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【映画評】倒錯したお姫様願望の哀歌「勝手にふるえてろ」

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映画公式サイトより

喪女24歳、倒錯したお姫様願望

勝手にふるえてろ (文春文庫)

勝手にふるえてろ (文春文庫)

綿矢りさの同名小説の映画化「勝手にふるえてろ」は、女優松岡茉優の魅力がさく裂したラブコメの快作に仕上がっています。

彼氏なし歴=年齢のOLヨシカは北国から上京して一人で生きる独身OL。今も、10年前から片思いするイチ(一番好きの意)への思いを抱いている。周囲と上手くつながることのできないヨシカは、「視野見」(ヨシカの造語で、視野の端のほうで悟られないように対象をとらえる能力(?))で記憶した10年前のイチをネタとする脳内妄想と、絶滅した生物=環境に適応できなかった存在に自分を重ねるかのように愛でることを、生きる糧にしています。

学生時代にほとんど交流のなかったイチを思い続けるヨシカ。そこに倒錯したお姫様願望があることは言うまでもありません。

同級生らの話題の中心のイチ。そんな彼を私だけが見ていない(本当は見ているけど)。通常であるならば、そんな奴を覚えているわけねえだろと思うのが常識的な考え方ですが、彼女はちがいます。他と違うという厨二病的美意識も相まってか、その唯一性一点においてイチとは今も心からつながっている――そうした超論理が彼女の中で成り立っている。

中盤で明らかになる「映像的偽証」と都市生活者の不安

けれどヨシカは、直視を恐れ「視野見」をし続けるかぎり他者との関係は開けないことを痛感せざるをえない出来事にあいます。相手を見ないかぎり、やっぱり道は開けないのです。

ここで映画は「映像的偽証」といえるトリックで、観客をあっと思わせます。冒頭から邦画にありがちな「他人との距離がやたらめったらに近い会話劇」(その最たる映画が「阪急電車」です…。)が気に入らなかったのですが、本作においてはそれが効果的な伏線であったことがわかります。小説の単なる映像化ではない、「映像でしかできない嘘」が使われています。巧みです。

自身の孤独を歌うヨシカのミュージカルは中盤の山場です。でもこれは全然他人事じゃない。匿名性が担保されて一見生きやすい都会ですが、それは反面、誰にも目を向けられないさみしさとコインの裏表の関係になっている。「視野見」を続ける限り、誰かとともに生きることはできないのです。

ニ=渡辺大知のウザかわいい演技がイイ

そんなヨシカにしつこく言い寄ってくる二。彼はヨシカにとって二番手にしかなりえません。どことなく無神経で、人の心の居間とは言わずとも玄関のマットレスまでは土足で入ってくるあの無神経な感じ? 二を演じる渡辺さんの演技が最初は本当にうざい! 見ながらも俺の松岡さんにちょっかい出すな!シッ!シッ!という気持ちに本気でなりました。

けれど、イチが無理筋だと徐々にわかってくると、相対的にニがよく思えてくる。不思議なことに二のしぐさに可愛げが感じられるようになってくるのです。観客側もヨシカと一緒に「二って意外といいやつじゃん…」という気持ちになってくる仕組みです。

ただし、ヨシカは未経験。処女であるからこそ謎のプライドが恋を邪魔をし、あらぬ方向に暴走を始めるヨシカ。果たしてニとの恋の行方は? 恋愛映画史上でも類をみない、「窮屈そうな格好のラストシーン」をお見逃しなく!

清水富美加が去ったポジションを埋めつつある松岡茉優

もうね、松岡茉優さん=ヨシカさんの一挙手一投足が可愛い。ヨシカが仕事から帰って部屋着に着替えて、ネットサーフィンしてる光景だけでおいしくいただけます。実名SNSでがっつり同級生になりすまして同窓会を開くところなんて、軽く狂気入ってますけど、逆にイイ! それも、イチに接近したいという恋心があるからこそなせるわざなのです。

松岡さん、出家した清水富美加が埋めかけていた若手コメディエンヌ枠を確実に、しかも清水よりも一般受けしやすい形で埋めようとしかけています。これからどんどん出てくるんじゃないでしょうかね。この先出家するようなことがあったとしても、映画には出てほしいなあ。

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