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国から「産め」と言われて「産みたい」と思う女性なんていない - 「賢人論。」第57回山口真由氏(後編)

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世銀(World Bank)のデータによると、2016年の日本の高齢化率(総人口に対する65歳以上人口の比率)は世界最高水準の26.86%であるのに対し、アメリカは15.16%だという。日米では家族のあり方だけでなく、社会の年齢構成も大きく違う。山口真由氏の目に、アメリカ社会はどう写ったのか?

取材・文/ボブ内藤 撮影/公家勇人

スローガンを掲げるだけで出生率はあがらない

みんなの介護 現在、日本政府が進めている「ニッポン一億総活躍プラン」では、少子高齢化を克服する手段の一つとして、合計特殊出生率(1人の女性が産む子の平均人数)を現状の1.4から1.8に上げることを目標にしています。これについて、山口さんはどう思いますか?

山口 正直なところ、違和感があります。国から「子どもを産みなさい」と言われて、「産みたい」と思う女性が本当にいるでしょうか?明治時代の富国強兵政策や、戦前の「産めよ殖やせよ」というスローガンが連想されて、あまりいいイメージは浮かびません。

結婚する人が少なくなり、その結果、生まれてくる子どもの数が少なくなっているというのは事実としてあると思いますが、これを「未婚化」、「少子化」というキーワードでとらえて社会問題にするだけでは何の解決にもなりません。

社会問題としてマクロに捉えるよりも、むしろ個人の生き方の選択としてミクロに考えるほうがいいのかもしれません。1994年にエジプトのカイロで開かれた国際人口開発会議で「リプロダクティブ・ライツ」という言葉が提唱されました。「性と生殖に関する権利」と訳されていますが、すべてのカップルと個人が、自分たちの子どもの数、出産間隔、出産する時期を自由に、かつ責任をもって決定できるという基本的権利を指します。

私は、社会全体のために子どもを生んでほしいと女性に義務感を植え付けるより、個人の選択の問題として考えるほうが、今の時代に合っているのではないかと思います。

みんなの介護 山口さんは財務省で働いていた経験もおありですが、日本の官僚の問題解決力についてはどう思いますか?

山口 私が日本の官僚組織の中に入って感じたことは、組織全体が家族のようなつながりを持っているということでした。

「課全員そろっての昼食で、部下は上司より先に食べ終わるもの」とか、「部下は上司より早く帰らないもの」とか、そういう暗黙のルールがいくつもある。お互い家族のようになってプライベートと仕事の区切りがつけにくかったり、お互いに甘えがあってそれが過度な仕事につながったり、そうした負の側面ももちろんあるのでしょうが、反面、とても面倒見のいいのも事実。

財務省1年生は、ほぼ全員が寮生活なんですが、初任給が出るまでは職場に財布を持ってこなくていいんです。お昼を食べに行くときも、終電を逃してタクシーになっても、必ず上司や先輩に面倒を見てもらえる安心感はありました。

みんなの介護 昔ながらの…という感じがしますね。

山口 もちろん、10年前の話ですから、今もそうなのかはわかりませんが、そんな家族的な雰囲気は今も多少は残っているように思います。それが、アメリカのような極端な政策転換が起こりにくい土壌につながっているのかもしれません。共和党と民主党が2つの極として対立するアメリカに比べて、日本はなんとなく曖昧……

医療や介護の分野で起こっている財政問題なども、「弱者を切り捨てない」という基本的な考えを捨てずにゆるやかに進めていくのが、日本的なやり方のいい面だと、私は思っています。決して悲観的になることはありません。


「家族とは何か?」。その問が私を惹きつける

みんなの介護 現在、東京大学大学院に所属し、ハーバード大学で学んだ家族法の研究を続けている山口さんですが、そもそも「家族」というテーマにどうして惹かれるのでしょう?

山口 誰もが家族から生まれ、自分でも家族を作って次の代に引き継いでいきます。ですから家族はもっとも身近な存在であるはずなんですが、「家族とは何か?」と考えると、すぐには答えられない疑問にぶつかります。

「血」のつながりなのか? それとも産もうとする「意思」なのか? はたまた親と子の間の「機能」なのか? かつては迷わずに答えられたこの問いは、現代においてひと言で答えられないものになっています。そうした時代の変化を見届けたいという気持ちが、私を惹きつけているのだと思います。

みんなの介護 山口さんご自身は、家族を持つことについて、どうお考えですか?

山口 私の両親のように、結婚して、子どもを産んで、ちゃんとした家族を作りたいという思いはあります。でも、「ちゃんとした家族って何?」ということを研究しているせいでしょうか、それができていない自分を後ろめたく思うことがあります(笑)。

子どものころから今に至るまで、私はつねに背伸びをして生きてきました。「今のままのでいい」と現状に満足してしまうのが怖くて、身の丈以上の自分を目指したところがあります。東大受験をしたのも、財務官僚や弁護士になったのも、それからハーバード大学に留学したのも、そういう努力をする中で自分が選んできた道なのでしょう。

でも、家族って、そんな風に努力したところで簡単には作れませんよね。だからこそ、このテーマを見つけられたことは私にとっては幸運なことかもしれません。もしかしたら、「今のままでいい」と思える自分に出会うことができるかもしれませんからね。そういう意味で、ハーバード大学に留学したことは、正しい選択だったと思っています。

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