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遺族支援、SOS受信…自殺予防学会理事に聞く自殺者数減少でも残る課題

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3月は自殺対策強化月間。そこで、日本自殺予防学会の理事長、張賢徳さん(帝京大学溝口病院精神科医師)に、日本の自殺の現状と自殺対策のあり方などについて話を聞いた。

撮影:渋井哲也

張さんは、自殺した人の遺族からの聞き取りによって、その原因を探る「心理学的剖検」の手法から「人はなぜ自殺するのか」(勉誠出版、2006年)や、うつ病治療に関する「うつ病新時代」(平凡社、2010年)などを執筆してきた。昨年9月には同学会の理事長に就任している。

若者や高齢者の自殺は減っていない

ーー日本では年間自殺者3万人の時代がありましたが、2012年以降は、3万人を割っています。

1998年から2011年まで年間自殺者3万人を超える状況が続きました。その兆候は97年からありました。当時は自殺統計の発表は年一回でしたが、調べると、97年に前年比で自殺者が増えているという新聞記事がありました。そして同年に北海道拓殖銀行や三洋証券が倒産し、11月には山一證券の破綻を迎えます。さらに98年には、日本長期信用銀行が破綻しました。今後、日本はどうなるのかと思われる状況でした。

98年以降、特に、40代〜60代の男性の自殺が増えます。当時、同学会の役員会でも話題になりました。当時、「もしかすると、一過性かもしれない」との声もありましたが、ずっと年間自殺者3万人で高止まりが続いたのです。

2000年を超えて、ようやく政府が自殺対策に乗り出し、「自殺防止対策有識者懇談会」を作りました(→ 「報告書」)。しかし、その後も年間自殺者3万人が続きます。

06年に自殺対策基本法ができます。法律が出来て、痛感するのは人も、予算もつくということです。社会政策的なアプローチには予算が必要です。その一方、自殺直前の心理はうつ病・うつ状態があり、その対策をするのが効率的です。どのようなソーシャルサポートが必要かを考えると、どちらのアプローチも正しいのです。

12年から年間自殺者が3万人を下回り、17年には2万1000人台になりました。ただ、減少幅は縮まっていますし、激増の前に戻っただけ、とも言えます。これを定常状態としてはいけません。

自殺が減った理由については、経済的要因を指摘する声もあります。たしかに、安倍政権(12年12月〜)によるアベノミクスで景気拡大が戦後2位となり、経済がよくなったからという見方もあります。しかし、そうではありません。小泉政権(01年4月〜06年9月)のときも、バブル景気と並ぶ景気となりましたが、年間自殺者は増えています。景気がいいから自殺者が減ると単純にマクロ的に言える時代は終わったのではないでしょうか。企業内に成果主義が導入され、終身雇用が崩壊し、働く環境が変化しているからです。  自殺者が減った大きな要因は中高年男性の自殺者が減り、全体を押し下げたからです。

経済指標だけではなく、ワンストップ・サービスができたのも要因です。ひと昔よりも行政の窓口も意識が変わりました。また、10年に貸金業法が改正され、年収の3分の1を超える借り入れができなくなるなど、多重債務の解消があります。静岡県富士市のモデル事業の一環で始まった、「お父さん、眠れていますか?」という睡眠キャンペーンも効果があったのではないでしょうか。医者の中の意識の変化もあったと思われます。

一方で、若者や高齢者の自殺は減っていません。高齢者の自殺が多いのは万国共通です。日本は今後、高齢化していきますので、分母が増えていきます。今後の大きな課題となるでしょう。また、世界的に見れば、女性の自殺率も上位です。それだけ社会的なストレスにさらされているということでしょう。

遺族支援の視点を持つことも重要

ーー自殺で亡くなった人の遺族から聞き取りをし、自殺の原因を探る「心理学的剖検」に取り組み、「人はなぜ自殺するのか」(勉誠出版、2006年)を執筆しました。こうした取り組みから、どのようなことがわかりましたか。

心理学的剖検という手法は1950年代にアメリカで始まりました。遺族らからの聞き取りや遺書などから、亡くなった人の行動や思考を分析し、自殺の背景を調査する手法です。ワシントン大学の研究グループが、セントルイスで年間自殺者の134例すべてを調査したのです。日本では考えられませんが、ほぼ全例で近親者がインタビューに応じました。すると、94%に、何らかの精神科の診断がつきました。その後、別のグループの調査でも90%以上に精神科の診断がついたのです。イギリスでも70年代に調査があり、同じような結果でした。

日本でも90年代に私が東京で心理学的部検の調査を実施しました。遺族の47%に協力していただきました。実態調査が目的でしたが、遺族の苦しみや悲しみも聞くことになります。遺族の中には抑鬱状態の人もいます。つまり、心理学的剖検は遺族支援と同時進行で考えないといけません。自殺の実態はだいたい調査されていますが、むしろ、遺族支援として大切なのではないでしょうか。どこにも相談に行っていない遺族がたくさんいます。

06年の基本法成立以後、自治体では遺族支援の窓口を作っていますが、利用者がほとんどいない。いかに窓口に関する情報提供をするかも大切ですが、心理として、情報が届いても、窓口に行ってないのではないでしょうか。どうすればいいのかという正解は見つかっていません。アメリカでは一人の自殺で影響がある遺族が5人と言われています。日本でも、少なくとも3人としても、98年の激増を考えると、その時点から考えても、100万人以上の遺族がいることになります。

ーー10年に、川崎市でいじめ自殺がありました。現在では「いじめ防止対策推進法」ができ、いじめが原因で自殺をした疑いがある場合、学校や教育委員会が調査委員会を設置することになっています。しかし、当時は法律がありませんでした。そうした状況下で、この調査に関わっていましたが....

私はアドバイザーとして関わりました。調査で丁寧に動いたのは教育委員会の先生たちでした。私としては、最初から「調査は遺族支援だ」とアドバイスしていました。聞き取りをする先生向けにレクチャーを行いました。一方で、遺族とも、加害者とされる側の親とも会いませんでした。会ってしまうと中立的な視点でなくなるためです。調査が全部終わるまでは両者とも会わないという姿勢を徹底しました。なぜ自殺で亡くなったのか。立場を超えた実態解明をしたい。そうすれば、遺族が納得する部分があるはずです。その意味では、川崎市での調査は、遺族ケアにもなりました。

現在は「推進法」ができ、遺族の意向が強い形になっています。そのため、最初から学校は防衛的に動き、溝ができてしまっています。両者にとって、釈然としない形で、実態解明にも遺族支援にもつながらないのではないか。そして、報告書ができても、不全感が出てくるのではないかという懸念があります。

ーー法律ができ、窓口ができたにもかかわらず、若者や高齢者の自殺が減りにくいのはどうしてでしょうか。

問題をひとつひとつ見ていけば、対応する社会的資源があります。しかし、実際には活用されず、有機的につながっていません。例えば、遺族支援でも行政サービスとしてはある。しかし、提供する側の気持ちと、当人の気持ちとの間にズレが生じているのです。

ある地方で高齢者のうつや自殺について講演を行いました。講演が終わってお年寄りの人と話をしていると、「元気ではない○○さんに話を聞いて欲しかった。ここには元気な人しかこない」と言っていました。そのことを行政の人に話すと、彼らは、そこで気がつきました。

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