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箱根駅伝選手の所属学部から考える

毎年1月2日、3日に行われる箱根駅伝。お好きな方も多いことでしょう。
私も毎年、楽しみにしています。

箱根駅伝は、番組平均世帯視聴率で25〜30%程度という数字を安定してたたき出す、テレビ界の優良コンテンツ。お正月というタイミングもあり、文字通り全国のお茶の間が、この伝統のタスキリレーに熱中しているわけです。

(参考)
■「東京箱根間往復大学駅伝競走(日本テレビ)歴代視聴率 【関東地区】」(ビデオリサーチ社)

これだけの視聴率を誇る番組で、数時間もの間、大学名が連呼されるというイベントは、他にありません。
選手たちのユニフォームや、沿道に並ぶノボリなどから、大学イメージも刷り込まれます。「紫紺のタスキ」=明治大学、のように、いつの間にか大学のブランドカラーまで覚えていたりします。
言うまでもなく、大学の広報としては、非常に魅力的な場です。何しろ、「箱根駅伝でしか聞いたことがないが、名前は知ってる」という大学があるくらいです。逆に言えば、箱根駅伝に出れば知名度だけはとりあえず上がりますので、新設校などでは大学経営陣の指示により、箱根駅伝への参加を一大ミッションに掲げるところもあるようです。以前お会いした大学の教職員の方の名刺に、「箱根駅伝担当」と書かれていたこともありました。

有望な選手の獲得・育成、そのための環境整備など、参加までには大変なコストがかかるようですし、1年やそこらでどうにかなるものでもありません。箱根出場を決める予選会に、大学経営の命運がかかってるケースも(大げさではなく)あるんじゃないでしょうか。

ちなみにレース当日、コース沿道で選手を応援したことがある方はご存知でしょうが、あの沿道にずらっと並ぶノボリは、大学の持ち出しで用意されています。そして、実はテレビカメラが映す部分に集中して並べられています。

このように、受験生獲得に悩む大学にとって、大学名を知らしめる絶好のチャンスである箱根駅伝ですが、「何もわざわざ真冬に走らせることはないのでは」とか、「この競技のために強化選手を呼び寄せているのではないか。それは、大学スポーツの精神に合致するのか」とか、色々と批判もあります。
学生本人の学業に対する意欲や能力よりも、大学広報上の都合が優先されてしまっているのでは、という意見も聞きます。

昨今では、多くの大学は学業とスポーツの両立を掲げた指導をされていると思うのですが、大学広報のためにスポーツ推薦で選手を集め、学業より練習を優先させるような大学も、ないとは言いません。これは、箱根駅伝に限った話ではありませんが、何しろ箱根駅伝の影響力は桁外れに大きいので、こうした議論の的になりやすいのでしょう。

これに関連して、毎年、個人的に注目しているポイントがあります。
それは、登録されている各選手の、所属学部。

■箱根駅伝公式Webサイト

箱根駅伝の公式サイトには、全登録選手の所属学部や出身高校などをまとめたデータがアップされています。
これを見ると、興味深いことがいくつかわかります。
体育・スポーツ系学部 66人
医療系学部 14人
社会科学系学部 184人
人文科学系学部 28人
自然科学系学部 12人

計 304人
参加する19大学(関東学連選抜は除く)の全選手の所属学部を分類すると、上記のようになります。

体育やスポーツ系学部の選手が多いのはわかりますが、他の部分には興味深い偏りが見られます。
経済や経営、法などの社会科学系学部が圧倒的に多く、スポーツ系学部生の3倍にのぼります。一方、工学部や理学部などの自然科学系は極めて少ない。304人中、たったの12人です。レースの中で、理・工学部や農学部の学生が出てきたら、レアキャラだと思ってください。ちなみに、医、歯、薬、看護などの学部や、芸術系学部の学生はゼロです。
もともと全国の大学生を見ても、社会科学系学部に所属する方は比率的に多めなのですが、それを勘案しても偏っています。
(箱根駅伝の強豪大学には、この10年ほどの間にスポーツ系学部を新設したところがいくつかありますので、それ以前は、上述したような偏りがより顕著だったのではないかと想像します)

大学による、所属学部の違いも興味深いです。
たとえば明治大学は9つの学部を持つ総合大学ですが、今回の箱根駅伝登録選手16人は、このうち8学部からバランスよく参加しています。青山学院大学も同じで、全9学部のうち8学部からは、最低1人は学生が登録しています。文字通り、全学から集まった選手達ですね。バラバラのキャンパスから練習に参加するのは、さぞ大変だったことでしょう。

一方で、「10学部を持つ総合大学なのに、箱根駅伝に登録されている16人は全員、経済学部の学生」という大学もあります。不自然な偏りです。選手の大半が特定の学部に集中しているという状況は、いくつかの大学に見られます。
体育・スポーツ系学部を持つ大学で、これらの学部に学生が偏るのは理解できますが、ほかの特定学部に偏る理由は何もないはずです。


自然科学系の学生が少ない理由として想像できるのは、「理工系や医療系の大学は、学業が大変だから」です。じゃあ社会科学系は楽なのかという疑問は当然生じますが、「1年生の時点では偏りはないが、結果的に自然科学系がいなくなる」からなのか、「最初から大学が、スポーツ推薦の学生を社会科学系の学部に固めて入学させている」からなのか、という点も気になります。

もし、スポーツ推薦にかかわる大学関係者達が自ら、「理系は勉強が大変だから」と文系学部を薦めたり、指導上の都合で特定学部に学生を固めていたりするのだとしたら、そこにはやはり、教育よりも大学広報の都合、学生よりも経営の都合を優先させる論理が介在しているのだろうと思います。

こうした疑問は、「スポーツ推薦制度はそもそも要るのか」という問いにも繋がってきます。「スポーツで自分を磨いてきた人に、学問を学ぶ機会を与えるための制度」だというなら意義はわかるが、実際には「勉強は苦手だけどスポーツで自分を磨いてきたという人に、スポーツを続ける機会を与える制度」になっている、という指摘も、しばしばなされます。

学生一人ひとりは、頑張って、学業とスポーツの両立に励んでいることと思います。そんな彼らを個人的には応援したいですし、学問とスポーツを糧に成長し、社会でその経験を活かして欲しいと期待もします。箱根駅伝での力走も、いち視聴者として楽しみにしています。
しかし、テレビを見ながら、「大学は、大学経営のために、どこまでのことをやっていいのだろう?」という疑問も、やっぱり感じたりします。

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