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彼はどこからアイディアを得たのか?「チャップリン自伝」

チャップリン自伝 スゴ本オフ@松丸本舗でオススメされ、手にした一冊。これ何度も挫折したんだよなーとつぶやきながら読む。最初はハードカバーで(やたら分厚かった)、次は原著で(眠くなった)。どうやらこれは上巻分に相当するらしい。オススメいただいたモギーさん、ありがとうございます、いい本でした。

 チャップリンのサービス精神は、映画のなかだけでなく、自伝にも発揮されている。読み手を笑わせるエピソードにホロリとする小話をさしはさみ、極貧時代からスターダムに駆け上がるまでを、息つくヒマなくイッキ読みする。緩急自在の語りなり。彼の映画の基調―――笑いとペーソスの混ざりあい―――は、子どもの頃の思い出にある。

 あるとき、屠畜場から逃げ出した羊が通りを駆け回り、通行人を転ばせたり跳びはねさせたりしたという。最初は滑稽で面白くて笑っていたが、捕らえられた羊が屠畜場へ連れ戻されてしまうと、突然、その羊の悲劇がクローズアップされる。彼はいそいで家へ帰ると、泣きながら母にこう訴える「あの羊、みんな殺されるよ!殺されるよ!」。

 非常に興味深いのだが、幾度もクビをひねったのは、彼の正確すぎる記憶力。例えば、幼いころもらった小遣いの額から手仕事の報酬、レシピ、当時の生活に必要なこまごまとした物価までを、ことごとく覚えている。さらに、共演者の口上の過ちと、正しい台詞を精確に覚えている。「抱腹絶息、アドリブ自在(ad libitum)」の発音ができず、アド・リビタムを「アブリ・プラム」「アブリバム」と発音していた―――などと指摘する。この回想録を書いたのは老齢になってからだから、驚異的といっていい。完璧主義がなせる業(「わざ」じゃなくて「ごう」)かもしれない。

 さらに、ユーモアにぴりっと辛味を利かせる箴言もちりばめている。「ニューヨーク五番街のすばらしい邸宅群も、人間の住む家というよりは、成功の記念碑という感じ」と揶揄するさまは漫画的だが真実だ。また、「アメリカ人は、エネルギッシュな夢にとり憑かれた楽天家であり、挫折を知らない冒険家」、さらには「イギリス人が他人の社会的ひけ目を見抜く天才的なすばやさは、実際驚くばかりである」などと、なかなか辛らつな観察眼による。

 チャップリンといえば、『あの』スタイルが思い浮かぶが、最初は即興の思いつきから始まっている。チョビひげは年齢を隠すためだし、巨きな山高帽氏とドタ靴はアンバランスさを笑ってもらうために閃いたそうな(同様に、キツキツの上着とダブダブのズボンも然り)。そのアイディアがどこから得ていたのか、そのヒントはないかという観点でも読んだのだが、答えは上述の通り、「人の観察と正確な記憶」になる。彼がよく読んだもとして、エマスン、トゥエイン、ポー、ホーソーンを挙げているが、古典の教養は思ったほど身についていないと告白している。「退屈をいやされた」程度だというがどうだろう。

 本書からは確認できなかったが、醜聞もこと欠かなかったらしい。フェラチオというラテン語を人口に膾炙させたのはチャップリンその人であることは、意外に知られていない事実だ(と、Tumblrで流れてきた。さらに彼のあだ名は「小児科医」だという。理由は、結婚相手の年齢にあったのかもしれない。コリン・ウィルソンあたりを読めばロリコンの気の話が出てくるのだろうか。

   1918年 チャップリン29歳 16歳のミルドレッド・ハリスと結婚
   1924年 チャップリン35歳 16歳のリタ・グレイと結婚
   1932年 チャップリン42歳 21歳のポーレット・ゴダードと結婚
   1943年 チャップリン54歳 18歳のウーナ・オニールと結婚

 浮名や名声とは裏腹に、さびしい心を抱えていたようだ。喜劇役者として大々的に支持されるようになったとき、彼は大衆の中の孤独を味わうようになる。「みんなわたしを知っているらしい。だが、そのわたしは、だれひとり知らないのだ」―――視る人と演ずる人が同じ空間にいた時代から、メディアという媒体を経るようになったちょうどはざかいにある孤独なのかもしれない。

 良い機会なので、読了後、「キッド」を子どもと観る。子どもたちはガラス割って逃げるシーンがお気に入りで、ハラ抱えて見入っている。スラップスティックで終るかと思いきや、分かりやすい伏線で表された感動の場面も用意している。1921年に公開の、今でもじんとクる映画だ。もう100年なのか、まだ100年なのか。わたしの一番好きなこの台詞を聞くために、もういちど「ライムライト」を見てみるか。

  “What you need in your life is courage, imagination and some money.”
  人生には三つのものがあればいい、希望と勇気とサムマネー

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