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「裁量労働制」制度はじっくり議論を深めたほうがいいのでは?〜フェアなルールが今回の提案ではいまひとつ担保されていない

 今回のエントリーは一個人の意見でありますことを、最初にお断りしておきます。

 さて「裁量労働制」であります。

 私は工学系講師として教鞭をとりつつ、長年小さいとは言えIT関連業を営んできた経営者であります。

 本来なら企業家として、人件費が削減できるので競争が激化するグローバル資本主義化が進む未来においても競争力を維持することが可能になる「裁量労働制」の主旨には大賛成なのであります。

 たとえば同じ賃金の二人の従業員が同レベルの仕事をこなすのに、優秀なA君が8時間で完了し残業もなく定時に帰宅、対する不出来なB君は12時間掛かり4時間の残業の後ようやく完了したとします。

 現状ではB君に比し時間当たり生産性が1.5倍も優秀なA君には残業代はつかず、不出来なB君には残業代が発生してしまい、これでは労働者間の公平・意欲創出・生産性向上・企業の競争力の確保、あらゆる面で企業経営にとってはマイナスなわけです。

 同じ仕事量でも、だらだらやった方が高収入になるのはやはりおかしいですし、このようなことを認めていては労働意欲の向上を阻害するだろうことは否めません。

 原則としてですが知的労働者に時間基準ではなく成果物基準で報酬を与えるという意味で「裁量労働制」の主旨には何も異議はありません。

 しかしです。

 今回の安倍政権の目指す「裁量労働制」にはいくつかの問題な点があり零細企業家として危惧していますのです。

 なぜなら「裁量労働制」制度そのものは良しとしても、それを運用するフェアなルールが今回の提案では非常に見えにくいのです。

 具体的に説明しましょう。

 今回の目的は財界側がどんなにきれい事を並べても、企業側としてのその真の目的のひとつは、残業や休日出勤の割増賃金を払わなくて済み、人件費が削減できる点にあるのは明らかです。

 また達成すべき成果をもとに時間という概念を考えないで人員配置などの経営計画をたてやすくなり、残業の多寡による給与変動がなくなることも大きな利点です。

 このような経営側の狙いは私はよく理解はできるのですが、問題はそれを運用するフェアなルールが今回の提案では、明確には担保されていないことです。

 労働時間という基準をなくした中で、給与はどう支払われるべきかといった点について具体的な考え方とその法的根拠がうまく示されていません。

 超過労働への対処策については基本的に個々の企業の問題としている面が大きく、短時間で成果を上げた労働者に賃金はそのままで次々に仕事を与えるだけ(労働強化)ではないのか、無賃金残業を合法化しようとするだけ(労働時間強化)ではないのか、といった疑問点に対して政府からは具体的回答がありません。

 これらの疑問は決して杞憂ではありません。

 日本の大企業が今回の「裁量労働制」制度を安易に導入したらいったい何が起こるでしょうか。

 体力のある一部大企業でも労働環境は激変するでしょうが、下請け中小企業の労働環境は目も当てられない惨状になる可能性があります。

 生き残り競争に勝つために一部の中小零細企業でこの制度の「乱用」が始まるのは必至と思われるからです、コスト削減競争の結果としてです。

 一部の中小零細企業を中心に労働時間の長時間化、サービス残業の合法化を招くとすれば、実は労働者側だけでなく経営側にとっても本制度は負担にしかなりませんでしょう。

 利益増ではなく経費減の過当競争は多くの零細業のブラック化を招きかねません。

 その流れは一度始まったらある程度進行するまで誰も止められないでしょう、そこに悲しいかな経営の合理性が存在するからです。

 悪貨は良貨を駆逐すると言いますが、適法な労働時間や賃金体系を守ってきた良心的な零細企業には、この悪しき生存競争に勝ち目はまったくないでしょう。

 高い賃金に耐えかねて廃業するか、制度の悪用に手を染めるか、究極の二者択一を迫られることになりかねません。

 ・・・

 私は経営者の立場として、こたびの「裁量労働制」制度の安易な導入には、フェアなルールが今回の提案ではいまひとつ担保されていないという一点で、上記のような不安があるのであります。

 もちろんこれはいち零細企業家の杞憂かもしれません。

 しかし、ここは早急に結論を求めることなく、細部までしっかりと議論を深めたほうがよろしいかと思われます。



(木走まさみず)

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