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過度に平等を重んじるせいで介護士のランク付けなど優れたアイデアが実現できない - 「賢人論。」第53回八代尚宏氏(中編)

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学芸会では全員が主役、徒競走は手をつないでゴールする。“みんな平等”という雰囲気が強い日本社会では、競争や格差は疎んじられがち。「平等こそが何よりも尊く、常に最優先されるべきもの」―混合介護もまた、そんな誹りの中で実現を先延ばしにされてきた。だが一見“不平等”に見える制度によって、初めて守られる“平等”もあるのではないか。経済学者・八代尚宏氏が“お役所的”すぎる介護保険制度に待ったをかける。

取材・文/佐藤 舜(編集部) 撮影/公家勇人

ブレークスルーを促す「ノーアクションレター」とは

みんなの介護 みんなの介護 前編「混合介護を解禁することで利用者にメリットがあるばかりか、介護士の待遇改善も期待できる」では、混合介護が実現されないことにより生じている弊害の数々を紹介していただきました。それでもまだ、混合介護に対して抵抗感を覚える方も多いようです。

八代 従来のやり方に慣れているので、変えることが面倒なのでしょうね。民間でも小規模な事業者だと「ヘルパーの間に賃金の差を設けると、険悪な雰囲気になる」との反対論がある。しかし、規制緩和は選択肢の拡大であり、混合介護を取り入れないことにすれば良いだけです。

介護に限らず、過度に平等にしたがるのは日本の悪いところです。余談ですが、学校教育もそうです。今、塾に行っている子どもは多い。でも塾の費用はかなり高い。そこで藤原和博さん(※「賢人論。」第25回に登場)という校長先生が始めたのは、放課後、塾の先生を呼んできて学校内で補講を行うというものだった。すると設備費が必要ないので、費用が半分になり、これまで通えなかった子供も役に立つ授業を受けられるようになった。

それに対して教育関係者は「神聖な学校の中に格差を持ち込んだ」と反対した。そういう原理主義的な考え方が、むしろ教育の機会を制限することにもなります。

みんなの介護 反対の声を受けながらも、来年2018年から豊島区では混合介護のモデル事業が始まることが決定しました。介護業界にとって大きな転機となるでしょうか。

八代 保険内と保険外の区分を明確にするという第一段階までは、スムーズに進むものとみています。今は豊島区がサービスの区分を現場でつくって提出、厚労省にYESかNOの判断をしてもらう、という進め方で動いています。

こういったルールづくりは普通、厚労省側がやるものなのですが「明確にしてください」とお願いしても「今でも十分だ」などと言われて、なかなか動いてくれない。

みんなの介護 厚労省に判断を丸投げするのではなく、現場が主体となって規制改革を動かしている、と。

八代 これは金融機関が金融庁に対して提出する「ノーアクションレター」という仕組みに近いもので、規制改革のひとつの手段なんです。

「こういうサービスをやりたいのですが、どうでしょう」と訊かれたらさすがに向こうは答えなければいけないわけですから、新しいビジネスモデルのブレークスルーが進みやすくなる。他の自治体もそれに倣っていけば、だんだんひとつのルールができ上がっていきます。

このシステムの利点はもうひとつ、事業者のリスクもなくなるところ。一番困るのは、新しいことをやってみた後に厚労省から違反だと言われ、ペナルティを受けることです。そういったさまざまな縛りが強いせいで「アイデアはあるのに実現できない」というケースが多々あるそうです。


混合介護の解禁で「介護のIT化」も視野に

みんなの介護 ”第一段階は”スムーズにいくとのことでしたが、反対に、議論が難航しそうなものもあるのでしょうか?

八代 前編「混合介護を解禁することで利用者にメリットがあるばかりか、介護士の待遇改善も期待できる」でも話した「介護士の指名システム」と、それから「混雑料金システム」でしょうか。

みんなの介護 「混雑料金」というのは、利用者が集中する時間帯の利用料を割増する仕組みのことですね。

八代 例えば夕飯なら、できれば17時~19時の晩飯時までにつくってもらい、温かいうちに食べたい。だからその時間帯はどうしても混雑してしまうものですが、あまりに集中すると事業者としても対応しきれない。そこへ「混雑料金」を導入し夕飯時の料金を少し高めに設定すれば、払いたくない人は自然に別の時間帯へ流れてくれるので、利用時間を分散できます。

これも「不公平だ」と言われがちなアイデアですが、かといって現行のような先着順にしておいても、いわば「暇な家族が有利になる」というような別の不公平も生じてしまう。価格のメカニズムを制度の中に入れていくことで解消できる問題は多いのです。

みんなの介護 その他、混合介護の導入で介護サービスはどう変わるでしょうか。

八代 ITの導入も進むかもしれませんね。介護報酬の枠組みの中で認めてもらうのはまだ難しいとしても、混合介護の解禁によって、保険外サービスの一環として活用される可能性が大きい。高齢者の見守りをITでできるようになったら、それに派生して各企業がいろんなアイデアを出せるようになります。

そうすれば、もっと事業の可能性が進んでいく。とにかく、まずは介護をひとつの“産業”として認めてほしいですね。今は“福祉政策”の枠の中でやっているので、どうしても画一性が優先され「政府が公的に提供するもの」というイメージが強いのです。

みんなの介護 民間事業者に任せると、安全性やサービスの質の面で不安…という意見も多いのではないでしょうか。

八代 悪質な事業者は市場原理で淘汰されていきますから、その点は心配ないと私たちは考えています。その代わり、判断の難しい部分はケアマネジャーが保険外介護をしっかりとモニタリングし、不当なことをやってないかどうかきちんとチェックする必要があります。現在ケアマネは公的な方面に特化してしまっていますが、民間の介護についても今以上に知識が求められるようになる。

となれば、今後はケアマネ自身もスキルの優劣が問われるようになっていくので、介護士と同様、ケアマネの指名制度のようなものも始まっていくのではないでしょうか。「カリスマ美容師」がいるように、そのうち「スーパーケアマネ」のような人が出てくるかもしれません。

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