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野村克也氏が初めて語る「男おひとりさま」正月と真実の愛


【妻を亡くした今、野村氏は何を思う】


【常に寄り添ってくれた妻はこの世を去った(写真:女性セブン)】

 球界きっての名捕手・名将が世間を敵に回してまで寄り添い続けた“個性的すぎる妻”は、夫より先にこの世を去った。野村克也氏(82)は40年ぶりに過ごす妻・沙知代さん(享年85)のいない日々に、何を感じているのか──。

◆「先に逝かれるとはね……」

「男は弱いものだと実感してるよ」

 取材会場となった都内のホテルのレストランに現われた野村克也氏は開口一番、こうボヤいた。妻との別れから1か月あまり。初めてロングインタビューに応じた野村氏の心には、大きな穴がポッカリと空いたままだ。

「いるとうるさいと思うけど、先に逝かれると寂しくて仕方ない。本当に男は勝手だよ。ああ見えて料理が上手で、正月はいつもおせちやお雑煮を作っていた。それが今年の年始は祝い事が一切なくて誰も来ないから、家でずっと一人でテレビを見ていた。あれほどお通夜みたいな正月は生まれて初めてだったよ」

 妻・沙知代さんが亡くなったのは昨年12月8日。死因は虚血性心不全だった。

「サッチー」の愛称で親しまれた沙知代さんは、1970年に南海ホークスの選手兼監督だった野村氏と知り合い、1978年に結婚。タレントとして歯に衣着せぬ発言で物議を醸し、浅香光代(89)との確執が「ミッチー・サッチー騒動」として世を賑わせた。

 毀誉褒貶が相半ばする女性という印象が強いが、野村氏にとっては頼れる女房だった。

「世間からは『悪妻』と言われたけど、いなくなってわかることも多い。去年あたりから2人で死について話すようになっていて、『俺より先に逝くなよ』と諭した時に何の返事もしなかった。普通なら『そうだといいね』とか返しそうなものなのに。彼女は俺より年齢が3つ上だから、『私のほうが先』と思っていたのかもしれない」

 この日、取材が行なわれたレストランは、野村氏が楽天の監督を退任した2010年以降、夫婦2人で毎日のように食事をしてきた思い出の場所だ。突然の別れが訪れたのも、いつもと同じこの席で食事を楽しんだ翌日の昼下がりだった。

「家のテーブルに女房が突っ伏していたから、背中をポンポンと叩いて『おい、大丈夫か』と声をかけると、いつものように強気な口調で『大丈夫よ』と返ってきた。それでも様子がおかしいから救急車を呼ぶと、そのまま意識を失ってあっけなく逝ってしまった。人間の一生はこんな簡単に終わるのかと思ったね」

 長年連れ添った妻が、先に逝く──選手・監督として緻密なデータに基づいて実績を重ねてきた野村氏にとっても想定外のことだったという。

 ◆「電気をつけたまま家を出る」

 妻がいなくなった広い邸宅に、野村氏はひとりで暮らす。敷地内に息子・克則氏の一家の住む建物もあるが、息子夫婦がいつも野村氏の側にいるわけではない。

「克則の嫁が朝昼兼用のブランチを運んでくれるけど、夕食まで厄介になるわけにはいかない。基本的に夜は外でひとりで食べている。誰か一緒に食ってくれる人を紹介してくれないかなァ」

 寂しそうにボヤく。沙知代さんがしていた身の回りの雑務は、なるべく自分でこなす。

「掃除などはお手伝いさんに頼んでいるけど、風呂の湯を入れるくらいは自分でやっている。お茶だってポットの湯を注いで自分でいれているよ。洋服は昔から自分で選んでいたからこれまで通り。ただ、前は2階で服を着て階段を降りたら、女房に『何よ、その恰好は』と言われる時があった。もう一度2階で着替えて、彼女が黙ったら“その服でOK”ということになる。今日の衣装は初めて克則が選んでくれたよ」

 妻に任せきりで「家のどこに何があるかサッパリわからない」という夫は多い。野村氏もその一人だ。

「いちばん困るのは、お金のありかがわからないこと。もともと評論家のギャラはすべて口座振り込みで、女房に『お金の管理は大丈夫か』と聞いても、『ちゃんとしている』と言うだけ。いきなりいなくなってしまうとお金がどこにどれだけ入っているかもわからない。銀行に聞いても個人情報とかなんとかでなかなか教えてくれない。克則が調べてくれているけど、難儀な世の中だよ」

 ユニフォームを脱いで以来、野村家のお金はすべて沙知代さんが管理し、野村氏はほとんどカードで用立ててきたという。

「女房に『現金をくれ』とせがむと、『カードがあるじゃない』と断わられるんだ。それでも食い下がると、『どうせ女でしょ』って。図星なんだけど、『その通りです』とは言えないから、諦めるしかなかった(苦笑)。あと、俺はすぐ時計や洋服を買ってしまうからガミガミ叱られたよ。怒る人がいなくなると買う気がしなくなるから不思議だね」

 そう話す野村氏が「妻の不在」を最も実感するのは帰宅時だ。

「深夜の1時や2時に帰っても起きていたからね。『先に寝ろよ』と言っても必ず起きて待っていた。あれが“愛”なのかもしれない。でも今は家に帰っても誰もいない。とくに、冬だから家の中が冷え切っていて、ものすごく堪える。帰宅して真っ暗だと寂しいから、電気をつけたまま家を出るんだ」

 インタビュー中、野村氏は何度も「この取材が終わると誰もいない家に帰るんだから憂鬱だよ」と呟いた。

※週刊ポスト2018年2月2日号

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