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新聞販売の闇――「押し紙」偽装で読者データを改ざん ~販売部数の偽装は「詐欺」という犯罪的要素を孕んでいる~ - 幸田 泉

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 2017年末、東京中心部のオフィス街を騒然とさせる出来事が発生した。日経新聞東京本社ビルのトイレで火災が発生し、男性1人が亡くなったのだ。火災の1週間後、警視庁丸の内署は男性の身元を発表。亡くなる1カ月ほど前まで東京都練馬区で日経新聞の販売所長をしていた水野辰亮さん(56)だった。焼身自殺の可能性が高いという。

【写真】「残紙」が積まれた朝日新聞販売店

 実は近年、表面化はしていないものの新聞販売店主の自殺は多発している。日経、朝日、読売、毎日……。知られざる連続死を追うと、新聞販売店の置かれた苦境が浮かび上がってきた。

※告発ルポ 新聞販売店主はなぜ自殺したかの続きです。

◆ ◆ ◆

 多くの新聞社は部数維持のために押し紙に手を染め続けている。泣き寝入りする販売店主が多い中、本社と闘う販売店主もいる。

「訴訟に向け準備をしています。本社(新聞社)にはまともな話が通じないので、法廷で決着をつける」

 こう話すのは、兵庫県西宮市で毎日新聞の販売店を営んでいた板見英樹さん(52)だ。2017年10月、板見さんの販売店は、毎日新聞本社から「強制改廃」された。強制改廃とは新聞社側が販売店主の意向に関係なく、一方的に販売店契約を打ち切ることだ。そこで板見さんは損害賠償や債務不存在を求めて訴訟に踏み切ることにしたのだ。

 一体、何があったのか――。

「弁護士を降ろせ」

 板見さんは2010年11月から毎日新聞の鳴尾販売所を経営してきた。当初、本社から輸送される「送り部数」2300部のうち、読者がいるのは980部ほどしかなく、板見さんは事態を改善しようと年100軒以上のペースで読者を増やした。開業時は販売店の経営を支える補助金「経営補助」が月280万円支給されていたが、2012年度から90万円に減額。にもかかわらず鳴尾販売所は経営が維持できており、本社からの経営補助が必要ない「自立」への道を歩んでいた。

 開業から約4年が経った頃、西宮市内の南甲子園販売所と今津販売所の2店を経営していた販売店主が廃業することになり、板見さんは毎日新聞社の担当員から経営を持ち掛けられた。そして2店のうち南甲子園販売所を引き受けることとし、そのための資金として金融機関から新たに1500万円の融資を受けた。

 この時から状況が変わった。南甲子園販売所はひどい赤字店で、鳴尾販売所の利益を食われた上に借金だけが残ってしまった。板見さんは「今思えば毎日新聞社は、鳴尾販売所の経営が良好なので金融機関からまだ追加融資が受けられる私に目をつけ、借金させるだけさせてそれを吸い上げるのが目的だったのではないか」との疑いが捨てきれない。


店先には大量の「押し紙」が……

 南甲子園販売所は送り部数1700部のうち実配部数(読者に配達されている部数)はわずか約480部しかなかった。毎日新聞社からは月100万円弱の補助金が支給されていたが、とても足りず、月300万〜400万円の赤字。この内情を知らされていなかった板見さんは、担当員に補助金を増やすか送り部数を減らすよう迫ると、担当員は「補助金を増やす」と答えたという。しかし補助金は増額されず、板見さんは2015年春に金融機関からの融資金を使い切った。さらにその担当員は、補助金増額の約束を果たさぬまま突如会社を辞めてしまった。次の担当員は「補助金の増額は辞めた担当員が勝手に言っただけで社の決定ではない」と主張。板見さんは弁護士を立てて2015年8月から新聞代の入金をストップし、毎日新聞社に話し合いの場に着くよう迫った。

 その結果、2015年10月から南甲子園販売所への送り部数は1700部から550部に減ったが、一方で鳴尾販売所への月90万円の経営補助金は打ち切られた。そこで、板見さんは販売店収入から従業員給与や借金の返済など必要経費を差し引き、請求書の金額とは関係なく「本社への新聞代は支払える分だけ支払う」こととした。

 2016年8月、毎日新聞社から和解の申し出があった。それとともに担当員は「来年から鳴尾販売所の販売エリアを拡大する」と提案してきた。板見さんは承諾し、資金確保のため金融機関から800万円の追加融資を受けようと考えた。金融機関からは南甲子園販売所と毎日新聞社の業務委託契約書の提示を求められた。だが、板見さんは本社から契約書を渡されずに経営をしていた。自らは署名捺印した契約書をすでに渡していたが、いくら催促しても、担当員は契約書を持って来なかった。結局金融機関からの融資が受けられず、板見さんは小切手の不渡りを出してしまった(契約書を渡さなかった件について毎日新聞社は〈別の必要書類がそろわなかったことや担当員の入れ替わりもあって事務作業が遅れました〉と説明した)。

 板見さんは再び弁護士を立て、新聞代は支払えるだけ支払う方針を継続しながら本社と話し合いを続けようとしたが、「弁護士を降ろせ」と、販売局幹部や販売担当取締役までが圧力をかけてきたという。

 そして2017年10月、板見さんの販売店は強制改廃された。

読者データを改ざん

 板見さんは、毎日新聞社に対して起こす訴訟の中で、自身が目の当たりにした押し紙による部数の偽装など「新聞販売の闇」を明らかにしていくつもりだという。

 板見さんは本社との書面を交わさない「口約束」で後に不利を被らないように、南甲子園販売所の契約書トラブルがあって以降、関係者との会話をなるべく録音してきた。

 板見さんが保持する録音の1つが、多くの新聞販売店が使っている読者管理データシステムのメーカー「デュプロ株式会社」(本社・大阪市北区)のエンジニアとの会話だ。

 押し紙は然ることながら、新聞の折り込み広告が「詐欺」という犯罪的要素を孕んでいることはあまり知られていない。板見さんの録音の存在によって、その暗部に光が当たろうとしている。

「新聞販売店の収入は、新聞購読料と折り込み広告の手数料です。読者のいない押し紙も含めた『送り部数』の広告枚数を受け取り、行き場のない広告は新聞紙で包んで廃棄していました。折り込み手数料は1枚いくらという枚数に比例した価格設定なので、廃棄分は手数料の詐取になります」(板見さん)

 販売店は罪悪感を持ちながらも経営を支えるため手数料を少しでも多く得たいし、新聞社は販売店に詐取金も含めた折り込み広告収入があるのを見越して押し紙をしている。

 板見さんはこう証言する。

「こんな部数の偽装ができるのは、新聞販売店が日本ABC協会の公査で偽データを見せているから。デュプロのエンジニアはそのデータ改ざんに協力しているのです」

 日本ABC協会とは紙媒体が発行部数を偽って広告料を吊り上げるのを防ぐために第三者の立場で監査を行う一般社団法人だ。2年に1回、新聞販売店公査を行っている。

データの改ざん方法は「過去読(かこどく)起こし」

 慣例で日本ABC協会は公査の前日、新聞社に対してどの販売店が対象かを通告する。

「デュプロのエンジニアは、公査対象の販売店が分かったらすぐ店に行き、パソコンの読者データを改ざんし、『送り部数』と同数の読者がいるよう偽装すると言っていました。本当に販売店の読者データを書き換えてしまったら大変なことになるので一時的にデータを改ざんし、公査用にプリントアウトするわけです。販売店主や担当員にそんな技術はないので、エンジニアがやるしかありません」(板見さん)

 数年前に日本ABC協会の公査を受けた別の毎日新聞の元販売店主は、こう述懐する。

「公査の時に読者データを改ざんするのは業界の常識です。担当員から『明日、お宅に公査が入る』と連絡があったので、『ホンマの部数を出そうか?』と言ったら『勘弁してくださいよ〜』とヘラヘラしていましたね」

 担当員からは発証台帳(読者の名前や住所を記録したもの)、発証集計表(集金状況を記録したもの)を改ざんし、領収書の控えをねつ造するよう指示を受けた。公査当日は担当員も販売店に来た。

「データ改ざんの方法は『過去読(かこどく)起こし』と言って、かつて読者だった人のデータがパソコンに残っているので、その人たちがまだ読者であるかのように書き換えるのです。改ざんデータは公査用にプリントアウトして、公査が終わった後、パソコン内のデータはまた元に戻していました」(同前)

 公査は1時間ほどで終わり、日本ABC協会の公査員(監査する人)は「こんなにきちっと資料がそろっていると楽でいいですよ」と喜んでいたという。

「日本ABC協会の公査で読者データの改ざんは常識」と言う新聞販売店関係者がいる一方で、「ウチはもうデータ改ざんはしていない」と反論するのは朝日新聞関係者だ。2010年頃、「公査で読者データを改ざんしている」と内部告発があり、改ざんを止めたという。

「現在、朝日新聞の販売店は公査では読者の生データ(正確なデータ)を出しています。日本ABC協会は朝日新聞本社への公査の後、販売店を公査する。朝日新聞の販売店は送り部数のうち約3割が『押し紙』の販売店が一般的です。だから、本社の送り部数と実売部数に差があって、公称部数に足りていないことは公査員は分かるはずです。でも、公査がきっかけで販売店の押し紙が整理されたという話は聞いたことがない。ABC協会の公査自体が形骸化しているのではないでしょうか」

 そんな朝日新聞について毎日新聞社の元担当員は裏事情を述べる。

「公査で生データを出すなんて朝日新聞だからできること。毎日新聞の販売店は5割が『残紙』なんて珍しくないし、ひどい販売店では7割もある。ウチはとてもじゃないが生データは出せません」

 ちなみに「残紙」というのは読者に配達されず販売店に残っている新聞を指す業界用語だ。「押し紙」と同義語だが、「押し紙」は独占禁止法違反に該当するので、違法性を粉飾するために敢えて「残紙」や「予備紙」と言い換えているのだ。

 各新聞社や販売店によって残紙の量や割合は様々だが、いずれにせよ、部数の偽装がまかり通っているのは、日本ABC協会の公査をクリアしているからだ。

 部数公査における読者データの改ざんについて当事者に問い合わせた。デュプロ社は〈弊社内で調査を実施する予定です〉との方針を示した。毎日新聞社は〈担当員が販売店に読者データを改ざんするよう指示することはありません〉と否定した。日本ABC協会は〈販売店には、日常業務の配達数、発証(売上)数を示して頂くことをお願いしております〉と言う一方で〈公査の主たる目的は本社から販売店への送り部数(到着部数)の確認です〉とし、販売店のデータ改ざんについてはノーコメントだった。つまり、日本ABC協会の公査は、読者に配達されずに廃棄される新聞の存在を調べるものではなく、販売店に大量の残紙がある実態に即していない。

 データの改ざんは論外だが、実態に迫ろうとしない公査が「折り込み広告手数料の詐取」にお墨付きを与えていることについて、日本ABC協会は猛省すべきではないか。

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