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辻褄合わせで国民皆保険を延命してもいずれ限界は訪れる - 「賢人論。」第55回赤羽雄二氏(前編)

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米国のコンサルティング・ファーム「マッキンゼー」で14年間、経営改革に携わり、2000年からはベンチャー企業の共同創業、経営支援に取り組んできた赤羽雄二氏。その目に、超高齢社会を突き進む日本はどのように映っているのだろうか?日本人が「思考停止」を脱し、先進国に先駆けて超高齢社会の良きモデルケースをつくるための方法について語ってもらった。

取材・文/ボブ内藤 撮影/公家勇人

高齢化問題はいわば長寿時代の“肥満”問題

みんなの介護 まず、日本の高齢化と、それに伴う介護の問題について、赤羽さんはどのようにお考えですか?

赤羽 日本の高齢化と介護の問題は、日本人の平均寿命が延びることで引き起こされました。寝たきりの状態が長く続くことで、本人も家族もつらい思いをしているのではないでしょうか。

みんなの介護 たった半世紀の間に日本人の人生は20年も長くなりました。その劇的な変化に、私たち人間や社会の側がまだ対応しきれていないのでしょうか。

赤羽 人間が自らつくり出した社会問題であるという意味では、高齢化問題は「肥満」と似ていますね。人類がこの世に生をうけてから数十万年の間は、常に食べ物が足りない状態が当たり前だった。そんな環境を生き延びるため、人類は少ない栄養を体内に溜めておく機能を獲得してきたのです。

ところがこの数十年、飢えることがほとんどなくなったことで、今度は逆にその貯蓄機能が「肥満」の問題を生むことになってしまいました。

みんなの介護 人類が発展し暮らしが豊かになったことで、皮肉にも、高齢化や肥満など新たな問題が発生してきている、ということですね。特に日本では高齢化問題が深刻ですが、その解決は可能なのでしょうか?

赤羽 ある程度は可能だと考えています。例えば、介護の現場では排泄介助、いわゆる“下の世話”が一番大変ではないでしょうか。介護をする側にとっても、される側にとっても嫌なことですから、深刻な人手不足に悩まされていると思います。

中にはそうした労働力を外国人に頼るべきだという主張をする人がいるようですが、私はむしろ機械化、ロボット化を急いだ方が良いのではないかと考えています。日本人はやはり外国人をあまり得意とはしていませんし、「安価な労働力なのだから、下の世話をお願いしても良い」ということでもないと思うのです。

みんなの介護 介護労働は、すんなり機械化できるものでしょうか?

赤羽 技術的には、機械化がそう遠くないところまで来ていると思います。もちろん完全ではありませんが。あるベンチャー企業が、超音波センサーで排尿や排便のタイミングを予測するデバイスを開発したという記事が確かありました。排泄介助が必要な時間を予測することができれば、機械化に移行する前でも、効率的な対応をすることができるようになっていくと思います。

みんなの介護 しかし、介護をロボットにやらせるということに抵抗感を抱く人も多いのではないでしょうか?

赤羽 その機械が良いものであれば、抵抗感などはすぐになくなっていくでしょう。ウォシュレットなども一気に広まりましたよね。それと同じことです。

介護の負担を大幅に減らすことのできる機械は、十分開発可能です。行政からではなく、「吉野家」の牛丼や「ユニクロの服」のように、市場のニーズの要請から広がっていくことが望ましいと思います。

みんなの介護 しかし、介護を受ける本人は納得したとしても、家族が機械介護を受け容れないケースも多いのでは?

赤羽 そうでしょうか。むしろ家族は、介護が楽になるので喜ぶのではないでしょうか。また、私は「家族だから介護すべきだ」という考えにはそれほど賛成できません。というより「できることなら、家族が無理に親の介護をしないほうがいい」とさえ考えています。

例えば、先に述べた排泄介助はプロの介護士でも大変な作業ですから、家族がやるとなおさらきつい。家族はその人の元気な頃を知っていますから、自分ひとりで用も足せない状態になっているのを見ると、つらいですよね。

私は、家族だからと言って無理に介護をするのではなく、負担を減らす方法を本気で開発し、介護離職、介護自殺、介護殺人、介護離婚などをなくしていくべきではないかと考えています。


深刻な問題を先送りにしてきた日本人

みんなの介護 日本は先進国の中でいち早く高齢化を迎え、医療や介護をはじめとする制度づくりに取り組んでいますが、世界に誇れる超高齢社会のモデルをつくることはできると思いますか?

赤羽 可能だと思いますが、ただ“日本人の考え方”がその障壁になってしまうかもしれません。例えば、私は、人間には自分で死ぬ時期を決める権利があるのではと思っています。しかしこの考え方に同意してくれる日本人はそう多くなさそうですよね。一部の国や州では「安楽死」の権利が認められ、幇助(ほうじょ)自殺が合法化されていますが、日本ではまだまだです。

みんなの介護 なぜ、日本では安楽死が議論されないのでしょう?

赤羽 「面倒なことはあまり議論したくない」という日本人の資質が、そうさせているのだと思います。胃瘻(※いろう。胃に穴を開け、チューブで栄養を補給する医療技術)に象徴されるように、日本人は人間の尊厳を真剣に議論するよりも、過剰な延命治療に頼って問題を先送りにしてしまいがちなのです。

もし家族が決意して、患者の延命装置を外そうとしたらどうなるか。きっとその家族は、世間から非難されるでしょうし、それに関わった医師や医療機関のスタッフもまた何らかの罪に問われるでしょう。それが日本という国の現状なのです。

みんなの介護 そうした日本人の気質は、そもそもどこから生まれたのでしょう。

赤羽 少なくとも、ここ数十年といった短期間ではなく、長い歴史の中で培われたものだと思います。農耕民族であり、島国で外国からの影響をそれほど受けてこなかったこと、ムラ社会だったことなど、さまざまな環境要因があります。

もちろん、それには悪い面だけではなくて、良い面もあります。海外の国では、権力に対する民衆の不満や怒りが溜まったとき暴動や革命が起こりますが、日本ではそれに匹敵するような、根本から秩序をひっくり返すほどの動きはあまり起こっていません。

地震で大変な状況のときにも互いのものを奪い合ったりせず、きちんと列に並んで人に迷惑をかけないようにする日本人の姿は、海外で驚かれましたよね。日本人は、他国の人からすれば不思議に思えるほど平和的で穏やかな資質を持っていると私は考えています。

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