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「論理トレーニング101題」はスゴ本

「東大教授が新入生にオススメする100冊」に、必ず登場する名著。

論理トレーニング101題本書は、安直ビジネス書に群がり、カモにされているカモリーマン向けではない。週末にナナメ読んで、「なんとなく分かった気分になる」自己満足を目指していない。1問1問、エンピツとノートを準備して、101問すべてに取り組むべし。「解説書なんかいくら読んだって論理の力は鍛えられない。ただ、実技あるのみ」のとおだ。やれば、やった分だけ向上する。

大きく2部に分かれており、前半は、接続詞に注意して正確に議論を読み取り、その骨格をつかまえるトレーニング。そして後半は、演繹と推測の適切さを論証し、さらに論証を批判的にとらえる訓練をする。すべて、①練習問題→②自力で解く→③解説と答えあわせのくり返し。章末に、ちとムズめの問題が待ちかまえており、③の理解を確かめることができる。200ページたらずの薄手の本なのに、中はどろり濃厚で、「飛ばして」「ナナメに」読まれることを拒絶している。ちょっと紹介してみよう。

問71次に含まれる論証の隠れた前提を取り出せ
  1. テングダケは毒キノコだ。だから、食べられない
  2. 「さっき彼と碁を打ってただろ、勝った?」「いや、勝てなかった」「なんだ、負けたのか、だらしないな」
  3. 吠える犬は弱虫だ。うちのポチはよく吠える。だから、うちのポチは弱虫だ
順番に考えてみる。 1. は簡単だろう。「毒キノコは食べられない」という前提が隠れている。「A=B、B=C、ゆえに、A=C」の論証のうち、「B=C」が省略されたもの。 2. は少してまどった。隠れた前提なんてあるの?としばし悩んだのち、「勝ってない≠負け」に気づく。将棋なら千日手、囲碁だと持碁があるからね。

解けなかったのは 3. だ。ショボーンとしながらも解説で慰められる、これは難問らしい。正解をマウス反転させておくので、ご自身で考えてみてほしい。言い換えると、これが解けるようなら、本書をクリアできる論理力はあることになる。答え→ポチが犬だとはどこにも書いていない。もし、「うちのポチ」が虎だったらこの論証は成り立たない。そして、解説が素晴らしい。隠れた前提のパターンは、次の3つに大別されるという。
  1. すべてのAはBだ。だから、このaはBだ⇒隠れた前提「このaはAだ」
  2. AはBだ。だから、AはCだ⇒隠れた前提「BはCだ」
  3. Aではない。だからBだ⇒隠れた前提「AかBのどちらかだ」
著者は、この前提について、大きな疑問を投げかける。自明視している前提が、ときに誤りの元凶になるのだと。独善的な論証ほど、問題のある前提が隠されているというのだ。

たとえば、 2. は藁人形の基本で、某センセが上手に使うのを目にする。相関関係を因果関係にまで拡大し、さらにキャッチーなセリフで「AはCだ!」と言い切る。その文句が耳にイイので、かなりの人が騙されている。この場合、隠れた前提に対する質問「ホントにBはCなの?」が強力なカウンターとなる。あるいは、 3. は善悪論にからめて流れを持っていかれる。「アタシが悪いってわけ?」→「いや、そうは言ってない」→「じゃ、アンタが間違っているんじゃない!」という展開。これは、 2. と 3. の複合技やね。これは、そこまで怒らせたわたしが悪いので、論証を批判してはいけない。

本書は、いわゆる「詭弁術」を追いかけるものではない。論理的に考え抜こうとする態度が、結果、論理のフリをした詭弁を明るみに出すのだ。因果関係と相関関係のねじ曲げは、この問題にも見られる。

問91次の推測において、他の可能な仮説を考えよ
幼児を自動車に乗せる場合、チャイルドシートをつけなくてはいけない。1993年からの5年間に、6歳未満の幼児が乗車中に死亡した事故は、チャイルドシート着用時の死亡者が1人なのに対して、非着用の場合は72人というデータが出ている。このデータから見ても、チャイルドシートの安全性は明らかである。


データからの推論のおかしさはすぐに気づくが、「他の可能な仮説」は少し悩んだ。答えと解説はマウス反転するので、考えてみて→チャイルドシート着用時の死亡者数が少ないのは、単純にチャイルドシートを着用している子が少なかったから。数ではなく、率で比較すべき。極端な場合、チャイルドシートが存在しなかった50年前には、チャイルドシート着用者の死亡件数は、当然ゼロになる。

二つのタイプの現象AとBが伴って生じているとき、そこには少なくとも次の四つのパターンが考えられるという。すなわち、
  1. 単なる偶然
  2. AがBの原因
  3. BがAの原因
  4. AとBの共通原因Cが存在する
になる。 1.2.3 はよく取りざたされるのに、 4. は無視されることが多い。ふつう、人は、梅が咲くことが桜が咲くことの原因とは考えない。しかし、ゲームにハマるから引きこもりになるという主張を、すんなり受け入れてしまう人がいるのは面白い。

さらに、論証を批判的にとらえるチカラもやしなえる。相手の主張に反対したり、対立することではない、本来の意味としての批判ができるのだ。つまり、相手の立論の論証部に対して反論することができる。相手を批判することは、必ずしも異論につながるとは限らない。相手と結論を共有しつつ、論理の部分の穴をみつけ、ゆさぶりをかけるのだ。結果、その批判こそが、立論を強化することになる(いわゆる建設的な批判というやつ)。

問100この立論に対して批判せよ
あなたたちは新空港の工事に反対していた。その反対運動にも関わらずいまや新空港は完成した。あなたたちは反対していたのであるから、この新空港を利用すべきではない。
この問題は、あらゆる議論の場で形を変えて現れる。曰く、増税イヤなら日本を出て行け、社畜に反対なら辞めてしまえ云々。こうした感情論が入り込みそうな場合、その意見が「賛成」なのか「反対」なのかばかりに目が行き、そもそもの議論の前提だとか、立論の根拠が落とし穴になる。この問題だと(解答マウス反転)→空港そのものを否定していたのではなく、空港の「工事」に反対していたのだ(立論の穴)。つまり、空港のないところに空港を作る是非という問題と、空港がすでにあるところでその空港を利用するかどうかという問題は、別問題である。林野を開いて空港を作ることに対する反対は、空港の利便性への反対を意味するものではない。

ほとんど詭弁かもしれないが、論理の穴を見つけ、そこを衝いている。本書いわゆる議論に「勝つ」ためのハウツーではない(著者自身がラストで戒めている)。相手の立論を正しく読み取り、その論証を批判的にとらえるための地道なトレーニングなのだ。

論理力は感性ではなく訓練で身につく。問題をやっただけ、向上すること請合う。

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