- 中国による土地買収は世界に広がっているが、最近は特に農地買収が盛ん
- これに対して各国で規制が強化されている
- 日本での農地買収に関しては、その体系的なデータすらなく、現状把握が必要
- ただし、中国企業の農地買収を警戒するだけでは生産的でない
- 必要なことは、中国企業の力を用いながら日本の利益を増進する「活かす規制」
2月22日、フランスのマクロン大統領は中国企業を念頭に、外国企業による農地の売買を規制する方針を発表。フランスでは2016年にアンドル県の1700ヘクタールの農地を、2017年には中部の穀物地帯アリエ県で900ヘクタールの農地を、それぞれ中国企業が買収していました。同様の方針は各国でみられ、日本でも北海道などで外国人の農地取得を規制する動きがみられます。
日本では他国より外国人の土地所有が容易です。そのため、中国企業の進出を背景に、その規制強化を訴える意見が噴出することは、不思議ではありません。ただし、何の規制もなく外国企業が日本の土地を購入できる状況は改善するべきとしても、それは中国企業による農地買収をただ警戒することと同じではありません。
中国の土地買収の状況
まず、中国による土地買収の大枠をみていきます。
中国の企業・個人による海外の土地の買収の目的は、会社や工場の設立から、個人の住居、転売目的の投資など多岐に渡ります。このうち(実際に居住するかどうかにかかわらず)宅地に関しては、海外不動産を扱う中国最大の斡旋サイト居外(Juwai)への問い合わせ件数順で、2017年段階では米国のものが最も多く、それにオーストラリア、タイ、カナダ、英国、ニュージーランド、ドイツ、日本、ベトナム、マレーシアが続きました。モルガンスタンレーの調査によると、2016年段階で売買が成立したロンドン中心部の商業地のうち、25パーセントは中国人が買収していました。
ただし、同じ調査によると、中国から海外の住宅地、商業地への投資は2016年の106億ドルをピークに、2017年には17億ドルにまで激減。この背景には、中国当局が資本の流出に制限を加え始めたことがあるとみられます。
中国政府は企業による海外での不動産投資に「禁止」、「抑制」、「推奨」の三つのカテゴリーを導入。このうち「禁止」にはカジノや軍事関連、「抑制」にはホテルや住宅開発、そして「推奨」には農業やインフラ整備が含まれます。
つまり、中国政府はマネーゲームともなる海外不動産の買収を制限しながらも、「実際の生産活動をともなう」土地の買収に関しては、むしろ熱心になっているといえます。実際、図で示すように、中国の海外投資に占める農業の割合は増加する傾向をみせています。そこには、いわゆる「食糧安全保障」や、米国など先進国の大企業が握る食糧の国際市場に割って入る目的があるとみられます。
オーストラリアの規制
農地買収の対象にはアフリカや中南米の開発途上国だけでなく、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、米国なども含まれます。その結果、例えばオーストラリアでは2017年段階で1440万ヘクタールの農地を中国資本が所有しているといわれ、これは同国における耕作可能地の2.5パーセントにあたり、外国資本による土地保有の約25パーセントを占めます。
中国では自然豊かなイメージからオーストラリア産食品の人気が高く、同国産ワインの40パーセントを輸入しています。中国企業がオーストラリアの農場でこれらを生産することは、企業にとってMade in Australia というブランドを手に入れられる一方、中国にとって食糧を安定的に調達するルートを確保することにつながります。
しかし、中国企業による農地買収があまりに急速なことは、「投資目的の宅地買収が活発化すれば、住宅価格を押し上げることになりかねない」、「自国の食糧供給を脅かしかねない」といった懸念を生み、外国人の土地所有に対する規制の強化につながっています。
オーストラリアの場合、2017年に外国人の宅地購入(その87パーセントは中国人)にかかる税金が、最大で購入価格の8パーセントに引き上げられ、それに続いて2018年2月にはエネルギーとともに農業関連の土地購入に関する規制が強化され、農地を転売する場合にはオーストラリア人に優先的に販売されることなどが定められました。
これまで中国企業による土地買収が目立っていたオーストラリアで規制が強化されたことは、投資対象を拡散させたとみられます。それにつれて、冒頭で紹介したフランスなど、ヨーロッパ諸国のなかにも規制を強化する動きが広がっています。