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特集:中国全人代の迷走、米国通商戦争の暴走

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今週は重大事件続出の1週間。まずは中国で全人代(全国人民代表会議)が始まりました。異例の長期日程で、例年のような「シャンシャン大会」ではなさそうです。続いて4月末、板門店での南北首脳会談が決まったニュース。平昌パラリンピック後の朝鮮半島情勢に向けて、北朝鮮の金正恩委員長が「非核化」というカードを切ってきました。

そして何より、トランプ政権の鉄鋼・アルミ追加関税の動きです。これでは「通商戦争」になりかねないと、ゲイリー・コーンNEC担当補佐官が抗議の辞任をするというおまけつき。どこから手を付けていいのかわからないくらいの盛りだくさんですが、本号では「対照的な米中の動き」に焦点を絞って取り上げてみたいと思います。

●異例尽くしの全人代が進行中

今週3月5日に全人代が始まった。予定が3月20日まで、と聞いて軽く驚いた。例年の全人代は12日前後だが、今年は16日間。こんなに長かったことは記憶にない。今年の「中国における国会」は、以下のように見どころ満載ということになりそうだ。

<全人代の主要日程>
3月5日 開幕、李克強首相の政府活動報告
3月11日 憲法改正案を採決 →国家主席の任期上限を撤廃
3月13日 機構改革 →新汚職摘発機関を設置
3月17-19日 国家と政府の新体制を選出 →王岐山国家副主席が誕生?
3月20日 閉幕、習近平国家主席演説、李克強首相記者会見

そもそも先月行われた平昌冬季五輪に、習近平国家主席が開会式にも閉会式にも出なかった、という時点で尋常ではない(次回の2022年大会は北京が主催するというのに!)。文在寅大統領が、どれだけ熱心に訪韓を要請したかは想像に難くない。とはいえ、「今はそれどころじゃない!」という国内情勢だったのであろう。

さらに意外だったのは、このニュースである。

○「第19期三中全会 党・国家機関改革の目標を示す」(人民網、2018年3月1日)1

中国共産党の第19期中央委員会第3回全体会議(三中全会)が2月26~28日に北京で開かれ、習近平総書記が重要談話を発表した。新華社が伝えた。

会議は「党・国家機関改革の進化に関する中共中央の決定」及び「党・国家機関改革深化案」を採択。後者の一部を法定手続きに従い、第13期全人代第1回会議に上程することに同意した。
「三中全会」と言えば、普通は党大会の翌年秋に行われ、中長期的な国家運営を決する場である。鄧小平が「改革開放路線」を打ち出した1978年も、江沢民が「社会主義市場経済」を打ち出した1993年も、舞台は「三中全会」であった。そして直近の2013年秋の三中全会では、習近平総書記が「市場原理を重視する」経済改革路線を打ち出した。お蔭で李克強首相主導の「リコノミクス」が、一気に霞んでしまったものだ2。それがなぜ今回は全人代の直前、組織改革をめぐる会議に化けたのか。ちなみに今年1月には、「二中全会」が開かれたばかりである。

5年に1度の党大会と、毎年3月に行われる全人代では本来重みが違う。まして中国は、党が国家を指導する体制である。党大会から半年後の全人代は、党が決めた通りの内容を一同がシャンシャンと追認するのが通例であったはず。にもかかわらず、党が何度も会合を開かねばならないということは、いかに各方面からの反発が強いかということであろう。今年の全人代は、それだけヤバい案件を抱えているということだろう。

●習近平「一強」体制が招くもの

なにしろ今回は、「国家主席の任期上限を撤廃する」憲法改正を予定している。このことに対する西側世論の反発は強い。代表的なのが今週号のThe Economist誌のカバーストーリー”What the West got wrong”で、「中国を見損なった」とまで言い切っている。中国が国際的なシステムに受け入れられて、経済的に豊かになれば、いずれ民主化するだろうという西側の見込みは外れた、というのである。

率直な感想を言わせてもらえば、「あんたたち、意外とナイーブだったのね」ということになる。中国の民主化を期待する意見は、少なくとも冷戦終了後の日本国内ではほとんどなかったはずである。2015年春に欧州諸国が雪崩を打ってAIIBへの参加を決めたときも、日本国内では冷ややかな意見が大勢であった。概して日本国内の対中観はネガティブ・バイアスが強過ぎるきらいがあるが、その代わり安定している。これに対し、欧米の対中観はブレが大きく、これまでの楽観ムードが急速に修正されているようである。

特に中国式「シャープパワー」への警戒感が強まっている。The Economist誌では、昨年12月16日号のカバーストーリーでこの言葉を取り上げている3。ジョセフ・ナイ教授による「ソフトパワー」をもじって、調略、恫喝、圧力といった手段の合わせ技によって、外国への影響力を行使する中国式の手練手管を評したものである。

今まで何度もその手口の標的になってきた日本企業からすると、これまた「騒ぎ過ぎ」に思えてしまう。彼らは21世紀の国際関係において、「孫子の兵法」を実践しているようなところがある。ちなみにナイ教授は、「そんなことは昔から行われてきたこと」であり、「それに対抗しようと自らフェイクニュースを流したりすると、かえって米国のソフトパワーを損なうことになる」と、中国への過剰反応を戒めている。

話を戻して、習近平国家主席の任期延長についていえば、おそらくは独裁者の権勢欲の発露というよりも、諸情勢に追い込まれての「やむにやまれぬ」決定ではないかと思う。「一強体制」を作らないことには、やりかけた国内改革を仕上げることが出来ないというのが表向きの理由であり、これまで葬り去った政敵たちの反撃も警戒しなければならない、という裏の事情もこれに加わる。同情するつもりはさらさらないけれども、成功した権力者につきものの局面というべきではないか。それこそ中国史の中では、似たようなエピソードが無数に見つけられるはずである。

他方、今回の決定によって、従来からの中国共産党の「好循環」が破壊されるかもしれないという予感もある。今月、白桃書房から出版された『チャイナ・エコノミー』(アーサー・R・クローバー)4は、米国人チャイナウォッチャーによる好著であるが、中国経済の成功の理由を「官僚制」と「分権体制」に求めている

すなわち中国を理解する際には、①独裁制ではなく、科挙以来の伝統を持つ官僚国家であり、②公式には中央集権だが、実際には非常に分権化されていること、がポイントである。しかるがゆえに中国には強い政治と経済が共存し、「石を探りながら川を渡る」(鄧小平)ことが可能であったと評価している。

本書は特に、「生存する元首から別の元首への権力移譲が、3回続けて行われた」点を評価している(鄧小平→江沢民→胡錦濤→習近平)。これは他の権威主義的国家では稀有のことである。その秘訣は、まことに単純なことながら「定年制」にあった。今回の全人代はその「定年制」を取り払うことになる。

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