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不動産を「負」動産にしないための相続税対策 - 中西 享

 2015年から実施された相続税の増税により相続税の課税対象になる人が大幅に増加、土地家屋などの遺産をめぐって相続税対策への関心が高まっている。国税庁によると、課税対象となる相続人数は、15年には前年の5万6000人から10万3000人とほぼ倍に増えた。16年は10万5880人で前年より2.8%増え、しばらくはこの傾向は続くとみられる。一昔前は相続税というと一部のお金持ちだけの悩み事だったが、相続税増税で対象者が一気に拡大、庶民レベルでも対象になるケースが続出している。

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税理士と宅建士が一緒に相談


木下氏

 これまで相続税は税理士に相談し、不動産の有効活用は不動産屋に相談するケースが多く、どちらかというと、目先の相続税負担を減らしたいために、無理をして不動産の価値を下げて売却してしまったり、節税対策でアパートを建設して思うように家賃が入らなくなる事例が多かった。

 地方の場合、高齢化により農業の担い手がいなくなり、耕作されなくなった農地を相続するケースが増えており、相続人にとって相続税負担を減らしつつ、相続した不動産を老後の安定した収入源になるようなアドバイスが必要になっている。

 そうしたニーズにこたえるべく税理士と不動産プロの2人がタッグを組んで今年9月に日本で唯一の「不動産の組み換え専門会社」の「ファルベ不動産」(東京都中央区)を設立した。税理士と不動産という異なる分野のプロフェッショナルが不動産相続ビジネスを支援することを目的に会社を作るのは初めてのことだという。

問い合わせ急増


石川氏

 「相続税を減らそうと思うあまり、不動産の価値を大幅に減らして損をしているケースが多い」と話すのは税理士の木下勇人さん(42歳)。「税理士は不動産ビジネスの知識がないので、不動産の価値を生かせていない」と指摘するのは不動産相続コンサル事業を展開してきた宅地建物取引士でファルベ不動産の石川真樹社長(45歳)。この2人の思いがマッチしてできたコンサル会社が相続税対策で困っている相続人にワンストップで不動産の価値を最大にできる資産承継の提案をしている。

 相続税は、2015年1月からの税制の改正により、相続税の非課税部分の基礎控除が4割近くも引き下げられた。さらに人口の減少により法定相続人が減っている。この2つに理由から相続税を払わなければならなくなった人が急増、本屋には相続税の対策本があふれ、税理士には問い合わせが殺到した。25年には団塊の世代が75歳以上となり、これから相続案件がさらに増えるとみられている。

石川社長が木下さんと出会ったのは2年ほど前。石川社長が主宰した税理士向けの不動産セミナーに木下さんが講師を依頼されたのがきっかけだった。その後、お互いに税理士、宅建というプロの立場から不動産について話しているうちに、目指す方向性が同じだと分かり、共同で会社を設立することになった。

相続税対策で困っている地主さんを救う手助けをしていきたいが、それにはまず地主さんから相談を持ちかけられている税理士のマインドを変えることが必須と考えた。全国各地の税理士向けセミナーを数多く開催し、相続税の節税になり、かつ相続する不動産の価値を最大にできる独自の提案をしたいという。

被相続人の推移(国税庁資料より)


本末転倒

 土地、不動産を遺産相続しなければならなくなった時に相談するのが地元で開業している税理士だ。税理士は相談に来た人の要望を聞いて、できるだけ相続税がかからないような方法をアドバイスする。しかし、木下さんは「税理士だけに相談をしていると、相続税は安くなっても、相続税のことしか考えていないため、肝心の不動産の価値を大幅に下げてしまい本末転倒になることがある」と説明する。

 遺産分割して土地の評価額が大幅に低下した失敗例がある。東京都内にある1500平方㍍の土地(時価評価額約1億5000万円)に長男と次男が土地を賃借していた。賃借していた土地が土地の中央部分と左側部分だったため、売却できる土地はコの字型となってしまった。これでは小さなアパートしか建てられないため、不動産としての価値が下がってしまった。相続後のことは何も配慮されていない遺産分割による失敗例。

 では、この例ではどうしたらよいのか。長男と次男の土地を右側に一緒にまとめ、1000平方メートルのまとまった土地にすることで、面積は減るものの、高い価格で売却することができる。多くの税理士は不動産について素人なため、長男と次男の土地をまとめることで売れる不動産の価値を最大にするような提案はしてくれないし、そもそもできない。

 石川社長は、相続する郊外の不動産と都心の不動産を組み替えることで、不動産の価値を上げることができるという。例えば、生前に相続した郊外にある不動産を2億円で売却して、自己資金2億円と借入金3億円で都心部の収益物件を5億円購入し、相続後に5億円で売却(相続税評価1億5000万)すれば、相続税、借入金を完済しても5000万円は手元に残る勘定になるという。 

 不動産の組み換えノウハウを持った「ファルベ不動産」ならではのやり方だ。同社が目指すのは、不動産の価値を最大にすることで、「負動産」になりがちな不動産を、文字通り「富動産」にすることだという。

アパート経営は立地次第

 木下さんはこの数年、ブームとなっている相続税対策として相続した土地に借金してアパートを建てる提案には、立地場所がよほど良い場合を除いて、乗らない方が良いとアドバイスしている。


相続する土地にアパートなど賃貸住宅を建設すると不動産としての評価額が10~20%下がり、建設のために借金をすると相続税評価額から差し引かれるため、相続する土地を使ってアパ-ト経営をすることが相続税対策としてこれまで盛んに推奨されてきた。相続人は建てたアパートから家賃収入が得られるためアパート建設資金を返却して、安定した老後資金が確保できると考えて、勧められるままに簡単にアパート建設計画を決断するという。

 遊休農地の多い地方の場合、金融機関が低利で住宅資金を融資してくれることもあって同じようなアパートを建てるケースが多く、結局、アパートが過剰になり家賃が次第に下落、思うような家賃収入が得られなくなる。最悪の場合、借りた建設資金が払えなくなり、アパートを二束三文で売却しなければならなくなる事例があるという。

 国土交通省の発表によると、相続税の基礎控除額が下がった15年ごろから賃貸住宅の建設が増加傾向になり、16年もこの傾向が続いた。しかし、着工数の増加ほど入居需要が増えていないのが現状で、16年3月時点では首都圏では空室率が東京23区内は33・68%、神奈川は35.54%、千葉は34.12%と、いずれも過去最悪の水準になっている。

 一部の税理士などは、相続人がアパートの建設決めると建設会社から紹介手数料がもらえるインセンティブがあるため、積極的に建設会社に紹介しているが、アパート建設はこの数年供給過剰になり空き家が増加、必ずしも相続人の安定した収入につながらないという。相続税対策としてアパート経営をする場合は、将来的にしっかりとした見込みのある収入プランと建てた上でないと、相続した不動産が「負動産」になってしまう。

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