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【読書感想】ドラえもん物語 〜藤子・F・不二雄先生の背中〜

ドラえもん物語 ~藤子・F・不二雄先生の背中~ (てんとう虫コミックススペシャル)
ドラえもん物語 ~藤子・F・不二雄先生の背中~ (てんとう虫コミックススペシャル)
作者: むぎわらしんたろう
出版社/メーカー: 小学館
発売日: 2017/08/28
メディア: コミック
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内容紹介
大人が泣いた! 藤子F先生の真実の物語!

ドラえもんを生み出した漫画家、藤子・F・不二雄先生と、ドラえもんが大好きで漫画家を志した青年の感動の物語が、ついに単行本化!
藤子・F・不二雄先生の最後の弟子、むぎわらしんたろう先生にしか描けない藤子F先生の知られざる素顔を、初公開となる直筆資料を交え描き出す!!

月刊コロコロコミック創刊40周年記念作品として前後編で発表されたものに大幅加筆! また、作中に登場する藤子F先生の手紙など貴重資料も特別掲載! さらに藤子F先生の大長編下絵イラストポストカード付録など、豪華企画もりだくさん!
掲載時、コロコロ読者はもちろん、そのコロコロを読んだ大人たちが泣いたと絶賛の感動物語が、いよいよ登場!! 今よりもっとドラえもんが愛おしくなります。

 価格のわりに、ページ数少ないなこれ……
 などと思いつつ読み始めたのですが、十分濃密な「藤子・F・不二雄先生の物語」だと思います。
 ページ数を増やそうとして、伝聞のエピソードを加えたり、「美談」を強調したりされておらず、藤子・F・不二雄先生に憧れて漫画家を目指し、晩年のチームアシスタントをつとめていた著者は、「自分自身で見た、聞いた、体験した藤子・F・不二雄先生の姿」をなるべくそのままマンガにしています。鞄や湯呑みのデザインも当時のものを再現し、アシスタントへの指示の文字もそのまま載せているそうです。

 F先生というと、ベレー帽をかぶった姿が思い浮かぶのですが、著者によると、取材のときだけかぶっていたのだとか。ふだん、ベレー帽をかぶっていないと、周囲から気付かれにくかったそうです。

 この作品を読んでいると、F先生は、几帳面で自分自身の作品に妥協しなかった人であることがわかります。
 川崎市の藤子・F・不二雄ミュージアムに再現されている先生の仕事場をみると、ものすごい資料があることに驚かされます。F先生は、作中に出てくる名も無い植物ひとつにしても、ちゃんと考証していたそうです。

 そして、先駆者として、「人を育てる」ことも強く意識していたことが、著者への接し方から伝わってきます。
 仕事の空き時間にはアシスタントだった著者が自分の作品を描くことを許可し、その内容をチェックし、詳しいアドバイスをつけて返してくれています。
 あんなに忙しかったはずの人なのに。

 このエピソードを読んで、僕は以前勉強に行った研究室の教授のことを思い出しました。
 世界的な権威であるその教授のところで、僕は論文を書いていたのですが、夜遅く拙い論文の下書きを持っていくと、ほとんどの場合、翌朝には、その下書きに赤が入って僕の机の上に置かれていたんですよね。
 それがまた、英語の固有名詞とandやor以外には、ほとんどなんらかのダメ出しがなされている状態で。
 あんなしろものを読ませてしまって、大変申し訳なかったなあ。
 とにかく忙しい人で、世界中を講演で飛び回っているというのに。

 教授は、「自分にとって、研究はもちろん大事だけれど、若い人を育てるのが一番の仕事だから、どんなに忙しいときでも、若手の論文チェックを最優先にする」と仰っていたのです。
 このマンガを読んでいて、そのことを思い出さずにはいられませんでした。
 教授は、役職名からして、いちおう、「教えることが仕事」なのですが(現実的には、そうじゃない人も少なくないのですが)、藤子先生は、本来、自分のマンガを描くのが仕事にもかかわらず、ここまでちゃんと「指導」していたのだなあ。

 同じように、たくさんのアシスタントとともに仕事をしていた(というだけでなく、遊んでもいた)赤塚不二夫先生が、アシスタントのアイディアや画力を徹底的に引き出し、利用して、自分の作品にしていたのと違って、F先生は、トップダウン方式というか、自分のやりかたをアシスタントに引き継がせるタイプの作家だったようです。
 どちらが良い、悪いというわけではなくて、それはもう、性格のちがいだとしか言いようがない。
 
 その結果、赤塚先生自身の全盛期はそんなに長くはなかったけれど、そのアシスタントからはたくさんの人気漫画家が生まれ、F先生のアシスタントからは、有名な漫画家はそんなに出てきていないけれど、『ドラえもん』は、1996年にF先生が亡くなられてからも、ずっと続いているのです。

 あらためて考えてみると、20年以上も本人が描いていない作品を、みんなが「藤子・F・不二雄の『ドラえもん』」だと認め続けているんですよね。
 『ドラえもん』を愛し、自分の名前が出ない仕事をやり続けている人がいる。
 いくらF先生に先見の明や普遍性があったといっても、20年前の人の感性には、限界があるはずです。
 それをアップデートしているのは、いまの『ドラえもん』をつくっている人たちなんですよね。
 子どもと一緒にアニメの『ドラえもん』を観ていると、僕が子どもの頃に観ていた、35年くらい前の『ドラえもん』とは、だいぶ演出が違っています。

 F先生が亡くなられる前、映画原作のチェックをした際に、藤子プロスタッフにあてたメモ書きのなかに、こんなコメントがありました。

・漫画家がベテランになると絵やアイディア創りのコツが解ってきます。この時が一番の危機なのです。ついつい楽に仕事しようとする。こうなるとあっと言うまにマンネリの坂を転げ落ちることになります。

 F先生ほどの「大作家」でも、「なんとなくコツがつかめたような気がして、ラクをしてしまおうとする」のを意識していたのだなあ。

 久しぶりに、藤子・F不二雄ミュージアムを訪れてみたくなりました。
 口下手で、コミュニケーションに不器用で、でも、優しくて、内面に広大な世界を持ち続けていた人だった藤子・F・不二雄先生。
 このマンガ、著者自身が体験し、知っていることしか描かれていない、誠実な作品だと思います。

fujipon.hatenadiary.com fujipon.hatenadiary.com

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