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安倍首相が狙う9条改憲にとってのこれだけの誤算

 
「自衛隊の存在を憲法に明記してもしなくても、明記した改憲案が国民投票で承認されてもされなくても何も変わらないのなら、改憲案を発議し、国民投票にかける意味がどこにあるのか。」
 これは今日の『東京新聞』の社説「9条改正論議 切迫性欠く自衛隊明記」の一部です。昨日のブログで、私も同じようなことを書きました。

 「改憲を提案する前から自衛隊は合憲だと言っているのに、わざわざ合憲にするために改憲を提案して国民投票を実施し、国民投票で否決されても合憲だということになります。一体、何のために改憲を提案して国民投票を実施するのか、訳が分かりません。やってもやらなくても、国民投票で承認されてもされなくても、自衛隊は合憲だというのですから」と。

 同じような疑問が生まれるのは、誰が考えてもおかしいからです。やってもやらなくても同じなら、何故やらなければならないのかと。

 安倍首相が誤魔化しているから、このような疑問が生まれるのです。実は、自衛隊の存在を書き加えれば、9条の意味は大きく変わります。

 安倍首相は戦前の日本と戦後のアメリカを足して2で割るような国に、この日本を変えようとしているのではないでしょうか。そのために「国の形」を変えることが、安倍首相が改憲を目指す究極の目標のように思われます。

 しかし、戦前の日本は破滅への道をたどり、戦後のアメリカは失敗の連続でした。その後追いをすれば、同じように破滅と失敗しか待っていないということが、どうして分からないのでしょうか。

 このような目標を胸に秘めて、安倍首相は9条の本丸への攻撃を強めようとしています。昨年5月の自衛隊明記を打ち出した改憲論は、この攻撃を開始する烽火を意味していました。

 しかし、それは直ぐに大きな誤算に見舞われます。昨年の通常国会での森友・加計学園疑惑についての追及や共謀罪法案の強行採決などもあって、内閣支持率が急落したからです。

 通常国会を早めに幕引きして逃亡を図ったにもかかわらず、直後の都議選で歴史的惨敗を喫しました。大きな挫折を味わった安倍首相は、改憲についてもスケジュールありきではないと釈明することになります。

 その後も、閉会中審査などで森友・加計学園疑惑への追及は続き、そこからの逃亡を図って安倍首相は解散・総選挙に打って出ました。議席減覚悟のばくちを打ったにもかかわらず、小池都知事や前原民進党代表が結託した分断工作によって野党は自滅します。

 野党の分裂に救われて改選議席を維持しただけでなく、「改憲勢力」が3分の2を突破するという僥倖にも恵まれました。この結果に気を良くした安倍首相は、再び9条改憲に向けてのアクセルを吹かせることになります。

 年内での自民党案の取りまとめを指示し、与党の公明党や野党に対する働きかけを強めようとしました。しかし、ここでも思わぬ誤算に直面することになります。

 その第1は自民党内での抵抗が思いのほか強かったことです。自民党は2012年の改憲草案で9条2項を削除して自衛隊を国防軍とし、正式の軍隊とすることを求めていました。

 石破さんをはじめとしてこれに対する支持が強く、昨年中に安倍首相の提案で党内をまとめることができませんでした。安倍首相がこのような提案をしたのは、2項を維持した方が抵抗は少なく削除論は国民の支持を得られないと考えて譲歩したからです。

 しかし、『読売新聞社』は1月12~14日に世論調査を実施しましたが、「9条2項は削除し、自衛隊の目的や性格を明確にする」は34%、「9条2項を維持し、自衛隊の根拠規定を追加する」は32%、「自衛隊の存在を明記する必要はない」は22%となり、自民と公明の与党支持層では「2項削除」40%、「2項維持」34%、「明記不要」13%の順になりました。安倍首相が提案する維持論より自民党改憲草案の削除論の支持が多くなっており、安倍首相の提案で党内をまとめられるかどうかは依然として不透明です。

 第2は公明党が同調してくれなかったことです。安倍首相が自衛隊の書き込みを提案したもう一つの目的は、公明党の加憲論を取り込むためでした。

 公明党は以前から「加憲」を唱え、プライバシー権や新しい人権などの現憲法に必要な内容を加えることを提案していました。9条についても、この加憲論を逆手にとって公明党を巻き込もうと考えたわけです。

 しかし、公明党は衆院選後の連立政権合意で、当初自民党が提示した「憲法改正を目指す」との表現を削るよう求め、「憲法改正に向けた国民的議論を深め、合意形成に努める」という文言に落ち着きました。2月7日に党の憲法調査会の幹部会合を開き、16日に約8カ月ぶりとなる全体会合を開催することを決めましたが、慎重な姿勢を崩していません。

 第3は野党の状況が大きく変わってしまったことです。ここでの誤算は二つあります。

 一つは、総選挙で野党第一党が立憲民主党になり、希望の党などの統一会派づくりによってこの地位と奪おうとして失敗したことです。もう一つは、政権補完勢力として期待していた希望の党が、次第に安倍政権に対する対決色を強めていることです。

 どちらも、安倍9条改憲にとっては大きな障害となる変化でした。このような変化が生じたことによって、安倍9条改憲や安保法制反対、原発ゼロ、「働き方改革」などのテーマで、維新の会以外の野党が結束して共闘する可能性が生まれています。

 そして第4は、国民世論の状況を見誤ってしまったことです。『毎日新聞』1月24日付は、安倍改憲について「世論調査の結果が分かれ」「世論の理解は必ずしも進んでいない」と書き、「首相の方針に沿って党内を取りまとめようとした自民党は頭を抱えている」と指摘しています。

 NHKの調査では「憲法9条を変える必要はない」が38%で最も多く、「戦力の不保持などを定めた9条2項を削除して、自衛隊の目的などを明確にする」が30%で続き、首相案に近い「9条2項を維持して、自衛隊の存在を追記する」は16%で、『読売新聞』の調査と同様に、安倍首相案ではなく自民党改憲草案の方の支持が多くなっています。

これに対し20、21日の『毎日新聞』調査では「9条の2項を削除して自衛隊を戦力と位置付ける」12%、「9条の1項と2項はそのままにして自衛隊を明記する」31%と大差がつきました。

 この結果について、自民党の憲法改正推進本部は「世論調査をすれば『2項維持』が多数になると見込んでいただけに、NHKと読売新聞の結果は『誤算』だった」と指摘しています。

自民党憲法改正推進本部の細田本部長は、自民党所属の国会議員に対して9条改正に向けた具体的な条文案を提出することを求めていますが、無理やり安倍首相の2項維持案でまとめようとすれば、自民党内だけでなく右傾化した世論や極右の支持層の反発を受け敵に回す可能性が出てきました。

 この二つの案について、昨日の『朝日新聞』の社説「憲法70年 自民の抱えるジレンマ」は、次のように書き、自民党の改憲論議における「ジレンマ」を指摘していました。



 「高村氏は一方でこうも語っている。『安倍さんが言っていることは正しい。石破さんが言っていることも間違いではない。この二つは矛盾しない』

 だが、両者が矛盾しないはずがない。まず首相案で一歩踏み出し、いずれは2項を削除して各国並みの軍隊をめざす方向に進むということなのか。

 『変わらない』と言い続ければ、改憲の必要性は見えにくくなる。といって改憲の意義を明確にしようとすれば、どう『変わる』のかを国民に説明しなければならない。

 自民党の改憲論議は、深いジレンマに陥っている。」

 このような「ジレンマ」に加えて、以上に見たような誤算が積み重なっています。改憲の危機は高まっていますが、それは安倍首相が構想していたような形で順調に進んでいるわけではありません。

 その野望を阻止することは十分に可能です。カギを握っているのが世論であることに変わりはありません。

 それをどちらの方向にどう変えていくのかが、9条改憲をめぐるこれからの攻防を左右することになるでしょう。ここに、現在取り組まれている安倍改憲NO!3000万人署名運動の大きな意義があります。

 具体的な数をもって、改憲反対の世論を明示することが大切です。その壁の高さをはっきりと示すことができれば、改憲の野望を安倍首相に諦めさせることができるにちがいありません。

 同時に、森友学園疑惑での新たな内部文書の公表などによる追及を強め、政権の体力を奪っていくことも重要です。通常国会で安倍首相をどこまで追い込めるかも、安倍9条改憲阻止にとって大きな意味を持つにちがいないのですから。

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