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労働生産性は働き方の問題とはまったく関係ない理由

労働生産性を高めるための労働裁量制度を推進する法案が、議論の前提となる資料の祖語について大きな問題になっています。

この制度については、賛否をめぐりいろいろな方がいろいろな意見をおっしゃっていますが、私は根本的にこの問題は、被雇用者の労働問題ではまったくなく(つまり、働き方の問題ではなく)、経営者の問題だと考えています。

労働生産性とは、1人あたりのGDP(その国で創造された付加価値)です。それを時間で割ったら時間あたりの労働生産性(購買力平価により調整するため若干変わります)になります。2016年の日本の時間あたり労働生産性はOECD35ヵ国中21位で、平均より低くこの順位はほとんど変わっていません。

では、どうしたら1人あたりのGDP≒労働生産性が上がるのか?

答えは3つです。

1.売上単価を上げる。

同じスマホでもAppleのi-phoneは10万円、中国ブランドのスマホは1万円のものもあります。

これを仮に100人の工場スタッフと販売・管理スタッフが1日100個作って売ったとしたら、Appleは1人あたりの1日の労働生産性は10万円、中国ブランドは1万円になります。仮にそれぞれ10時間働いたとしたら、1人あたりの時間あたり労働生産性はApple1万円、中国ブランド1,000円です(計算を単純にするため材料費やその他の諸経費はゼロとします)。

中国ブランドの社員がApple社員の労働生産性に追いつくには、それまでの1万円の売り上げ単価を10万円にし、その値段でも消費者が買ってくれる商品を作り、市場を開拓することが必要です。

2.1人あたりの時間あたりの生産性を上げる。

中国ブランドがAppleほどみなが欲しいと言ってくれる魅力的な商品を作れない場合どうするか? 時間あたりの生産高や販売高を増やすことで労働生産性を上げます。

具体的には、これまで1日100個しか製造・販売できなかったものを、200個にすることです。これにより、時間あたりの労働生産性は2,000円になります。

しかし、人間の能力には限界がありますので、これまで1日1人あたり1個しか製造できなかったものを「カイゼン」により2個にすることはできるかもしれませんが、10個にすることはできません。

ですから、この方法でApple社員に労働生産性で追いつくことは不可能です。

3.人間の作業をロボットやAIに置き換えて生産性を上げる。

人間の能力には限界がありますが、機械であれば生産性向上の可能性は飛躍的に高まります。

機械は人間と違って休む必要がなく、投資するお金さえあればいくらでも増やせるからです。

工場にはロボットを導入し、販売・管理部門は自動化によって工場スタッフと販売・管理スタッフをこれまでの100人から10人にします。これで100人が100個を作り販売していたときと同じ生産・売上げを上げられれば、1人あたりの時間生産性は1万円になってAppleに並びます。

労働裁量制のめざす労働生産性向上はずばり、2.のタイプです。

これはトヨタを筆頭にこれまでの日本企業が得意としてきた、日常業務の「カイゼン」によって1時間あたりに作ったり販売したりする効率を高め、時間あたりの出来高を上げるという発想です。

裁量労働制は、これをさらに徹底して働く時間を短くするように労働者が努力するという目的なのでしょうが(表向きは)、前述したように実際にどこまで効果があるかは疑問。夕方6時から始まる会議が労働時間にカウントされなくなれば、名目上は若干1時間あたりの労働生産性が上がるかもしれませんが、年間の労働生産性に変化はありません。

アメリカ経済が現在絶好調なのは、IT関連を中心に、1.の魅力ある、販売単価(もしくは販売総額)が高い商品やサービスを売っているためで、労働生産性はOECD諸国中第3位。アイルランドやルクセンブルグなど他の順位の高い国を見ても、金融やITなど販売単価や利益率が高い産業に力を入れているのがわかります。

いっぽう、もともと労働力が常に不足しているシンガポールは現在、3.に非常に力を入れており、先日はホテルでコックなしでも作れる目玉焼きロボットの話題をニュースで紹介していました。

従業員の労働生産性向上のために、1.か3.をとるか、従来通り2.のままでいくかは、働く人の問題ではなく、完全に経営者の経営判断です。働く人が会社が販売する商品を決めたり、機械の導入を決定したりできないからです。

提出された資料云々とまったく別のところで議論が盛り上がっているようですが、裁量労働制と密接に関連する労働生産性の問題は、日本の経営者が今後何をめざすのかを問われるイシューですので、経済界への徹底的なヒアリングが必要なのではないでしょうか?

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