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はぐれライオンは美しい~ひきこもりと小室氏の「孤独」

■小室哲哉氏が引退

小室哲哉氏が引退するのだそうだ。引退会見で見られたその「疲れ感」「孤独感」に対して、多くの同情的な意見が投稿されている。よくまとまっているのはこの記事(小室さんを蝕んだ「介護者の孤独」の深刻度)だが、この記事も含め、介護者や高齢者が陥る「孤独」は悪いことだという論調は共通してる。

もっともな議論ではある。

だが、孤独に苛まれながら、実は「孤独以外(自分以外の人々に囲まれる環境)」より孤独のほうがまだマシと捉える人々もいると思う。

それはたとえば「高齢ひきこもり」であったり、現在ひきこもってはおらず非正規雇用の立場であっても、「誰か」といっしょに住むことに耐えられない人々を指す。

僕の日々の仕事の実感からも、これらは一定数いるように思える。

これは何も「若さゆえの強がり」というのでもなく、「人間がわずらわしい」というよくある感覚が年をとるにつれ強くなる人々のことを指している。孤独と人間関係の悩み(あるいは不確かさ)を天秤にかけた時、「まあ孤独のほうがなんとなく楽」という層もかなりの数で存在しているのでは? という問いだ。

もしかすると、小室氏自身もその心理の底の底ではそうなのかもしれない。まあ著名人のことは置いといて、僕が日常的に接するひきこもり経験者(真の当事者というよりは元ひきこもりの人々)は、誰か友達がほしい恋人がほしいと切実に願いながらも、そうした自分以外の親密な他者がずっとそばにいる事態(つまり「家族」の形成)になると、その濃密な人間関係に息が詰まる耐えられないという人々も少なくはない。

一方で恋人を求めながら、その関係が24時間永久体制になるととても耐えられない。

こうした人々は、日本社会には一定数いるのではないだろうか。

■「孤独に悩みながらも他者介入よりはまだマシ」

実は、この僕もそう。ただ僕は現在53才で、幸いにも70才台にまで生き延びることができたとして、その年になって感じる「孤独」はやはり耐え難く、結局は他者を欲するようになるかどうかはわからない。

おそらく現実は、「寂しいけれども一人も好き」程度のファジーな感覚で、基本は一人で暮らしながらも時々濃密な関係の中で数日過ごすという日常を選択すると思う。現在の僕の日常も結果的にそうなっており、それは実に快適なことから、ひきこもり経験者やひきこもり当事者をもつ親たちには、「孤独」と「家族」を上手にミックスさせる方法を僕は提案している。

このように、「孤独を愛しながらも孤独ばかりでは寂しい」あるいは「家族はうっとおしいけどそれがまったくなくなると寂しい」といった、孤独ばかりでもない家族ばかりでもない生き方も選択できると、より「自由」は広がる。

ただ現在は、「孤独に悩みながらも他者介入よりはまだマシ」な声が潜在化されてしまっている。

孤独もそれなりにいい。孤独という生き方を選ぶ人も一定程度存在する。その事実を社会はなかなか認めずに、他者に囲まれ他者とコミュニケーションする人生を「よりよいこと」として上に置く。

そう位置づけるほうが安心できる。

■孤独を忌避する価値は、同時に家族や子孫や遺伝を肯定する価値とつながる

誰が安心するかというと、もちろん日々「家族」で苦労する多くの人々、いわゆる「一般」の人々だ。

誰もが他者を求めるというある種の物語はわかりやすく、それは「人間」を定義する際に我々を安心させる。人間は孤独の中では生きられず、常に他者を求める存在であり、それは家族を形成し子孫を残していくことになる。

孤独を忌避する価値は、それと同時に家族や子孫や遺伝を肯定する価値とつながっている。同時にそれは、家族を形成できない人や孤独のなか生涯を終える人を「悪い人たち」と位置づけ、そうした孤独ライフにいる人々を「悲しい日常」としてイメージ化していく(たとえば小室氏の引退会見の「涙」)。

そうしたイメージや表象のなかでは、たとえば動物のテレビドキュメンタリーなどでたまに目にする「はぐれオスライオン」や「はぐれオス猿」の生き方は、「失敗」した生き方になる。

■はぐれライオンは美しい、はぐれ猿はカッコいい

はぐれライオンを脱落した生・失敗したライフとして位置づけ、それは同時に、誰もが誰かを求める生き方が「正しい生き方」であるという価値を常に生み出す。

この価値が、「家族規範」の源泉のように僕には思える。

またこの規範が、ひきこもり的人生を批判する価値の底にある。

はぐれライオンは美しい。はぐれ猿はカッコいい。と我々はなかなか言えない。

孤独老人や高齢ひきこもりたちは、シンプルに「そりゃ寂しくはあるけれど、でもわりとマシなんだよ、ひとりの生活も」とどんどん言えばいいと僕は思う。そうやって「家族規範」を解体し、この窮屈な社会に風穴をあけてほしい。

SNSはそのためにある手段でもある。

まあいいずれにしろ孤独を忌避するマスコミやネットの論調が、「ネガティブな孤独」を日々創造し、「ポジティブな家族」という価値を日々固定している。

※Yahoo!ニュースからの転載

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