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モノの値段の怪

日本は近年の歴史でもまれにみるデフレを経験しました。それは長期に渡り、学者や専門家がいろいろ言う割に全く上昇しませんでした。日銀の黒田総裁も物価上昇2%というコミットメントとその達成時期については何度となく先送りしてきました。理論で説明できない何かがそこに潜んでいるのかもしれません。

エコノミスト誌が興味深い記事を提供しています。「原油価格が高止まりする怪」であります。2014年に100ドル超えていた価格が暴落し2年後に28ドルを割り込んだ際、市場には悲観論が漂ったはずだったのになぜ、いま、その倍以上(今日で62ドル程度)の価格となるのだろう、という話です。

私もこのブログを長く書いている中で過去、どんなことを書いたのか、それなりに記憶しています。原油価格が暴落した際に私は「70ドル程度が心地よいレベルのはずだからいずれ戻す」ということを述べています。では私がその時、心地よいレベルとは何を基準に考えたのかといえば産油国やその業界の人々がストレスなく利益を上げるレベルをその程度と考えたのです。

ご記憶にあると思いますが、原油価格が暴落した際、あのサウジですら国家予算は赤字となり、対策に追われ、アラムコの上場やら石油代替産業の育成に目を向け、孫正義氏とまで手を組みました。他の多くの産油国も国政は乱れ、地球儀ベースの波乱の引き金を引くところでした。が、原油価格の心地よいレベルへの回復でそれらの話はスーッと消え、優先度は下がりました。

先のエコノミスト誌には何が書いてあるのか、といえばあらゆる理由付けです。それはこじつけに近い気もします。ただ、記事にいみじくもジョージオーウェルの「1984」における二重思考を指摘しています。そして二つの矛盾する考えを両方信じるという二重思考をその言葉通りにエコノミスト誌もご丁寧にトレースしているのです。

価格の収斂とは「人々が心地よいと感じる最大公約数に収まる価格レンジを求めている」という表現に変えたら分かりやすいでしょうか。居酒屋では5000円、スーパーの買い物は3000円といった具合に多くの人々はバルク(一括り)でどれぐらいという期待価格を持っています。つまり、居酒屋メニューで仮に焼き鳥が200円、枝豆が400円というバランス悪い価格設定があったとしてもお会計をした時、5000円で収まるかがポイントなのです。スーパーでもやしと豆腐が客寄せのメインテーマとなりますが、それらがいつもより10円安くても100円高い牛肉を買う行動もするのです。そして締めていくら、であのスーパーはどう、このスーパーはどう、という基本判断が生まれていないでしょうか?

私に日本をデフレのどん底に陥れた犯人は誰か、と聞かれたらズバリこう答えます。100均とマクドナルドと牛丼屋です。

100均については消費者の期待価格を大幅に下げてしまいました。「えー、これも100円、あれも100円、みんな買っちゃっても1000円でおつりがくる!」という衝撃を与えました。お昼に500円ランチならどこに行く、で店舗数と食べるスペースのインフラが整うマクドナルドは業界をリードし、牛丼戦争は牛丼食べてドトールで時間つぶししてもサラリーマンの懐が痛まない快適感を与えました。ユニクロもそうでしょう。あんなに暖かいのにこの値段というのはユニクロが衣料に「機能」というエレメントを加えたことが大きいのです。他社を圧倒した理由はそこにあります。しかもあの値段、です。

では株価はどうなのかといえば皆が心地よく儲けられる水準を維持したいと市場は思っています。少なくとも痛みを伴う8000円ではないし、バブルの4万円でもないですが、2万円台は心地よく、損もせず、皆がそうであってほしいレベルではないでしょうか?

自転車の長距離レースを見た方はいらっしゃいますか?レースの途中まで数名が先頭集団を形成して数分先を走ります。ところがレース終盤にほとんどのケースではプロトン(レース専門用語でフランス語のPeloton(プロトン)で本体の意)に吸収され、プロトンの中からレース勝利者が出るようになっています。

これは本体が集団心理の母集団であり、先行隊はその先を見て本体に状況を知らせています。言い換えれば期待値より大きく離れたところはそこでどのような障害や問題があるかを確かめ、母集団の動きをある程度コントロールし、その上で本体が最終決定者となるのです。

ものの価格の決定プロセスとは大体こんなもので母集団を動かすほど革命、革新的なことがない限り標準から大きく外れたものも必ず元に戻るバイアスがかかるのだ、ということかと思います。

では最後に日本の物価は上がらないのかね、と言われれば少しずつ上がると思います。それは日本の消費者は輸入に頼らざるを得ないという点を過小評価しているだけで海外物価の高騰や中国などとの買い付け競争で物価が引き上げられやすいトレンドはあると思います。

が、人々の期待価格はここ何十年とほとんど変わっていないのではないでしょうか?居酒屋が1万円になったら行けませんよね。それが日本の企業側の努力であり、母集団が分離、分解しないように頑張ってくれているとも言えそうです。

では今日はこのぐらいで。

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