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"給料の高低と人間の価値"は本来関係ない

仕事でお金を稼げない人は、社会的価値が低い――。私たちの社会ではそうした考えが勢いを増しつつあります。これでいいのでしょうか。ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授は「幸せになるためには、お金を目的としない職業人生にシフトする必要がある」と説きます――。

※本稿は、「プレジデント」(2017年12月4日号)の特集記事「最高の自分をつくる方法」からの抜粋です。

■懸命に稼ぐのはいいことなのか

仕事の世界で長く過ごすにつれて、私たちは仕事の金銭的側面に重きを置くようになり、お金を稼げる仕事が好ましい経験で、お金を稼げない仕事が悪い経験だという思考様式に染まっていく。こうして、お金を稼ぐことが仕事の最大の目的となり、そのお金で消費することを人生の目的とする発想がいっそう強まる。消費するためにお金を稼ぎ、お金を稼ぐ結果、ますます消費するという循環が生まれる。


ロンドン・ビジネススクール教授 リンダ・グラットン氏

しかし、お金と消費を中核に据える考え方が深く根を張り続けてきた理由は、ほかにもある。多くの社会では、お金は単に消費の手段というだけでなく、その人の社会的地位を映し出す社会的標識の役割も果たしている。お金は、個人の自我から切り離せない一部になっているのだ。

私たちはモノやサービスを購入することを通じて、自分の人間としての価値を立証しようとする。世界の多くの社会では、お金が社会的地位の証として最も強力な要素になっている。そこで、私たちはお金を稼ぐために懸命になる。

問題は、誰もがほかの人との比較を通じて自分の地位を証明しようとすると、競争が生まれて、達成すべき基準がどんどん高くなっていくことだ。こうして、私たちは、ライバル以上に稼がなくてはならないと強く思うようになり、お金と仕事の結びつきがひときわ強化される可能性がある。

■仕事にやりがいを感じる条件

もっとも、なかにはお金がゴールになっていない仕事もある。非営利団体セーブ・ザ・チルドレンの管理職の言葉を紹介しよう。

業績をあげた人物に高給で報いることができない組織は、代わりにどのような「報酬」を提供できるのでしょうか? 私の場合、リーダーシップを振るい、責任を与えられ、意思決定をくだす経験がとても大きな報酬になっています。そのおかげで、仕事を通じて幸せを感じられています。このような機会が得られるとわかっていれば、物質的な要素はもっと早く捨てていたのに。

物質的でない目標を掲げる組織で働くと、自分のなかで非物質的な欲求が強まるらしい。この人物は、リーダーシップを振るい、責任を与えられ、意思決定をくだす機会を最も重んじている。これらの要素が仕事にやりがいを感じる条件になっているのだ。

■多くの人は所得が増えても幸福感が高まらない

〈第三のシフト〉を推し進める舞台は整った。産業革命以降、仕事に関する古い約束事のもと、お金と消費が仕事の中核をなしてきたが、それを次のように書き換えることが可能になりつつある。


ビジネス書大賞2013と日本の人事部「HRアワード」をダブル受賞した『ワーク・シフト』(プレジデント社)。

私が働くのは、充実した経験をするため。それが私の幸せの土台だ。

仕事を通じてお金を稼ぐことの重要性を無視しているわけではない。生活の基礎的なニーズを満たすうえでは、お金が欠かせない。しかし先進国の多くの人は、所得がこれ以上増えても満足感や幸福感が高まらない。

次第に、充実した経験を味わうことが満足感や幸福感の主たる牽引役になる。カリヨン・ツリー型のキャリアを築き、キャリアのモザイクを描くことが当たり前になれば、職業生活の関係でお金をすべての中心に据えるのではなく、お金とほかのさまざまな経験のバランスを取るために、古い約束事に代わって新しい約束事を形づくる必要がある。

■たとえばボランティア活動のために高給を諦める

そのためには、仕事に対する考え方を、さらには企業と働き手の間の「契約」の中身を根本から〈シフト〉させる必要がある。この〈シフト〉を妨げる要因は、どういうものなのか。幸せで、充実感を味わえて、未来に押しつぶされない職業人生を送りたい人は、なにを転換するべきなのか。

まず、自分の前にどういう選択肢があり、それぞれの選択肢を選んだ場合にどういう結果が予想され、なにを諦めることになるのかを明確に理解しなくてはならない。

〈シフト〉をおこなうとは、覚悟を決めて選択することだ。たとえば、ボランティア活動やリフレッシュをする際に長期休暇を取るのと引き換えに、高給を諦めるという選択をしたり、さまざまなリスクを承知の上でミニ起業家への道を選択したり、家族や友人と過ごす時間を確保するために柔軟な勤務形態やジョブシェアリングを選択したりする。

未来の世界では、選択肢が大きく広がる。昔は企業が社員の代わりにすべてを決めていたが、自立した働き手が自分の働き方を主体的に選ぶケースが増える。主体的な選択をおこなうためには、これまでより深く内省し、自分の選択がもたらす結果を受け入れる覚悟が必要だ。

※本稿は、リンダ・グラットン著『ワーク・シフト』(プレジデント社)を再編集したものです。

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リンダ・グラットン
ロンドン・ビジネススクール教授
1955年生まれ。英タイムズ紙の選ぶ「世界のトップビジネス思想家15人」の1人。組織におけるイノベーションを促進するスポッツムーブメントの創始者。『Hot Spots』『Glow』『Living Strategy』など7冊の著作は、計20カ国語以上に翻訳されている。 

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(ロンドン・ビジネススクール教授 Lynda Gratton 構成=鈴木 工 撮影=市来朋久)

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