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賢者の石か、悪魔の契約「大気を変える錬金術」

大気を変える錬金術 地球そのものが栄養過多になっている? 読了したときの感想というより不安。

 100年前は10億人だったのに、現在では60億を超えている。人口爆発の理由として、様々なテクノロジーや開発の成果が挙げられるが、著者はずばり、「ハーバー・ボッシュ法のおかげ」という。水素と窒素を反応させアンモニアを生産する方法で、「空気をパンに変える方法」とも呼ばれ、「賢者の石」を探す旅になぞらえたりもする。なぜなら、この方法により、自然にあるものよりも、はるかに大量の肥料が、ほぼ無尽蔵に得られるからだ。同様に、この方法により、無尽蔵に火薬を得ることもできる。

 まえがきで著者は断言する。人の生死にかかわっているという視点からふり返ったら、ハーバーとボッシュは、歴史上もっとも重要な功績を残したと。彼らは都市レベルの工場を建て、巨額の財を成し、何百万人もの人の死に手を貸し、何十億もの生命を救ったというのだ。いくらなんでも吹き過ぎだろうと読み始めたのだが、読み終えたときには納得していた。著者独特のレトリックを拝借すると、「いまの世界の人口の半分は、彼らの開発したもののおかげで生きている」になる。あるいは、もっと身近に実感したいなら、自分の体を見ろという。「あなたの体の窒素の半分は、ハーバー・ボッシュ法によって作られたのだ」。

 窒素は大気の8割を占め、無尽蔵にある。大量にありながら、ほとんどの生物は大気中の窒素を直接利用できない。できるのは窒素固定細菌と呼ばれる微生物の一部だけで、あとは稲妻や火山活動により、「固定窒素」が作られる。それをあらゆる生物が利用し、あらゆる生命が維持されている。だから、ハーバー・ボッシュ以前に戻るなら、地表のすべてを農地に変え、全員ベジタリアンになったとしても、人類の半分が飢えることになるというのだ。そう考えると、「何十億もの生命を救った」人物だということが分かる。

 では、「何百万人もの人の死に手を貸し」たのは?殺人ガスの開発だ。自分の工場を・工場を・財を守るため、それまで用いられいた催涙ガスではなく、塩素を用いた人を殺すガスをつくり、提供したのだ。殺人ガスによる攻撃が成功すれば、戦闘をすばやく終結させることができ、結果的に「何人もの命が救われるのだ」とハーバーは強行する。科学が、政治、権力、プライド、金銭、そして個人的な欲望と対立したときにどうなるか、嫌というほど思い知らされる。科学を邪悪にするのは人の業なんだろね。

 そう、前半は硝石の文化史、後半はハーバー・ボッシュの開発史の構成となっているが、本書を裏から読むと、人類が科学をいかに食い物してきたかが見える。ライバル会社の特許を無効にするための訴訟の丁々発止やら、敗戦国(ここではドイツ)の化学技術を奪い合うあさましさ、自分の工場を守るためナチスに全面協力した経緯が克明に記されている。ここまで「科学=銭金」を体現する人物に不快感を抱くかも。

 ハーバー・ボッシュ法による、指数的に増加する人口爆発の秘密は分かった。しかし、そのために人類が支払った代償は、本書に書かれているだけではないと思う。ナチスや火薬や化学兵器がもたらした悲劇に済まないと考えいる。というのは、最近のわたしの中の疑問───栄養過多になる地球───があるから。本書によると、本来地球上に生きながらえる数の2倍を養っているということは、大量の化学肥料がバラまかれていることになる。全てが土地や植物に吸収されるはずがないから、川に運ばれ、海に注ぎ、(比重が重いから)深海へたどりつく。仮に、「地球上の栄養分の分布図」マップが作られるのなら、深海こそ滋養たっぷりになっているのでは。化学肥料でドーピングされた養分が海へ流れ出す。いわゆる赤潮の被害の元はコレだったのではないか、と密かに考えている。

 化学と銭のイヤらしさとともに、新たな知見を識ることになった一冊。

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