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インドの悲しき結婚事情 - 坂場三男

インドのインターネット上には「お見合いサイト」が溢れている。一説には2600以上あると言われ、更に増え続けているという。年間の結婚産業の売り上げは何と500億ドル(5.5兆円)に上る。

しかし、その背景を探ると、インド特有の悲しき結婚事情が見えてくる。 インドでは自由恋愛による結婚は長らく禁忌とされ、良家の子女に限らず、今でも親が見つけてきたパートナーと見合い結婚するのが普通である。

何となく封建的な風潮が今なお生きているように思われがちだが、結婚相手を選ぶのにカーストの制約を受けるインドでは街中や職場で良き交際相手、パートナーを見つけるが難しいという事情がある

カーストと言っても私たちが知っている4~5階級の身分制度ではなく、2000近くに枝分かれした「ジャーティ」(近代以前の職能集団グループが形式的に身分化したもの)の枠内で結婚相手を見つけるのが望ましいとされているので、事は容易ではない。

このため、昔は世話好きな親類縁者や友人・知人がツテを頼りに八方当たって結婚適齢期の男女を探し出し、お見合い・結婚に至るというのが一般的であったようだ。他方で、お互い身近にいる従兄妹・はとこ同士の結婚も稀ではない。しかし、インドでも核家族化が進むにつれ、徐々に新聞・雑誌の広告が「仲人役」を務めるようになる。

私がインドに在勤していたひと昔前には新聞(特に日曜版)の8~10ページが「花嫁求む」、「花婿求む」の求婚欄で、まるで日本の求人広告欄(最近はあまり見なくなっているが)のようになっていた。

縦1㎝、横4㎝くらいの小さな欄に「背の高い高収入の男子、大学卒、ジャーティは何々」とか「色白の美人、碧眼にブロンド髪、ジャーティは何々」といったアピール文句が小さな活字でびっしり書き込まれている。

これによって同じジャーティに属する好条件の相手を見つける訳だが、今も事情はあまり変わってはいないのではないか。

そう思っていたら、最近の某英字誌にインドのインターネット結婚事情に関する興味深い記事が掲載されていた。今や新聞・雑誌に代わって、ネットの「お見合いサイト」が爆発的に普及しているという。

人口が13億人を超えるインドでは結婚適齢期の男女が4~5億人いて、婚活にこうしたサイトを利用する若者(及びその両親)が増えているというのだ。ある「お見合い」専門の大手ポータル・サイトは2017年9月初めに上場したところ、第一次公募に78百万ドル、日本円で87億円以上の投資資金が集まったと報じられた。

このサイトが人気を博している理由は、カースト別・宗教別に15の言語でウェブを運営する他、離婚経験者、身体障碍者、富裕層向けなど300近い個別サービスを提供し、まさにインド的ニーズに見事に対応していることにある。

有名大学卒業者専門のサイトもあるというから驚きだ。 結婚適齢期のインド人(特にその親)は婿探しの場合は教育と所得レベル、嫁探しの場合は家柄や美醜だけでなく肌、髪や眼の色まで気にする傾向があるので、サイトの運営会社はコンピューターを駆使して何万、何十万という登録者(会員)の中から顧客の要望に合った相手を検索しリスト・アップする。

そして、相手が絞り込まれた段階で登場するのが星占いによる「運勢」と「相性」の判断

これが結構難関で、最後の最後の段階で「悪運の持ち主」とか「相性悪し」となり、見合い不成立となることも少なくない。ソーシャル・ネットで候補者の身元調査や人物評価を行うサービスも繁盛しているというからインド人の結婚は大変である。

勿論、ネット上で嘘八百のプロフィールを書き込み、詐欺まがいの行為をはたらく不逞の輩もいる。10~20万円近い金で理想の結婚相手を探してくれる仲介業者(ブローカー)も登場しているが、金だけ獲られて泣きを見るケースもあるというから何とも恐ろしい世界である。

尚、インドでレイプ事件が後を絶たない背景には、男尊女卑の文化に加えて、以上に述べた特殊な結婚事情も絡んでいるようだ。

レイプを含む女性に対する犯罪が全インドで年間34万件(2016年)近く発生しているというのは異常である。親に金さえあれば、何とか結婚相手を見つけることは可能だが、貧困層にとってはそれも出来ない。

自由恋愛も難しい中、やけくそになった結果がおぞましい事件を引き起こす遠因になっているとの見方だ。また、女性の側からすれば、結婚の際には(日本とは逆に)多額の結納金(持参金)を男性側に納めなければならないので、金のない親は娘を嫁がせることもままならない。

割賦払いで結納金を納める事例もあるが、支払いを滞れば娘の命にかかわる。私がニューデリーの日本大使館に在勤していた当時(30年以上昔のことだが)には、台所で花嫁の衣装(化学繊維のサリー)に火が付いて焼死する事件が頻発していたが、実際のところは割賦払い金の不払い・遅延に不満を募らせた嫁ぎ先の家族(舅ら)によって「火が付けられている」場合でも犯罪として立件されることなく「事故扱い」で処理される事例も少なくないと噂されていた。

こうしたインドの特殊な結婚事情を知れば、「インドに生まれなくてよかった」と思う婚活中の日本人男女も多いのではないか。
坂場三男(さかばみつお)略歴
 1949(昭和24)年、茨城県生れ。1973年横浜市立大学文理学部文科卒業。同年外務省入省。フランス、ベルギー、インド、エジプト、米国(シカゴ)等に勤務。外務本省において総括審議官、中南米局長、外務報道官を務める。2008年、ベトナム国駐箚特命全権大使、2010年、イラク復興支援等調整担当特命全権大使(外務本省)、2012年、ベルギー国駐箚特命全権大使・NATO日本政府代表を歴任。

2014年9月、外務省退官。2015-17年、横浜市立大学特別契約教授。現在、JFSS顧問、MS国際コンサルティング事務所代表として民間企業・研究機関等の国際活動を支援。また、複数の東証一部上場企業の社外取締役・顧問を務める。2017年1月、法務省公安審査委員会委員に就任。著書に『大使が見た世界一親日な国 ベトナムの素顔』(宝島社)等がある。

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