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アメリカの小売業界は日本の「斜め上」を行っている

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近年、ネット通販の台頭により小売業界は大きな転換期を迎えている。なかでもアメリカでは、Amazonが実店舗の運営に乗り出すなど、その変化は激しい。こうしたアメリカの小売業界の動きについて、BLOGOS AWARD2017で銀賞を受賞した、アメリカ在住の流通コンサルタント、後藤文俊氏に話を聞いた。

1月22日に一般にも公開されたアマゾンゴー。店の外には複数のスタッフがいてオレンジ色のエコバッグを無料で渡してくれる。(提供:後藤文俊)

約10年にわたり、変化し続けるアメリカの小売業界をレポート

―後藤さんがブログを始めたきっかけを教えてください。

後藤文俊氏(以下、後藤):私は、25年ぐらい前から不定期でクライアントにアメリカの流通業界の最新情報をFAXで送信していました。2003年ぐらいからブログに着目しまして、最初は、週6日ぐらいのペースでしたが、2008年4月19日から毎日投稿するようになりました。

今年の4月19日で10年間続いたことになります。毎日、継続できた理由は、ひとえにアメリカ流通業界の変化の速さだと思います。それこそ、毎日のように新しいことが起きています。

―アメリカの小売業界は、常に変化しているということですね。

後藤:例えば、Amazonは、売上高は右肩上がりなのに純利益はずっと横ばいです。これが何を意味するかと言うと、売上の大半を投資に回しているということです。

スマートスピーカーAmazonEchoの販売、トラックによる移動販売サービス「トレジャー・トラック」の展開、スーパーマーケットチェーンのホールフーズの買収といった新しいことをドンドンやっている。

同じように、アメリカ最大ノスーパーマーケットチェーンであるウォルマートも新しい店舗展開や、マーケティングをしています。こうした新たな施策が出るたびに、実際に自分で買い物して試してみる。そうやっていると、書ききれないぐらいの話題が出てくるのです。

※オープン前(7:30pmに販売開始)のアマゾン・トレジャー・トラック(提供:後藤文俊)

―ネタがあっても10年更新を続けるのは難しいと思いますが、継続できる理由を教えてください。

後藤:これは継続した結果、分かったことなのですが、クライアントが読んでくれているんです。クライアントにしっかりと読んでもらえているから反響がある。そうした反響があるから「アメリカ流通業界について詳しいのは誰だ?専門家は誰だ?」となった時に、自分が指名されるという好循環が生まれているのです。

特に、最近のAmazonによる実店舗のテスト展開などは日本の小売業界も注目しているトピックです。なので、こうしたトピックについて現地の情報に基づいて執筆しているというのは、非常に大きいと思います。

消費者として体験しなければ内実はわからない

―後藤さんのブログを読んでいると、アメリカの小売業は、日本ではまだ見ることの出来ない様々な施策を取り入れていることがわかります。

後藤:確かにアメリカの小売業は日本の5年、10年先を行っているように思えます。ただし、この場合の「先」というのは、単なる延長線上ではなく、斜め上というようなイメージですね。

「アマゾンゴー(Amazon Go)」の店内(提供:後藤文俊)

AmazonGO(顧客が棚からとった商品をカメラとセンサーを使って認識して精算。顧客はレジを通らず、そのまま店を出ることができる)もそうですが、サムズクラブというウォルマート傘下のコストコと同じような業態の店舗でもスマホアプリを利用して、レジを通らずに決済できる仕組みを導入しています。

これまでの流通視察、コンサルティングというのは店を見るだけのものが多く、せいぜい店長にインタビューするぐらいでした。しかし、現在では、店舗で実際に買い物をしてみないとわからないことが多いのです。

例えばスターバックスやマクドナルドのモバイルオーダー、ウォルマートのセービングキャッチャー(ウォルマート価格より下回った競合店の価格から、差額分を自動的にキャッシュバックするアプリ)にウォルマートペイ(独自のモバイル決済システム)、オーダーしたものが2分以内でピックアップできるようなAmazonのインスタントピックアップといった様々な取り組みがアメリカにはあります。

こうした取り組みは、実際に買い物をして、消費者として体験してみないと、その内実はわかりません。だからこそ、おかげさまで私も仕事が非常に忙しい状況になっています。

―日本の場合、「テクノロジーについていけるのは若者で田舎の高齢者には難しいのでは」といった批判もありそうですが。

後藤:現在、買い物をしている年配者が、永遠に顧客であり続けるかというと、そうではありません。

例えば、モデルのみちょぱは、まだ10代ですが、将来は彼女たちが30代、40代になって買い物をするわけです。そうした世代が消費の中核になってきた時のことを考えると、スマホなしのマーケティングは考えられません。ましてや、Amazonは日本でプレゼンスを増しているような状況ですから、いつまでも現状のままではいられないでしょう。

確かに、アメリカの小売業が行った施策の中には失敗する例も、改善すべき点もあるでしょう。しかし、学ぶべき点も多い。日本人のためというわけではないですが、アメリカが莫大なお金をかけて実施してくれたマーケティングテストの結果を無視するのはもったいないと思います。

―日本は他国と比較して、キャッシュレス化が進んでいないという言説も最近、よく目にするのですが、アメリカの状況はいかがでしょうか?

後藤:確かにアメリカでは、キャッシュレス化が進んでいます。その理由の一つに、財布を持つのは危ないという側面があります。また、買い物のスピードが短縮されることも大きなポイントです。

アプリを利用して一瞬で決済できる。アメリカでスタバに行くとわかると思いますが、レジに並んで、そこで小銭を出して…とやっていたら、あまりスマートではありません。アプリで一瞬のうちに決済して、コーヒーを飲めるという風にしないと若者にはうけないわけです。

これからは若い人たちが消費の中核に入ってきますし、マクドナルドやスターバックスといった外資の企業がお話したような「スマートなショッピング」を提案してくるので、いつまでも現金払いというわけにはいかないと思います。

―最近、よく「AIが人間の仕事を奪う」といった議論もされています。無人店舗が流行して、レジを打つ人がいなくなると雇用が奪われてしまうといった議論はアメリカでは起きていないのでしょうか?

後藤:確かにレジを担当する人員の削減はあるでしょう。ただ、一方で店員の重要性は年々増しています。

例えば、中西部に100店舗程度展開しているフェアウェイという地場のスーパーマーケットがあります。店舗に行くと一見普通のスーパーで、必ずしもその地域で一番安いというわけでもありません。しかし、店員さんはみんなオールドスクール、つまり古いタイプのスーパーマーケットで白いYシャツに黒いネクタイ、女性は黒いリボンにショートカットのクリーンヘアーでハキハキと対応してくれます。

そして、このチェーンの人気の秘密は、買い物をするとカートを駐車場まで押していって、トランクに入れるところまでやってくれることなんです。こうしたサービスを提供することで、顧客と世間話をして、顔なじみになれます。すると、顧客は、フェアウェイを『マイストア』にして、利用し続けてくれます。このように年々、販売員の重要性は増しているのです。

機械に出来る部分は機械化し、アナログな対応が必要な部分については、アナログ的におもてなしをするというのが、これからの店の在り方の一つの形なのではないかと考えています。

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