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「神話の力」はスゴ本

神話の力 世界と向き合い、世界を理解するための方法、それが神話だ。

 現実が辛いとき、現実と向き合っている部分をモデル化し、そいつと付き合う。デフォルメしたり理由付けすることで、自分に受け入れられるようにする。例えば、愛する人の死を「天に召された」とか「草葉の陰」と呼ぶのは典型かと。そのモデルのテンプレートが神話だ。いわゆるギリシア神話や人月の神話だけが「神話」ではなく、現象を受け入れるために物語化されたものすべてが、神話になる。

 本書は神話の大家、ジョーゼフ・キャンベルの対談をまとめたもの。キャンベル本は、現代の小説家やシナリオライターにとってバイブルとなっている。例えばジョージ・ルーカス。スターウォーズの物語や世界設定のネタは、古今東西の神話から想を得ているが、その元ネタがキャンベル本なのだ。本書では、「英雄の冒険」や「愛と結婚」といった観点で古今東西の神話を再考し、神話がどのように人生に、社会に、文化に影響を与えているかを縦横無尽に語りつくす。おかげで、あらためて「分かり直した」感じだ。存在には気づいていたものの、名前を知らなかったものを教えてもらったようだ。

 例えば、かつてシャーマンや司祭が担ったことがらが、我々全員に委ねられようとしているという。衝動に駆られて行動したとき、幸福をとことんまで追求するとき、自分に何が起こるのかを教えてくれるのが、神話だった。神話を通じ、シャーマンや司祭は、何に嫌悪を抱き、どういうときに罪悪感を抱くのか、その社会の構成員の手引きをしていたのだ。ところが、神話の伝え手がいなくなったいま、判断の基準そのものが個々のものになっている。

 わたしはこれを、「価値観の多様化」「フラット化」という言葉で理解していたつもりだったが、「神話の喪失」と考えることもできる。ストーリーを自分で作り出さなければならない世の中になったんだね。子どもじみた選民妄想である「邪気眼」が、なぜか「あるある!!オレも厨二の頃考えた」となる理由はここにある。ストーリーの核は、かつて語り部だけが運んでいたが、マンガやテレビに散らばってしまっているからだろう。

 随所で引き出される神話のエピソードも深いぞ。アステカ族にはいくつもの天国があって、死に方によって行く天国が違うという。面白いことに、戦いで殺された戦士の行く天国と、お産で死んだ母親の行く天国は同じなんだって。つまり、子どもを産むということは、間違いなく英雄的な行為とされているのだ。この母親を英雄視するイメージは強く響いた。子を成すことは、他者の生命に自己を捧げること。子育ての現場にいるからこそ、「母親=英雄」をありありと感じる。まさに「母は強し」やね。

 神話の共通性を掘り起こすにつれて、その理由に目を向けるようになる。一番ピンとくるのは、人類すべてに共通する、生きるための活動のこと。生きるための活動とは、すなわち、生きている他のものを殺して食べることに、集団で参加していることだ。ベジタリアンといっても、植物を殺して食べていることに変わりない。生きている他のものの命の上に成り立っている、人生とはそういうもので、この事実と、「自分のいま・ここ」との間を物語りづけるものが、神話なんだ。

 キャンベルは言う、「神話は絵空事ではありません」と。神話は詩でであり、隠喩なのだと。神話は究極の真理の一歩手前にあると言われる理由として、究極のものは言葉にできないからだと。言葉にできないから、一歩手前にある。
究極は言葉を超えている。イメージを超えている。その生成の輪の、意識を取り囲む外輪を超えている。神話は精神をその外輪の外へと、知ることはできるがしかし語ることができない世界へと、放り投げるのです。だから、神話は究極の真理の一歩手前の真理なのです。

 そして、その外縁の側から自らの人生を、社会を振り返ってみることができる。そこに見いだされる避けられない悲嘆や困苦と、折り合いをつけて生きるのを助けてくれるんだ。人生のマイナス面とかマイナスの時期だと感じられるなかに、プラスの価値を認めることを神話から学ぶことができる。本書をきっかけに、あらゆる物語のなかに神話を探すようになった。

 世界と向き合うため、神話の力を(意識して)使う。そういう一冊。

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