記事

特集:景気回復に「実感」は必要か

1/2
このところ、いろんな景気指標が良くなっています。それでも「景気回復の実感がない」と言われてしまえば反論は不可能です。何しろ主観の問題ですから。昨年の総選挙でもそういう議論がありましたが、真面目な話、地方の農村や年金暮らしの高齢者世帯などでは、景気サイクルを感じること自体が難しくなっているという現実もあります。

ただし、景気とは「気分」を含めての話。本来、経済統計だけで論じるべきものではありません。それではどうやったら「実感」を得ることができるのか。景気を感じ取るのは人々の主観ですから、これは心理学に踏み込んで考えるほかありません。以下は多分に「主観的な論考」となりますことをご了承ください。

●街角景気=雪と野菜とインフルエンザ?

年初はエコノミストにとって繁忙期である。幸いなことに、今年もいろんな場所の「新春経済講演会」に呼んでいただいた。

年明けから今週までに、岡山県津山市、富山県高岡市、大阪市、江東区、名古屋市、群馬県高崎市などを訪れた。また住宅建材、地方銀行、信用調査、道路工事などの業界で講師を務めさせていただいた。いろんな場所でさまざまな方々と話すことによって、データだけでは見えてこない日本経済と接することができるのがありがたい。

例えば北陸では、有効求人倍率が既に2倍を超えている県が少なくない。こういう場所で、「雇用情勢が改善している」などと解説するのはピント外れもいいところである。「若者がどんどん減る中で、これからどうやって働き手を確保していけばいいのか」が、地元経営者の切迫した問題意識であるからだ。

「人口減少が日本経済の課題である」というのも所によりけりで、セレモニーホール業界においては「年間の死者数は2040年まで高止まりする」ことがほぼ分かっている。つまり「需要」は確保されているのだが、昨今は「家族葬」などが増えて葬儀が小型化する傾向にある。今後は、温かい食事を出すなどして顧客満足度を上げていくと同時に、ボリュームゾーンである団塊世代の希望にいかに忚えていくかが課題となってくる。

――などと、いろんな場所で「経済講演会」をやっていると、「聴き手の数だけ景気の種類がある」ように感じる。その昔、もっと日本経済が単純であった時代には、賃金や物価の上昇、あるいは金利や在庫のサイクルといった分かりやすい形で、多くの人が景気実感を共有することができたのであろう。

それが低成長で、金利も物価もほぼゼロという状態が長期化すると、そもそも景気の変化を感じ取ること自体が難しくなってくる。サービス産業の比率が高まっていることや、リタイア世代が増加したことも、景気サイクルを分かりにくくしている一因だろう。「景気回復の実感がない」というよく聞く声は、「昔ほど景気が把握できなくなった」という不満も含んでいるのではないだろうか。

試しに、「街角景気」とも呼ばれる景気ウォッチャー調査(2月8日発表分)を見ると、1月分の現状判断DIが前月の53.9から49.9へと4.0pも下げている。現状判断DIは昨年8月が50.0であり、11月には54.1まで上昇していたのだが、一気に5か月前の水準に戻ってしまった。つまり1月の景況感は急速に悪化したことになる。

それでは具体的にどんなマイナス要素があったのかと言えば、コメント欄には以下のような記述がある。

○景気判断理由の概要(1月分)

1. 灯油価格やガソリン価格の上昇、野菜相場の高止まり、寒波による来客数の減少など、消費者のマインドは冷え切っている(東北=スーパー)
2. 大雪の影響によって、来客数が例年の90%から過去36カ月で最も苦戦している(北陸=高級レストラン)
3. 派遣登録数が一段と少なくなっており、求人の依頼が増えるばかりで処理できない(四国=人材派遣会社)
4. 原材料や資材価格の値上げ傾向が鮮明であるが、大手ユーザーへの価格転嫁は進まないことが予想される(近畿=金属製品製造業)

大雪、野菜高、ついでに言えばインフルエンザの流行などは、今年に入ってからの定番の「ご挨拶ネタ」であろう。と言っても、これらは景気を判断する材料としてはいかにも「小粒」である。景気を悪化させるほどのインパクトはないし、一過性のものだから先行きに影響するとも考えにくい。とはいえ、こういう気分を馬鹿にしてはいけない。「景気は気から」なのである。

●基調判断=「景気は緩やかに回復している」

今度は、日本政府の景況判断である「月例経済報告」を見てみよう。今週発表された2月分の基調判断は、「景気は、緩やかに回復している」のままで据え置きとなった。前月に上方修正された直後なので、ほぼ予想通りということができよう。

2017年12月:景気は、緩やかな回復基調が続いている(→)
2018年 1月:景気は、緩やかに回復している(↑)
2018年 2月:景気は、緩やかに回復している(→)

本誌の昨年6月23日号「マンネリ気味の日本経済論」では、「緩やかな回復基調が続いている」という文言が2014年4月以降、連続して使われていることをご紹介した。その後も含めて、実に44か月も続いたことになる。例によって「上方・下方修正」をそれぞれプラス、マイナス1で計算すると、右下のようなグラフを描くことができる。



現状の「景気は、緩やかに回復している」という文言は、2014年1~3月と同じである。消費増税直前の駆け込み需要があった時期だが、丸4年近くかけてようやくそこへ戻ってきたのかと考えると、いささか徒労感を覚えずにはいられない。

その前年の2013年はアベノミクスの初年度であったため、12カ月中実に7回も上方修正が行われている。これくらいの変化がもう少し続いていれば、多くの人が「景気回復を実感」することができたかもしれない。時計の針を戻すことはできないが、当時、「増税を延期すべき」と主張していたリフレ派の主張は正しかったということになる。

ところがこれをGDPのグラフ(左上)と比較すると、こちらはまた別の景色が浮かんでくる。過去5年間、多少の凸凹はあったものの、実質GDPは年平均+1.4%、名目GDPは同+2.2%の成長が続いている。データ的には「上出来」の部類であろう。

あわせて読みたい

「景気」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    ダム決壊 韓国紙が東電に難癖

    tenten99

  2. 2

    本物?「三億円犯人」に直接取材

    BLOGOS編集部

  3. 3

    「考え方が甘い」時差Bizに指摘

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

  4. 4

    石田純一の改憲反対に感じた覚悟

    篠田博之

  5. 5

    秋篠宮さま 小室親子はもう他人

    女性自身

  6. 6

    有休義務化 日本はやせ我慢社会

    自由人

  7. 7

    AI無人店舗は万引きの概念変える

    赤木智弘

  8. 8

    百田氏が憶測で沢田研二叩き謝罪

    女性自身

  9. 9

    築地の営業強行は小池知事の責任

    おときた駿(東京都議会議員/北区選出)

  10. 10

    誰もが美人? ハーフが苦しむ偏見

    ビデオニュース・ドットコム

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。