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"箱根駅伝は無敵"青学生が燃え尽きる理由

箱根駅伝を4連覇した青山学院大学。快挙には違いないが、気になる指摘もある。青学大の選手は箱根駅伝後に伸び悩んでいるというのだ。対照的なのは箱根駅伝5位だった東海大。OBはマラソンや1万メートルなど世界の舞台で活躍している。なにが違うのか。元箱根駅伝ランナーでスポーツライターの酒井政人氏が分析する――。

■箱根駅伝V4の青学大より「世界」に近い東海大の“育成術”

史上6校目の4連覇――。正月の箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)で喝采を浴びた青山学院大学だが、実は、それまでは調子が今ひとつだった。

写真=iStock.com/Lonely__

昨年10月の出雲駅伝(出雲全日本大学選抜駅伝競走)では2位、11月の全日本大学駅伝(秩父宮賜杯 全日本大学駅伝対校選手権)では3位と奮わなかったが、箱根での選手たちの走りは圧巻だった。来年は、今年の箱根駅伝Vメンバーが7人残るため、5連覇という金字塔を打ち立てる可能性もある。

なぜ、青学大は箱根駅伝で抜群の“強さ”を発揮できるのか。それは、やはり原晋監督の「正月に選手のピークを持っていく」調整力などの手腕によるところが大きいだろう。

しかし、筆者は箱根駅伝ではなく、今後、42.195kmのマラソン大会や5000メートル、1万メートルなどの長距離部門の世界的トラック競技で飛躍するのは、東海大の選手ではないかと考えている。つまり、最終的な“勝利者”は青学大ではない、と予想する。

▼「箱根駅伝以外は青学に完勝した」という自負

東海大は、箱根駅伝で神奈川大、青学大などとともに優勝候補に挙げられたが、5位に終わっている。それも青学大に13分30秒という大差をつけられてだ。ところが、東海大の監督・両角速(もろずみ・はやし)氏は筆者の取材にこう答えている。

「完敗かなとは思うんです。でも、これだけ圧倒的な差を考えると、箱根に向けて1年間やっているかどうかの差なのかなと感じます」

悔しさをにじませながらも、「箱根駅伝だけが勝負ではない、箱根以外は青学大に“完勝”した」という自負が込められていたように思う。実際、それだけ結果を残しているのだ。

■2017年の中長距離は、青学大ではなく東海大に軍配

昨年、大学生の主要大会である5月の関東インカレ(関東学生陸上競技対校選手権大会)の1部の「長距離ブロック」において8名が入賞を果たすと(青学大は格下の2部で5名が入賞)、それ以降も毎月のように東海大の中長距離部門の選手は好成績を出し続けている。

6月の日本選手権(日本陸上競技選手権)では、大学で最多となる6名の長距離選手が出場すると、1500メートルでは将来有望な2年生が優勝を果たした。9月の日本インカレ(日本学生陸上競技対校選手権大会)ではのべ5人が入賞し(青学大は入賞なし)、10月の出雲駅伝を10年ぶりに制すと、11月の全日本大学駅伝は青学大に先着しての準優勝。そのあと正月の箱根駅伝では5位に沈んだわけだが、2017年の長距離は、東海大の“圧勝”といって過言ではないだろう。

東海大の両角監督は、青学大の原監督と同学年の51歳だ。

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長野・佐久長聖高校の教員時代には、佐藤悠基(日清食品グループ)、大迫傑(Nike ORPJT)など後に日本長距離界のエースとなるような選手を育成している。母校の駅伝監督に就任して7年目となるが、ポテンシャルのある選手たちには“大きな目標”を目指すような指導をしている。昨夏、両角監督はこんな話をしていた。

「チームとしては箱根駅伝が大きな目標です。でも、数名はその域を超えています。そういう学生は、『箱根駅伝は通過点』という認識でやらないといけません。チーム目標が箱根駅伝でも、全員が自分の持ち味や個性を封印して箱根に向けてじっくり取り組むのではなく、本人たちの特長を伸ばすことを考えながらやっています。箱根で勝つことよりも、重視しているのが来年(2018年6月)の日本選手権で戦うための準備です」

▼「箱根」にピークを合わせる青学大、「箱根は通過点」の東海大

両角監督の持論は「世界で戦うためには、スピードが不可欠」である。よって、箱根駅伝にばかり注力するではなく、トラックでタイムを狙う育成方法をとってきた。それは原監督を含む他大学の監督の方針とは異なるものだ。

その結果、昨年(2017年)の日本ランキングトップ50(経験豊富な社会人を含む)に東海大の選手は5000メートルに4名、1万メートルに5名がランクインしている。青学大は5000メートルが1名、1万メートルが0名だったことを考えると、その差は歴然だ。

それでも箱根駅伝は青学大が圧勝した。これは両校の“育成コンセプト”の違いによるものが大きい。青学大は、箱根駅伝に強化ポイントを置き、その力のピークを本番にドンピシャに合わせることができるチーム。これぞ原監督の真骨頂である「調整力」だろう。

■ニューイヤー駅伝に出場した青学大OBは5人だけ

対照的に両角監督率いる東海大はトラックでスピードを磨き、世界を目指す未来型のチーム。筆者だけでなく、多くの陸上関連のジャーナリストにもそう考える人は多い。

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前述した昨年(2017年)の日本ランキングトップ50をもう一度見てみると、5000メートル、1万メートルでランクインした青学大OBは1万メートルの藤川拓也(中国電力)のみだ。それに対して、東海大OBは5000メートルで佐藤悠基(日清食品グループ)、1万メートルで佐藤、早川翼(トヨタ自動車)、石川裕之(愛三工業)の3名が入っている。東海大OBではないが、両角監督が佐久長聖高校時代に指導した選手では、早稲田大OBの大迫傑(Nike ORPJT)、中央大OBの上野裕一郎(DeNA)らがいる。

現在、「2020年東京五輪」のマラソン日本代表選考会として最重要レースとなる2019年開催の「マラソングランドチャンピオンシップ」(MGC)の出場権を獲得しているのが全部6人、うち2人(大迫と東海大OBの村澤明伸)が両角監督の教え子だ。

筆者は毎年箱根駅伝を取材しているが、前出の佐藤(東海大OB)や大迫(佐久長聖OB)ら“両角チルドレン”は、チームのために最大のパフォーマンスを心がけつつも、モチベーションを箱根駅伝のみに絞っていたわけではなかった。箱根で活躍するよりも、世界でいかに戦っていけばいいか。そういう高い志を学生時代から抱き続けていた。

▼「箱根駅伝以上の目標を見つけられなかった」と25歳で引退

青学大には箱根駅伝で3連覇した精鋭OBたちが実業団で活躍しているはずだが、結果を残しているとは言いがたい。今年の元日に行われたニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)の出場者を調べてみると、青学大OBは5名(神野大地、藤川拓也、米澤類、川口将宏、山村隼)しかいない。東海大OBの9名、駒大OBの18名、東洋大OBの22名と比べると寂しい印象だ。

神野大地(コニカミノルタ)のようにマラソンで勝負すると決めて、積極的に取り組んでいる選手もいるが、青学大OBは箱根駅伝がピークになっている印象がある。大学3年時のびわ湖マラソンで2時間10分02秒(学生歴代3位)をマークした出岐雄大が、「箱根駅伝以上の目標を見つけられなかった」と25歳で引退を決断したのも、非常に残念だった。

前述した日本ランキングトップ50に入っている現役の東海大選手らは、大学卒業1年目に東京五輪を迎える。筆者の取材に対し、その中のひとりはこう明言していた。

「箱根で優勝したい、という思いもありますが、個人としてオリンピックを目指せる競技力を4年間でつけていきたいんです」

■青学V4の“お祭り騒ぎ”の裏で、東海大の世界進出計画は粛々と

両角監督もこう語る。

「私はスピードのある選手を育てよう、という信念を持っていますし、本人たちの特長を伸ばすことを考えながらやっています。箱根では思うような結果を残せませんでしたが、スピードにこだわるという基本方針は変えたくありません。箱根で勝負するには、『速さ』にプラスして『強さ』を身につけさせていくしかないと思います。スピードのある選手はトラックを意識して、その他の選手たちは、夏から箱根用のトレーニングにシフトしていく。両者の力がうまくかみ合ったとき、箱根駅伝はおもしろいと思います」

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今年(2018年)は9月にアジア大会(ジャカルタ2018アジア競技大会)が開催される。現役の東海大選手は、その5000メートル競技などで日本代表を目指している。両角監督は、「狙える種目すべてで(日本代表)を目指します」と宣言している。“お祭り騒ぎ”の箱根駅伝の裏で、東海大の世界を目指す「プロジェクト」は粛々と進んでいる。

(スポーツライター 酒井 政人 写真=iStock.com)

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