い」というのは事実の問題ではなく、評価の問題であり、意見・論評に当たります。そしてこの程度のものは、まず「人身攻撃」等に当たるとされる事はありません。そこでこの意見・論評の前提となっている事実が真実か、若しくは「真実と信ずるに相当の理由」があるかどうかが問題になりますが、「毀誉褒貶が激しい」については本件についての和田議員に対するマスコミでの批判を始め多々あり、否定する事自体ナンセンスでしょう。「フェイク」についても「政権を貶める為に意図的に変な答弁をしているのか。」というご質問をご自身でなさり、少なくとも「政権を貶める為に」の部分の議事録からの削除にはご自身も同意されている以上、多いか少ないかは評価の問題として、少なくとも「フェイクがあると信じるについて相当の理由」がある事を否定することもまた困難であると思います。

 以上、「ひるおび」における田崎氏、柿崎氏の発言について、名誉棄損が問題となりそうなのは、明白に事実と異なる「自民会派所属で自民党所属でなく」の部分だけなのですが、とはいえその可能性も、上記の通り決して高いものではないと、私は思います。

 和田議員が「ひるおび」における田崎氏、柿崎氏のこれらの発言についてこれからどうされるのかは和田議員の自由ではありますが、与党自民党の広報副本部長という重職にあるものとして、「事実に基づかない放送 これでいいのか」などと題するブログで訴訟をちらつかせ、暗にマスコミに圧力をかけたりせず、正々堂々声を大にして

「私は紛れもなく自民党に所属している!」
「私に対する毀誉褒貶は激しくない!」
「私の発言にフェイクはない!」

と主張されるのが、本来の在り方ではないかと、私は思います。

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